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獲物の印

「アイリスさん?」


上から飛び降りてくるアイリスを見てカノンが呟く。


「カノンちゃん!お待たせー!」


そういいながらカノンの目の前に着地するアイリス。


「どうやったの!?気配はあるのに姿は見えなかったわよ!?」


あぁ、あの擬態の事か。


擬態はカノンが着地した衝撃でスライムが崩れてしまったので消滅している。


やっぱりスライムは使い方を工夫しないと強度に不安が残る。


「えっと、あれはハクが……」


『この前倒したマンイーターの擬態スキルだよ。スライムでカノンの周りを覆ってから使ってみたんだ』


俺がそう説明するとアイリスは目を丸くする。


「そんなことできるんだ……」


『で、ソルからいきなり念話で話しかけられたが……何かあったのか?』


「あぁ、あれね…、カノンちゃん、市場でスリに遭わなかった?」


「遭いましたけど…」


話が見えずにカノンが首を傾げる。


『あのスリはマーキングをしたんですよ。誘拐のターゲットを仲間で共有するため』


「え?」


そう言われて慌てて自分の体を確認するカノン。


俺も確認してみるが、印のようなものは特に見当たらない。


「あ…」


その時、カノンが何かを見つけたように持っているカバンの中に手を入れた。


そして中から出てきたのは小さな魔石のようなものだった。


『なんだこれ?魔石?』


魔石は見た目は半透明の石で宝石のようにも見える。


これも同じなので魔石なのだろうと推測した。


「それは魔鉱石ね。魔石と違って鉱山から採掘される鉱石よ」


そういいながらカノンから魔鉱石を受け取り眺め始めた。


「これは……発信機みたいな感じの魔法陣ね。効力は弱いから近くにいないと分からないし、魔力感知みたいなスキルにも反応しにくい……」


魔鉱石をよく見ると、その表面には魔法陣がいくつか彫ってある。


つまり、魔鉱石本体が基盤で魔法陣が回路になっているというわけか……。


電流の代わりに魔力を使ってはいるが、電子機器に近いものなのかもしれない。


「カノンちゃん、冒険者の格好していても子供だから簡単に攫えると思われたんでしょうね」


『しかし……冒険者を攫うよりは普通の子供の方がリスクが少ないんじゃ?』


反撃などのリスクを考えると俺なら一般の子供を狙う気がする。


「確かに普通はそうなんだけど、カノンちゃんはこの町の住民じゃないから」


そう言われて納得した。


この町の住民なら住民同士ある程度のつながりはある。


つまり誰か一人が行きなりいなくなればすぐに分かるだろう。


しかしカノンはまだこの町に知り合いはほとんどいない。


テルは知り合いと言っていいだろうが、普通町に来た冒険者の子供が行方不明になったとしても騒ぎになることはないだろう。


だからカノンが狙われたのだろう。


しかし、そう考えているとなんだか腹が立ってきた。


そんな理由でカノンを狙うとはいい度胸だ。


『その誘拐犯共はアイリスの依頼の奴らなのか?』


普通に考えれば誘拐した子供をそのまま奴隷に……、というのが手っ取り早いだろう。


貴族の子供ならともかく、平民の子供、まして冒険者の子供を攫って身代金もないはずだ。


なら違法奴隷として売り払われる可能性が一番高い気がする。


「そうね……なんとも言えないわ」


しかしあいまいな返事が返ってきた。


『可能性としては高いと思われます。しかし、違法奴隷を扱う組織としてはうかつな行動が目立ちますし』


まあそうだろうな。


何も違法奴隷を扱う組織が一つだけとは限らない。


もしもこの町に一つだけだとしても、他の町から奴隷(商品)を仕入れに来た可能性もある。


まぁそれでも、その組織がやった可能性はあるし、そうじゃなくてもどうせ潰す予定だったんだ。


さっさと潰せば他の組織への抑止力にもなるだろうし、同業なら同罪でいいだろう。


「ハク、その組織さっさと潰そ?なんだかイライラする」


おぅ……、久しぶりにカノンが黒くなった。


まあ今回は俺も同じことを考えていたわけだが……。


『そうだな、同業者として責任をとってもらうか』


「え、えっと、一応ギルドで話は付けたし、テルに頼んだ情報ももらったからいつでもいけるんだけど……」


俺たちの様子にアイリスが引きながら言う。


「ここまで連れてきといて今更なんだけど……カノンちゃん、人と戦える?もっと言えば……人を殺せる?」


アイリスが恐る恐ると言った具合に聞いてくる。


確かに今更だが……。


カノンはまだ人を殺した経験はないはずだ。


戦ったことならあるのでその心配はしていないが……。


そんなアイリスに対してカノンはため息を吐いた。


「それこそ今更過ぎますよ。そんな覚悟は捨てられたその日にしました」


カノンはあっけらかんと言い放つ。


強がりだろうか?


いや、恐らく本気で言っているのだろう。


親に捨てられて一人になった時、カノンはもう死んだと思ったと言った。


その時にそんな、何をしてでも生きていこうという覚悟を決めたのだろう。


カノンの事を少し見くびっていたのかもしれない。


「でもできれば捕まえたいですね。その方が報酬がいいですし」


あれ?カノンには犯罪者イコールギルドへの納品物というような式でもあるのだろうか?


なんだかカノンが段々と現実的に……。


いや、そうでもなければ生き残れない世界なのだからこれでいいのかもしれないが……。


元日本人としては複雑な心境だ……。


「そ、そう……」


アイリスまで引いている気がするのは気のせいではないだろう。


『カノンさんの意思も確認しましたし、作戦の説明をしましょうか』


おぉ、ソルは平常運転だ。


強引に話を戻した気がするのは気のせいに違ない。










































ソルの説明を聞いたカノンは町に戻って奴隷商のある建物を目指していた。


アイリスは別行動となっている。


作戦と言っても大したものではなく、もう既に向こうの情報も集まっていた。


情報の出どころはテルらしい。


どうやらこの町の衛兵たちも密かに動いていたらしく、今回アイリスが動くにあたってその情報を提供してくれたらしい。


その情報によれば建物はある商会の物らしく、地上三階、地下二階になっているようで、地上では金貸しをやっているようだ。


こちらは完全に合法的で、金利も十分に返せる範囲だし、返せる見込みのない者にはそもそも貸さないなど、確実な商売をしているようだ。


ただし、こっちの商売で得た情報を使って裏にいる闇金を動かし、表で金を借りられなかった人に法外な金利で金を貸し、返せなくなったところで奴隷にして売りさばいているようだ。


普通なら奴隷になった段階でばれそうなものだが、借金奴隷として町で売るのではなく、別の町まで運んでから違法奴隷として売っているらしく、周囲の人間も、金がなくなって町を出て行ったか、借金を返せなくなって逃げたとしか思わなかったらしい。


ついでに言うと、この建物の地下一階は金庫室になっていて、ある程度上の役職の人間でなければ入れなくなっており、平の従業員の中には、裏の事を全く知らないものもいるらしい。


その金庫室を抜けた地下二階が違法奴隷を入れておく牢屋と、その奴隷の取引をする場所になっているようで、こちらは町のはずれにある廃屋と地下でつながっているらしい。


もしも廃屋が見つかった場合、通路を潰して証拠を隠蔽し、新たに見つけた場所から通路を掘っているようだ。




それにしてもここまでわかっているのならさっさと捕まえればいいと思うのだが、どうも手練れの用心棒を雇っているらしく、そのためAランク冒険者のアイリスが呼ばれたらしい。


流石に衛兵が敵わないような相手にカノンが挑むのは無謀なので、アイリスが正面から乗り込んで、その隙にカノンが直接地下に侵入する予定だ。


地下に侵入する手段は用意している。


後はこの作戦が上手くいくことを願うだけだ。


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