スキルシェアLv3
翌日、カノン達三人は町の近くの盆地に向かっていた。
アイリスが先導して、その後ろをカノンとリーゼがついていく格好になっている。
「じゃあカノンさんって冒険者になって一か月でDランクになったんですか?」
「そうですね。半分くらいは成り行きですけど……」
こんな感じで雑談をする余裕もあるようだ。
まあ、カノンの場合は俺が気配察知で警戒してるし、アイリスもいるから出来ることではあるのかもしれないが……。
「そういえばカノンちゃんって一日でEランクまで上がったのよね?」
話を聞いていたアイリスが思い出してように言う。
あれ?この話ってしたんだっけ?
「あれ?アイリスさんに言いましたっけ?」
カノンも記憶にないようで首を傾げる。
「有名だったから、みんなが教えてくれたわよ?」
なるほど、確かに有名にもなるか……。
しかも噂ばら撒きやすいだろうギルドにたむろしている冒険者はカノンと仲もいいし……。
「でも冒険者になって一日で盗賊を倒せるようになるってすごいですよね」
リーゼがそういうと、カノンは苦笑した。
「あはは……、あれはハクのおかげですよ」
そんな会話をしていると、俺の気配察知に反応があった。
しかしまだ町からそう離れたわけではないし、そもそも町の方から気配がする。
『これは……人?』
「ハクも気が付いた?私たちを追いかけてきてるわね」
アイリスの気配察知は俺たちよりもレベルが上だ。
俺よりももっと詳しいことが分かるだろう。
俺が分かるのは、俺たちが通った道を迷わずに追いかけてくることだ。
「あ、見つけた」
ふいにカノンが呟いた。
どうやら自分で気配察知を発動したらしい。
『でも何で追いかけられてるんだ?』
そもそもどうやって同じ道を追いかけてきているんだ?
『恐らくリーゼさんの奴隷の刻印を辿っているのだと思われます。奴隷の所有者にはその奴隷の位置を把握することが出来ますし、術者には魔力の痕跡も分かるはずですし』
なるほど、そういうことか。
「あれ?それなら追いかけてる人って契約術か奴隷術持ってるよね?」
カノン……、最近悪人には容赦がなくなってきたな……。
「え?カノンちゃんの悪人の扱いってスキルと同じ?」
アイリスもカノンの発言に目を丸くしている。
しかし手間が省けるのは事実か。
この場で倒せばいいだけだし。
『しかし問題もあるぞ?どんな奴が来るんだ?』
変に強い奴が来てやられてしまっては元も子もない。
「そうね……奴隷の所有者って意味なら……誰になるのかしら?」
『その場合はヘスカーですよ。昨日カノンさんに負けた商会長です』
なるほど、あいつならカノンとアイリスで充分だし、リーゼを守りながらでも問題ないだろう。
あれ?
『しかし所有者の場合はスキルはないんじゃ?』
「いえ、多分契約スキルくらいは持ってると思うわよ?あの規模の商会を回すには不可欠なスキルだから」
あぁ、確かに商売と契約は切っても切れない関係だからな。
なら持っているのが当然か。
「でも、もしヘスカー?の方なら脅して契約を解除させればいいんじゃ?」
あ、カノンの思考が少し穏便なものになった。
「可能性はあるわね。でもヘスカーの可能性は低いと思うわよ?だって捕まってるはずだもの」
あ、そういえばそうだった。
昨日捕まったんだからまだ外には出れないはずだ。
「ハク、偵察できないかな?」
『偵察か……』
カノンの提案に俺は考える。
俺の持つスキルでどうやってやるか……。
そもそもカノンの外に出ることはできないから難しいし、嗅覚探知も誰かの判別が出来ても昨日使っていないから昨日の奴との判別は出来ない。
なら魔力感知はどうだ?
手に入れてから半分以上忘れていた奴だが、試してみるか。
魔力感知を発動してみると、普通の視界に重なって魔力が見えるようになった。
人の中を巡っている魔力も分かるし、アイリスの中にいるソルも見える。
そしてリーゼの背中から魔力の糸のようなものが伸びているのが見える。
偵察には役に立たなさそうだ。
あれ?
これって奴隷の刻印も解析できるんじゃね?
『少し試したいことがある。リーゼ、背中をカノンに向けてくれないか?』
「え?は、はい」
リーゼは俺の言葉に少し戸惑ったようだが、素直に背中を向けてくれた。
これで服越しでも奴隷の刻印の魔力が見えるようになった。
リーゼの魔力はカノンやアイリスのように体の中を巡っていない。
奴隷の刻印が弁のようにせき止めている。
これがスキルを止めているのだろう。
そして刻印の中心から魔力の糸が伸びて、そのまま町の方まで伸びている。
これが奴隷と所有者を繋ぐ魔力だな。
そして大事なのが、この魔力が伸びている方向には気配察知で反応した奴がいるということだ。
ということは間違いなく追いかけてきているのは昨日戦ったヘスカーということだろう。
そしてもう一つ発見があった。
この奴隷と所有者を繋ぐ魔力と刻印自体には直接的な繋がりがない。
奴隷に対する強制力は声をトリガーにして発動しているということだ。
つまりこの魔力を切り離したとしても刻印自体には何の影響も与えない。
『これは……面白そうだ』
「あ、なんか企んでる……」
カノンの呆れたような声が聞こえたが気にしない。
さて、そうとなると囮が必要だが……。
別に人間の必要はないな。
むしろその方が面白そうだ。
気配察知には近くにいる魔物や動物も分かる。
触手の届く範囲に動物もいるし丁度いい。
俺は触手を近くの草むらに向けて伸ばす。
ガサ
「キュー!」
そんな鳴き声と共に触手が捕まえたのは角の生えたウサギだ。
「あ、ホーンラビット」
こいつホーンラビットって言うのか……。
始めて知った。
さて、ここからだ。
『リーゼ、少し触るぞ』
俺はそう前置きしてリーゼの背中の奴隷の刻印に触れる。
触ってみた限りではこの魔力を動かすことは出来そうだ。
問題は俺の魔力操作で行けるかどうかだが……。
せめてカノンの魔力制御を借りることが出来れば簡単なんだが……。
《条件を達成しました。固有スキル・スキルシェアがLv3になりました》
お?このタイミングで?
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スキルシェアLv3
自身と自身を封印している者の間で相互にスキルを共有できる。上限数は合計30まで
解放条件
通常のレベルアップ条件を満たしたうえで、封印者のスキルを使用しようとする事
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なるほど、さっきの行為がトリガーだったわけか。
『カノン、魔力制御借りるぞ?』
「え?い、いいけど……」
いきなり言われたカノンが戸惑うが、説明は後回しだ。
魔力制御を共有し、その能力で刻印に張り付いている魔力を奪い取る。
「ん……」
くすぐったいのかリーゼから声が漏れる。
そして俺を経由して捕まえているホーンラビットに魔力を繋ぐ。
「キュ?」
やっぱり何か感じるようだ。
魔力感知で見る限り、魔力はしっかりとホーンラビットにつながった。
俺は触手を解除してホーンラビットをリリースする。
ホーンラビットは茂みの中に逃げて行ったので、上手く誘導できるだろう。
『よし、終わった』
「え?何をしたの?」
カノンが聞いてくる。
『刻印から伸びていた所有者とつながっている魔力をさっきのホーンラビットに繋ぎ変えたんだ』
「そ、そんなことできるんだ……」
カノンが呆れたような声を出す。
『まあ流石に刻印自体には干渉できなかったけどな。解析に時間がかかりそうだったし』
『その言い方だと時間を掛ければ解析できるように聞こえるんですが……』
ソルの呆れたような声が聞こえてきた。
いや、解析自体は出来そうだけどな。
魔力感知で分かったことだが、魔法陣とは電子機器の回路に近い。
多分日本人で基板などに詳しい人に見せれば簡単に解析してくれそうな感じだった。
基盤や回路という概念のないこの世界の人間には解析できないのは仕方のない事だろう。
「あれ?じゃあ私たちを追いかけて来てる奴は……」
アイリスが恐る恐ると言った感じで聞いてくる。
『あぁ、ホーンラビットを追いかけて茂みの中に行くだろうな』
カノン、リーゼ、アイリスの三人から呆れたような目を向けられてしまった。




