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罠に嵌った男

カノンたちは盆地の外に出てきていた。


外に出たと同時に俺の気配察知にさっきの男の反応があった。


『お?まだいたのか?』


「ん?さっき私たちをつけてた人?」


『そうだ、でもなんか気配が弱弱しいな』


気配察知で確認する限り、何となく気配が弱くなっている。


しかもこの近くの林の中からこちらに向かってきているような気がする。


あぁ、さっきまでこちらから向こうの気配が分からなかったのと同じで、向こうからもこっちの気配がスライムの気配に紛れて分からなくなってたんだろうな。


「そうね、でもあんなけもの道に誘導されれば仕方ないと思うわよ?」


アイリスも気配察知で確認したようで呆れたように言う。


「あ、確かにフラフラしてるね」


カノンも確認したようでアイリスと同じように呆れたような目をする。


『しかしどうしますか?捕まえていきますか?』


『そうだな。向こうの状態を考えればこの戦力で負けるとは思えないし、安全策を取ってアイリスかカノンは隠れるか?』


「そうね、じゃあ私が隠れて待機するわね」


『この先に少し開けた場所があります。そこで待ちましょう』


俺たち4人で決めているが、リーゼはいいのだろうか?


「リーゼさん?それでもいいですか?」


「えぇ!今までの恨み晴らすわよ!」


この中で一番気合が入っていた。


いらない心配だったようだ。










































その後カノンたちはソルの言っていた開けた場所に移動し、アイリスは気配遮断で気配を消したまま隠れた。


カノンとリーゼは男の気配がする方向を見ながら待っている。


しばらくすると、茂みの中から見覚えのある男が現れた。


カノンと戦った男だ。


戦斧を持っているのは前と同じだが、その戦斧を杖のようにしてボロボロの体を支えている。


「な、なんか思ったよりすごい格好だね……」


『あぁ、俺もここまでとは思わなかった』


男の体には至るところに傷があり、体中から出血しているし、服もボロボロだ。


心なしか顔色も悪い気がする。


「……よ、ようやく見つけました…」


カノンとリーゼを見て息を切らせながら二人を睨む男。


なんだろう……。


全然脅威に見えない。


「どうやって囮にマーキングを移したのか分かりませんが、そんな子供だましに引っかかる私ではありませんよ……」


いや、引っかかった結果のその状態だと思うのだが……。


「そんなボロボロの格好で言われても説得力がないよ」


リーゼが呆れたように言う。


「そんな事を言ってもいいのかな?奴隷の分際で……。奴隷3番!こっちにこい」


男の言葉にリーゼの肩がわずかに跳ねる。


カノンが横目でリーゼを見ると、リーゼはカノンに目配せをして顔を下げ、ゆっくりと男のほうに歩いていく。


「リーゼさん?」


カノンが心配そうに呟く。


一応リーゼを魔力感知で見てみるが、リーゼを縛る魔力はない。


鑑定でも刻印の影響はまったくない。


何か考えあっての事だろう。


「ハク?」


『大丈夫だ。刻印の影響はない』


リーゼはゆっくりと男に近づいていく。


それをみた男は満足そうにやつれた顔で笑う。


「そうだ、奴隷の刻印がある以上お前は主人から逃れられん」


リーゼはそのまま男の前で立ち止まった。


「よし、あの小娘を殺せ」


態々命令するということは、自分で戦うだけの体力が残ってないのだろうか?


「……だ」


「あ?さっさとやれ」


何かをつぶやいたリーゼに対して苛立ったように命令しなおす男。


それとほぼ同時に、リーゼの纏う魔力が変わった。


「今までの恨みだ!この野郎!」


「フガッ!」


リーゼの右ストレートが男の鳩尾にめり込み、そのまま吹き飛ばす。


その右手には竜の鱗が見えた。


「あれって?竜装?」


『いや、多分竜化スキルだな。効果は竜装と近いだろうが……』


因みに鑑定してみた竜化はこんな感じだ。


----------

竜化Lv2

竜人の中に眠る竜の血を呼び覚まし、竜の能力を行使する。

スキルレベルに応じて竜化の程度が変化し、レベル5以上で完全なドラゴンの姿になることが出来る。

----------



出来ることは恐らく竜装と同じような感じだろう。


男を吹き飛ばしてこちらを振り返ったリーゼの目は、竜のように瞳孔が縦に開いていた。


そんな顔でとてもいい笑顔を見せていた。


「リーゼさん、心配しましたよ」


カノンはそう言ってリーゼに近づいていく。


「ごめんなさい。でもどうしても一発だけ殴りたくて」


言葉は謝っているが、その顔はとてもいい笑顔だ。


カノンはそれを見て何か言おうとした口を閉ざした。


代わりに吹き飛ばされた男に向かって歩ていく。


「カノンさん?」


「私も殴ってきます」


カノンはそう言って竜装を発動する。


そして発動と同時に一気に跳躍して男との距離を詰めた。


「……くそ!あの奴隷!……ひっ」


カノンが男の目の前に着いたとき、男は恨み言を言いながら起き上がろうとしているところだった。


そして目の前にいるカノンに気が付き小さな悲鳴を上げる。


「リーゼさんは奴隷じゃありませんよ?いい加減にしてください」


笑顔で男に言うカノンだが、その眼だけは殺気立っている。


「う、うるさい!小娘の分際で!」


おや?口調が乱暴になったな?


こちらを威圧するためか……もしくは余裕がなくなって素が出ているだけか?


「口調が変わっていますよ?さっきまでの喋り方はどこに行ったんですか?」


カノンはそう言いながら拳を構える。


「お、お前も私に逆らう気か!?私はお前たちとは格が違うんだぞ!」


「そうでしょうね、私達よりずっと格下です」


カノンの顔から段々表情が消えていく。


それに伴ってカノンから溢れる殺気が増す。


男もそれを理解したのか全身から冷や汗をかいている。


「そ、そもそもお前は何なんだ!竜人なのか!?」


「私は普通の人間ですよ?」


普通の人間は竜の翼で空を飛んだりしないと思うぞ?


「そ、そうだ!お前に俺の奴隷を一つやる!だかr……ぎゅぇ!」


「もう黙ってください」


無表情のカノンが男の言葉を途中で遮って拳を振り下ろした。


男は地面にめり込んで気を失った。


最近分かったのだが、カノンは本気で怒ると無表情になって口調も丁寧になる。


ただしそうなると俺でも止められない。


むしろ巻き込まれないように祈る事しかできない。


ついでに言えば、今回、この男に対して怒りを覚えたのは俺も同じだ。


俺も殴っておけばよかったかな?


「ハクも殴る?」


最近俺の考えていることがカノンに筒抜けになっている気がしてしょうがない。


『いや、ここで俺まで本気でやると息の根止めることになりそうだしやめとく』


「そう?残念」


息の根止める気だったのか!?


「さっき奴隷を一つって言ったし、やってもいいと思う」


あぁ、カノンが男との会話を終わらせたのはそれか。


奴隷を一つ、つまり人を物扱いした。


そしてさっきリーゼに対して奴隷と呼んだ。


つまりリーゼを物扱いしたことが許せなかったんだろう。


「リーゼさん、まだ生きてますけどどうします?」


カノンが後ろにいるリーゼに尋ねると、リーゼは恐る恐る近づいてきた。


そしてその後ろに隠れていたアイリスも出てきた。


「えっと、どうすればいいの?」


リーゼが困ったように呟く。


「何かで縛り上げて連れてけばいいのよ。私たちを襲おうとしたし、そもそも幽閉中のはずなんだから何の問題もないわ」


まあそうだよな。


捕まえて衛兵に引き渡すのが一番簡単だよな。


「……分かりました」


カノンは不本意なのか渋々頷くと収納からロープを取り出して男の両足を縛り上げる。


ん?両足だけ?


「じゃあいきましょう」


そう言って身体強化を使ってロープを引っ張りながら歩いていくカノン。


ロープにつながれている男は引きずられ行く。


それをみてリーゼはどこか満足したように、アイリスは顔を引きつらせながらカノンの後を追った。






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