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リーゼの武器

翌日、結局リーゼはカノンと同じ部屋に泊まることになった。


昨日はもう部屋がいっぱいで、無理やりカノンの一人部屋に割り込ませてもらったのだ。


そして朝になって朝食を済ませたカノンとリーゼは町を歩いていた。


目的地は武器屋だ。


リーゼは元々メイン武器として刀、予備として片手剣を使っていたらしいのだが、奴隷にされた時に奪われてしまったようだ。


そして片手剣の方は汎用品で安物なので問題はなかったのだが、刀の方は問題があった。


この世界では剣は品質さえ気にしなければ比較的安価で買える。


一歩町の外に出れば魔物が闊歩する世界なので、一般の人でも武器を普通に持っているし、町の外に行くのであれば護身用として安物であっても持ち歩くからだ。


なので剣に関していえばだれでも買える。


ただし武器なだけあっていくら安いと言ってもある程度の値段はするので気軽に買えるものではないが、それでも一般人でも十分に買えるものだということだ。


それに対して刀とは、その製法のせいもあるのだが非常に高価だ。


そして、普通の剣に比べて扱いも比較にならないくらい難しい。


そのせいで刀というだけで高級品であり、一体いくらくらいなのかも想像できない。


なのでリーゼの望む刀が買えるかどうかは正直賭けだったりする。


「でもどうしてリーゼさんは刀なんて使ってるんですか?」


「親から刀を教えてもらったからかな?冒険者になるときも使い慣れてる武器って刀だったからその方が都合がよかったからね」


カノンの疑問に苦い顔で答えるリーゼ。


あまり聞かれたくないことなのかな?


「でも武器なら普通の安物の剣でいいよ?私お金ないし」


「お金なら出しますからちゃんとしたものを買いますよ!」


安物でいいというリーゼに対してそれを否定するカノン。


「ハクはどう思う?」


そこで俺に振ってくるのか……。


『まぁ、武器はしっかりしたものの方がいいだろう。アイリスみたいに素手で戦うわけでもあるまいし……』


アイリスのスキルは素手での格闘戦向きの物だった。


俺たちが見たことあるのは魔法を使う所だけだが、それでも近接戦闘は武器を使ってないのだろうか?


もしくはナックルなどを使用しているのか?


話がズレたが、武器をケチって命を危うくするつもりはない。


これは俺とカノンの共通認識でもある。


まぁ俺たちの場合は俺が武器の代わりも出来るし、そもそもカノンが接近戦、俺が魔法を担当しているだけで、もしそれを入れ替えてカノンが魔法、俺が近接戦闘をするのなら武器は必要ないわけだが……。


しかしリーゼの場合はそうもいかないのでしっかりとした武器を買うつもりだった。


幸い昨日の件でかなり稼いだので多少高いくらいの剣なら問題なく買えるはずだしな。































そんなわけで武器屋に着いたカノンたちは、武器屋に入った。


「……らっしゃい」


店の奥のカウンターにはなんともやる気のなさそうな青年が座っていた。


この時点で不安にはなるのだが、一応ギルドで評判は聞いてきたし大丈夫だろう……多分…。


店の中を見渡すと、所狭しと様々な武器が並んでいる。


大半は片手剣で、それ以外に数が多いのが大剣や短剣などだ。


戦斧や槍などは置いてはあるがあまり数はない。


剣に力を入れているのか……それとも需要に合わせているのか……。


そんな事より刀だ。


刀を探して店内を見渡すと、店の隅に一振りの刀が置いているのが目に入った。


『カノン、店の隅っこに一振りだけ置いてある』


「リーゼさん、あれ」


俺の言葉を聞いたカノンも刀を見つけ、リーゼを引っ張っていった。


店の隅で埃をかぶっている刀は、真っ白な鞘に納められたいかにも高級そうな代物だった。


「…………」


そしてなぜかその刀を見たリーゼは固まってしまった。


「リーゼさん?」


そんなリーゼの顔をカノンが不思議そうにのぞき込む。


「嘘?何で……」


『リーゼ、どうしたんだ?』


リーゼは暫し茫然とした後、口を開いた。


「これ、私の刀……」


「え?」


リーゼの口から出てきた言葉にカノンが驚く。


ついさっき、元々の武器は取り上げられたと聞いたばかりなのだ。


それがこんな場所にあるのだし当然か。


『間違いないのか?』


もしかしたら勘違いという可能性もわずかにある。


しかしリーゼは俺の言葉に首を横に振った。


「ううん、これは私の刀で間違いないよ。分かる」


やはり長年使ってきた武器というのは分かるものなのだろうか?


「……金貨10枚か…」


ふとカノンの声が聞こえた。


どうやらこの刀の値段らしい。


金貨10枚……日本円にすると100万円相当の金額だが、カノンは何のためらいもなくその刀を手に取った。


「え?カノンさん?」


「これ買いましょう」


『ついでにこいつの仕入れルートも聞き出すか?』


いざとなればアイリスや衛兵団に出張ってきてもらえばいい。


むしろ衛兵団にしてみれば違法奴隷に関わりのあった者を捕えるチャンスになるかもしれないし、呼べば直ちに来てくれる気がする。


しかし疑問が残らないわけでもない。


昨日潰した商会はそれなりに大きかったわけだが、そんな商会が態々ギルドが勧めるような武器屋に奪った武器を卸したりするのだろうか?


しかしそんなことは聞けば教えてくれるか?


もし聞いて駄目なら強硬手段だ。


「すみません。この刀なんですけど……」


そんな事を考えている間にもカノンはカウンターに座っていた青年に刀を差す出す。


「ん?これは金貨10枚だよ?お嬢ちゃん払えるの?」


青年は少し馬鹿にしたように値段を告げる。


まあカノンはどう見ても子供だし、リーゼも一応奴隷だった時から服は着替えていると言っても冒険者には見えない格好だ。


金があるようには見えない。


「…これでいいですか?」


カノンは青年の言い方を気にするでもなく、収納から金貨を10枚取り出してカウンターの上に置く。


「え?…あぁ…だ、大丈夫だ……」


金貨を見た途端青年の顔色が変わって口調も怯えたようになった。


「?」


それを見たカノンがわずかに首を傾げる。



「いや…何でもない…」


なんでもないと言いつつ怯えたような口調は変わらない。


「所で、一つ聞きたいことがあるんですけど……この刀ってどこで仕入れたんですか?」


カノンがそう聞くと男は気まずそうな顔になった。


「え?んー、仕入れは親父がしてるんだ。だからそれは分からないんだ。その親父も何日か帰ってないしな……」


それを聞いてカノンの顔色が変わった。


帰っていない……まさかとは思うが昨日の一件で捕まったのではあるまいな?


「あ、心配しなくても大丈夫だ。いつも武器の素材を取りにふらっと出てくんだ」


カノンの表情を見て慌ててそういう青年。


なるほど、そういうことか……。


「どうします?」


カノンはそう言ってリーゼを見る。


「そこまで頑張って探さなくてもいいかなって思ってる。この子も帰ってきたし」


リーゼの言葉を聞いてカノンは頷くと、青年に一礼してから店を出た。


しかしなんだか気になる。


どうにかして探ってみた方がいいのだろうか?


「あ、リーゼさん、これ…」


カノンは思い出したようにリーゼに刀を差しだす。


それを受け取ったリーゼは刀を抱きしめた。


『今はまだいいか……』


この光景を見ていると、今は違和感を探るのは後回しでいいような気がしてきた。


それでも放ってはおけない。


だから後で調べてみることにするか。











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