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竜の巫女と竜の封印者

「……奴隷契約を解除します。同時に奴隷から解放、元の身分に戻します」


全員の刻印に干渉して奴隷の所有者となったカノンが奴隷からの解放を宣言する。


それと同時に全員の背中から光が漏れた。


「ふぅ……これで大丈夫です。確認をお願いします」


一息ついたカノンに言われ、テルとテルの上司らしき男とで背中の刻印が消えていることを確認していく。


「はい。こちらは大丈夫ですね」


「こちらもだ」


テルとおっさんが驚いた様子で奴隷だった人たちの背中を見ている。


それをみて、そして互いの背中を確認して5人の元奴隷の人たちは涙を流した。


「よかった……」


そしてそれを見たカノンが安堵のため息を漏らす。


「カノン殿……だったね。本当にありがとう」


テルの上司らしき男が頭を下げる。


「いえ、気にしないでください。えっと……」


「あぁ、自己紹介をしてなかったね。私はボルド。この町の衛兵団の団長をしている。よろしく頼む」


「は、はい。よろしくお願いします」


カノンはそう言って頭を下げる。


ふと奴隷の刻印を消した人たちを見ると、じっとカノンの方を見ていた。


「え?」


カノンも視線に気が付いたようで、その人たちの方を向く。


元奴隷の人たちの中で最年長であろう年配の男性がカノンの前まで近づいてきた。


そしてその場に跪く。


「え?え?え!?」


いきなり目の前で跪かれたカノンは混乱している。


まあ仕方ない。


「え……、あの……」


「貴方様に感謝を……。誠にありがとうございます。貴女様はまさに聖女様です」


「え?聖女?え?」


いきなり聖女扱いされたカノンが助けを求めて周りを見渡す。


しかしテルとボルドは困った顔をしながらもその場で静観しているし、リーゼでは止められないだろう。


「あ、あの、私聖女様とかでは……」


「いいえ、私共にとっては聖女様、女神さまと言っても過言ではありません」


カノンの目を見て断言する男性。


いや、聖女はともかく女神は過言だろう……。


「え、えぇぇぇ……ハク……」


情けない声で俺に助けを求めるカノンだが、俺にどうしろと……。


『カノン、すまんが今回は俺にもどうにも出来ん……すまん……』


「……何とかならない?」


珍しく食い下がってきた。


よほどこの状況の居心地が悪いらしい。


『とはいってもな………擬態スキルで逃げるか?』


もうそれくらいしか思いつかない。


「うん!」


しかしそれで十分だったようで、カノンは即答した。


『よし、じゃあ……』


「あ、待って」


早速スキルを使おうとしたのだが、カノンに止められた。


「リーゼさん、行きましょう」


「え、えぇ」


カノンがリーゼに声を掛けると、リーゼは戸惑いながら頷く。


カノンはそれを見てリーゼの近くに移動した。


「じゃあハク、お願い」


『おう』


カノンの合図でカノンとリーゼをスライムの膜で包み込む。


それを見た元奴隷の人たちは唖然としているが、テルとボルドは少し驚いただけのようだ。


「すみません、私は聖女って言われるような人間じゃありませんので、これで失礼しますね」


スライムが全身を覆う尽くす前にそう言ってほほ笑みかけるカノン。


そのままスライムがカノンの全身を覆うのと同時に擬態を発動してカノンとリーゼの姿を隠す。


それを確認したカノンはリーゼの手を引いて建物から出て行った。









































「はぁ……ひどい目に遭った……」


詰所から少し離れた広場にあるベンチに腰を下ろしたカノンは、大きなため息を吐いた。


「でもカノンさん、あんな活躍をしたら聖女様って呼ばれるのも分かるよ?」


リーゼはそういうと、カノンは頭を抱えた。


『しかし逃げるなんて珍しいな。ギルドでもそんなことはなかったのに……』


ギルドでも可愛がられたりはしたが、なんだかんだカノンはそれを受け入れていた。


「あれとは違うよ。さっきはなんか……嫌じゃないんだけど居心地が……」


『あぁ……まあ崇拝に近かったしな……』


少し前まで同世代の子たちに蔑まれ、両親に捨てられるような境遇だったカノンにしてみたらいきなり聖女様扱いは違和感しかないだろう。


「でもあの人たちの気持ちも分かるよ?」


そういったリーゼにカノンは首を傾げる。


「だって私達、奴隷だった時ってひどい扱いだったもの。あの人たちは希望も何も無くなってた。そんな地獄の中にさっそうと現れて地獄の主を倒しちゃった人が居たら、誰でも心酔するんじゃないかな?」


『あぁ…そういうことか……』


リーゼ達からしてみれば、まさにカノンは救世主だったのだ。


そういう扱いになるのも仕方ない……のか?


「でも聖女って……私は普通の冒険者なんだけど……」


いや、普通の冒険者は数百ものゴブリンの群を全滅させたり、Aランク冒険者の移動速度について行ったりは出来んぞ?


カノンはすでに普通の域は超えていると思うんだが……。


「え、普通?」


リーゼが思わず漏らした言葉にカノンは半目でリーゼを睨む。


「あ、あはは~」


乾いた笑いで誤魔化そうとするリーゼだが、まったく誤魔化せていないぞ?


「リーゼさん?」


「ごめんごめん。でもあの地下室でいきなり天井から降りてきたり魔力封じの結界が効かなかったり普通とはいいがたいこともあったでしょ?」


リーゼにそういわれてカノンは気まずそうな顔をする。


「……あれ?でもそれ全部ハクの能力だよね?じゃあハクのせい?」


『いや…俺のせいにされても困るぞ?そもそも今回の聖女扱いに関してはカノンの人柄のおかげだからな?』


助けられたのは俺のスキルのおかげかもしれないが、実際に助けたのはカノンだし、危険を承知で地下室に乗り込むことを選んだのもカノンだ。


「でも聖女扱いはちょっと……」


『まああの人たちだけだろうからこの町を出たら関係なくなると思うぞ?』


「うん……」


「なんだかカノンさんとハクさんって仲いいよね」


俺たちのやり取りを見ていたリーゼがポツリと呟く。


「え?そうですか?」


「うん、私は神竜様由来のスキルを持ってるから竜ってあがめる者ってイメージだったんだけど、二人のやり取りを見てるとなんだか……兄弟?みたいな?」


「あ、でも私は初めて会ったドラゴンがハクだったので……」


『そういや俺も初めて会った人間はカノンだったな……その前は魔物としか会わなかったし……』


思い出してみれば初めて出会ったのがカノンでよかったかもしれない。


もし冒険者とかたち(質)の悪い研究者に出会っていたら、そのまま捕まっていたか討伐されていただろう。


そう考えると運がよかったな……。


「あれ?ハク、どうしたの?」


『あぁ、いや、初めて出会えたのがカノンでよかったなって思ってな……』


「そっか……うん、私もハクと出会えてよかったかも、じゃなかったら死んでたしね」


そう言って苦笑するカノン。


そういえばそうだな。


まあそのせいで俺は今のこの状態なわけだが……。


「あの、カノンさん」


そんな俺たちの様子を見ていたリーゼが、意を決したようにカノンに言う。


「はい、どうしました?」


カノンがリーゼの方を向くと、リーゼは真剣な顔でカノンを見つめていた。


「リーゼさん?」


カノンが首を傾げるが、リーゼは一拍おいてから口を開いた。





「カノンさん、私を貴女のパーティに加えてください」











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