封印者の魔力
ソルに何人かを運んでもらったおかげで、俺たちは何とか全員を一度に運び出すことが出来た。
カノンも一人背負っていたし、アイリスに至っては背中に二人背負い、その状態で両脇に二人ずつ抱えるという曲芸じみた能力を披露してくれた。
背中に背負っている二人はいいとして、その両脇の四人、なんで落ちなかったんだろう?
最初にカノンに声を掛けた少女をはじめ、動ける人たちも一人ずつ背負って運んでくれた。
残った数人は俺が触手でまとめて持ち上げて、カノンの負担にならないように触手の一部を地面につけて支えながら運んできた。
因みにソルの巨体が通れるのかと心配していたのだが、建物の入り口から地下までの通路も扉も広く、何の問題もなかった。
後で聞いた話だが、種族によっては体が大きくなる者もいて、そのためだそうだ。
あ、忘れていたが商会長の方はカノンがしっかりと運んできた。
ロープを使って引きずられてたが……。
まぁ、非合法な商売に手を染めていたんだからこれくらいはいいだろう。
建物を出る辺りではすでに顔の輪郭が倍近くに膨れ上がっていたが……。
そんな感じで全員を運び出して、外に待機していた衛兵に保護してもらった。
本来は管轄外なのだろうが、今回は被害者だし証人でもあるので問題なく連れて行ってもらえた。
今回の事が片付いた後は、アイリスのAランク冒険者ならではのネットワークで何とかするらしい。
まあ、中には犯罪を犯した者もいるらしいので全員が解放されるわけではなさそうではあるが……。
そしてカノンとアイリスは、衛兵が地上部を制圧し終わるのを建物の外から眺めていた。
アイリスは分かるが何でカノンまで?
「そういえばカノンちゃん?あの部屋で変な魔法陣使われなかった?」
そんなことを考えていると、突然アイリスにそう聞かれた。
確かに使われた。
カノンには効果がなかったが……。
「使われました。奴隷の人たちがみんな動けなくなっちゃって……」
「あれ、普通はその範囲に居れば全員がそうなるのよ?」
そう言われてカノンが首を傾げる。
「え?でも私は何ともなかったですけど……」
「でしょうね、カノンちゃんは封印者だから」
アイリスがそういうが、カノンはますます混乱するしかなかった。
『私が説明します』
お?ソルが説明してくれるのなら分かりやすそうだ。
『お二人は魔力の質、純度についてはご存知ですか?』
「質……ですか?………土地の魔力の質とかの話なら……」
そういえば前にスケルトンボアを倒したとき、土地の魔力の質という言葉が出てきたような気がする。
『そうですね、魔力の質についてはある程度は一般知識となっています。それとは別に、魔力には純度と呼ばれるものも存在するのです』
ソルの説明によると、質とは性質の事で、自然にある魔力の傾向を表すものらしい。
例えば、火の気の多い火山などでは魔力は火属性を帯びやすく、そこから生まれる魔物も火属性を持っている割合が高くなる。
逆に海のように水が多いと水属性を、森の場合は水と地、といった具合にその土地に漂っている魔力が属性を持ち、その魔力の持っている属性の事を魔力の質というようだ。
ただし、属性と言っても俺たちが持つスキルほど顕著ではなく、あくまで天秤に乗せた場合にその傾向に傾くくらいの割合で、魔物が生まれる場合の種類を決定づける程度の意味しかないらしい。
そして純度とは、そのまま魔力の濃さということだ。
そう説明されてもいまいち分かりにくいが、この純度は種族ごとにはっきりと差が出るらしい。
例えば、魔法の扱いの苦手な獣人は人間よりも魔力の純度が低く、人間よりも魔物の方が純度は高いといった感じだ。
因みに神獣であるソルは、純度で言えばこの世界に生きる生物の中でトップクラスということらしい。
俺の大まかな種族である竜種も、神獣には及ばないが相当純度が高いとのことだ。
『なのでアイリスやカノンさんは、普通の人よりも純度の高い魔力を常に使用しているわけです』
「そうだったんだ……」
ソルの説明にカノンは聞き入っている。
その話を知っているはずのアイリスはと言えば……。
「……ソル~、そろそろやめない?頭が痛くなってきたんだけど……」
何故か頭を抱えていた。
おい!お前は知っているんじゃないのか!?
『アイリスは我慢していなさい。今大事なところです』
「はい。すみませんでした」
うなだれながら謝るアイリス。
まあ、いつも通りだな。
『話を戻しますが、今回使われていたのは魔力の流れを阻害する結界です。魔法陣でそれを作り出し、あの部屋に展開していました。魔力は全ての生き物の体の中を循環し、その循環が止まってしまうと一時的に魔力切れと同じ症状が出ます。カノンさん以外の人が動けなくなったのはそういう理由です』
なるほど、あの壁の魔法陣はそういう仕組みだったのか……。
しかし、そうなると何でカノンには効果がなかったんだ?
考えられるのは、元々魔弱で体を巡ってる魔力が少ないから効果が薄いってこともあり得るし、さっきの魔力の純度の話で言えば、一定以上の純度の魔力を阻害することはできないってことも考えられるが……。
まぁ、態々その話を最初にしたくらいだし後者だとは思うが……。
「つまり、私はハクの魔力のおかげで大丈夫だったってことですか?」
カノンも同じ結論にたどり着いたようだ。
『はい、そういうとこです。ただ、竜人にまで効果が及んでいたことを考えると、ハクさんが普通の魔物だった場合は効果が出ていたでしょう』
なるほどな。
依頼を受けるときにロンが戦力としてなら問題がないと言っていたが、その時は普通に実力の話だと思っていた。
しかし、もし他の冒険者を連れてきていたとしたらあの部屋で負けていただろう。
強い冒険者ほど魔力に依存するだろうし、動けないのなら勝負にすらならない。
こういった危険のある依頼は、封印者こそ適任だったというわけだ。
そしてなぜアイリスに依頼が回ってきたのかもわかった。
アイリスにもこの結界は効果がない。
しかも戦力としてなら随一だ。
アイリス以上の適任者はいないだろう。
そこに同じく効果を受けないカノンが居れば、もうこの結界は殆ど障害ではなくなってしまう。
ある意味この裏奴隷商にとっての天敵だったというわけだ。
「…………ソル?頭が……」
そんな話をしている間にもアイリスが頭を抱えてうずくまっているが、大丈夫なのだろうか?
もしかしてアイリスって、実技は得意だが座学は苦手なタイプなのでは?
いや、今更か……。
『もう話は終わりましたよ?』
ソルの呆れたような声が聞こえる。
「私こういう難しい話って苦手なのよ……」
そういいながら頭を押さえているアイリス。
アイリスも大変だろうが、その保護者であるソルも大変だろうな……。




