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奴隷の巫女

カノンがいるのは目的の建物の裏手だ。


俺は気配察知を利用して地下の様子を探っている。


それによると、ここの真下にかなりの数の弱った気配がある。


そしてそれを取り囲むように存在する強そうな気配。


これは恐らく捕まえた奴隷を監視しているのだろう。


つまりここから直下掘りをしていけばいいわけだ。


俺の意識は全て地下に向けられているが、カノンが自分の周りを警戒しているので安心して地下の様子を確認できる。


これは封印者(シーラー)であることの利点の一つで間違いないだろう。


「ハク、どう?」


『情報通りだな。ここから地下に二階層分潜った場所から気配がする。そこまでは土と石の地面だから問題なく潜れるし、天井もそんなに面倒ではなさそうだ』


気配察知と同時に、触手を地面に潜らせて地盤の状態も確認している。


いざ潜っても、天井を破れず入れませんでしたでは話にならないからな。


確認してみた所、地下室の天井は石のタイルを組み合わせた構造の上に土が乗っているらしい。


よくこれで天井が落ちてこないものだと感心するが、恐らく地属性の魔法で土を固めて落ちないようにしているのだろう。


普通に考えれば穴を空けた時点で天井が崩れてしまいそうなものだが、これくらいは問題なく対処できる。


後はアイリスが表で派手に暴れてくれるのを待つだけだ。


ドオオオォォォォォン!!


そんなことを考えていたら、建物の向こうで大きな爆発音がした。


アイリスの戦闘が始まったのだろう。


気配察知で地下の様子を確認すると、弱っている気配は覚えているように思える。


その周りにいる気配は少しの間動かなかったものの、すぐに地上に向かっていった。


どうやら上手くいったらしい。


『よし、行くぞ』


「うん、お願い」


カノンに声を掛けると、そのままカノンの全身を覆うようにスライムを出して、カノンを中心として円柱に変形する。


そして円柱の下の土を収納に放り込んでいく。


するとスライムの円柱はカノンを包み込んだまま沈み込んでいく。


そして円柱が完全に埋まったところで、先ほど収納した土を上に向かって吐き出す。


こうすれば簡単に地面に潜れる。


要は俺がよく使っている落とし穴を自分を中心に作って、その上に土を吐き出しているだけなのだが、思ったよりもいい感じに地面に潜れている。


因みに地下一階の金庫室は狭いのでそのままスルーして、もうすぐ地下二階だ。


「ハク、下に強い気配はないよ」


『了解』


俺は地面を掘ることに精一杯なのでカノンが下の様子を偵察してくれている。


そしてすぐに、収納できない何かに当たった。





『これは……天井に着いたな』


収納できなかった原因はあえて収納する範囲から外していたからなのだが、どうやら今スライムが乗っているのが地下室の天井を覆うタイルらしい。


ここからは少し集中する。


まず足元のタイルを一枚だけ収納。


これでカノン一人が通り抜ける隙間ができた。


そして足元のスライムをどかしてカノンをスライムの触手で吊り下げるように地下室に入れる。


「……っと、いいよ」


カノンが着地の合図をしたことを確認して、穴の中に残っているスライムを段々とカノンの中に戻していく。


それと同時に空いている穴に土を吐き出して地属性の魔法で固定。


最後にタイルをはめ直せば侵入完了だ。


『よし、上手くいったな』


「やってることは無茶苦茶だけどね」


俺の声に呆れたような突っ込みを入れつつカノンが周りを観察する。


そこは牢屋になっており、牢屋と牢屋の間にある通路に降りてきたようだ。


牢屋に中には子供から大人まで、種族も人間から獣人まで様々な人たちが閉じ込められていた。


殆どの人たちがボロボロの服を着ていて、体中傷だらけだ。


全員の首には革製の首輪のようなものが巻かれている。


彼らが違法奴隷とみて間違いないだろう。


少し気がかりなのは、彼らの殆どがさっきのカノンの登場にも無反応だということだ。


何人かは驚愕の視線を向けてきているのだが、殆どはこっちを見もしない。


『さて、上手く侵入できたのか?』


「多分そうだと思うよ?でも、一人だけこっちに戻ってくるみたい」


カノンはそう言いながら部屋の出口を見る。


この部屋の出入り口は一か所だけ、そして地下なので窓もない。


つまり今から戻ってくるであろう用心棒を倒さないと脱出できないわけだ。


因みに逃げるだけなら結構簡単だったりする。


さっきみたいに地下に向かって穴を掘り、途中で方向を変えればいいだけだ。


「………あの…」


その時、近くの牢屋から声を掛けられた。


そちらを見てみると、一人の少女がいた。


年齢は15歳くらいで、首には首輪を捲かれていて体中ボロボロだ。


そして、頭からは二本の角が生えている。


たしかこの特徴はギルドの図書館で読んだ本に書かれていた。


竜人だ。


角を持つ種族は他にも獣人の一部や魔族がいるが、獣人なら他に獣の特徴が出ているはずだし、魔族はもっと肌の色が黒っぽいはずだ。


一応鑑定っと


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種族・竜人 名称・リーゼ

職業・巫女・Dランク冒険者 年齢15歳

HP・346 MP・693

状態・衰弱・奴隷の刻印

スキル

奴隷の刻印により閲覧不可

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スキル閲覧不可?


こんなことは初めてだ。


しかし奴隷の刻印とはなんだ?


この首輪の事ではなさそうだし……。


ためしに他の人たちにも鑑定を掛けてみるが、殆どは問題なく鑑定できるし奴隷の刻印なんて言う状態でもない。


数人だけ同じ状態の人いるが、どういう違いなのだろう?


「……貴女…は?」


カノンの返事がなかったからなのか、今度は疑問形で声がかかった。


「あ、すいません。冒険者です」


カノンが慌てて返す。


しかしカノンよ、それは返事にはなっていないと思うぞ?


「冒険者……ですか?ここがどこなのか分かっていますか?早く逃げないとあなたも私達みたいに…」


そういいながら段々と震えていく竜人の少女。


まあ無理もないか。


この部屋の入り口の方から段々と殺気が漏れてきている。


『カノン?大丈夫か?』


「これくらいなら問題ないよ」


そういいながら収納から剣を取り出すカノン。


「おやおや、ネズミが侵入したかと思ったら、こんな小娘ですか」


それと同時に扉が開き、男が入ってきた。


入ってきた男の手には巨大な戦斧。


冒険者で言うなら重戦士と言った所だろうか?


「外では化け物が暴れているというのに……まったく迷惑な話ですね」


男の言う化け物とはアイリスの事だろうか?


「まあ、ここまで侵入してくれて手間が省けましたよ」


そういいながら男は片手を壁に充てる。


「あなた!逃げなさい!……っ」


カノンに向かって叫んだ直後、少女は苦しそうにうずくまった。



「え?」


カノンが驚いたように少女を見る。


しかし少女は声も出せずにうずくまっている。


周りを見てみると、何かをした男とカノン以外は少女のようにうずくまってしまっている。


あれ?起動した本人が無事なのは分かるが、カノンは大丈夫なのか?


『カノン?大丈夫なのか?』


「え?そういえば……なんともない?」


カノンは不思議そうに自分の体を確認する。


そしてその場で軽く跳ねたりと試してみる。


しかしまったく問題はなさそうだった。


「……………」


そんなカノンの様子に、男は大きく口を開けたまま固まってしまった。






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