助け合い
キラービーを倒した俺は、少し安堵しつつも少し心配なことがあった。それはキラービーの説明に名前が出ていた、クイーンビーとかいう奴の事だ。もしかするとこの辺りはそいつの縄張りなのかもしれない。そうだとすればあまり悠長にしているわけには行けないだろう。さっさと逃げるか戦うための作戦を練る必要がある。
とりあえずステータス確認だ。
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種族・キメラドラゴン 名称・???
HP・406 MP・701
スキル
鑑定Lv2・同化Lv1・捕食吸収・触手伸縮Lv4・自己再生Lv4・収納Lv2・粘液Lv3・飛行Lv4・麻痺針Lv5・毒針Lv5・方向感覚Lv4・風属性Lv4・針生成Lv2・気配察知Lv1・毒耐性Lv1・魔装(使用不可)
固有スキル
キメラLv1・スキルテイカー
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かなりスキルが増えていた。収納や粘液は多用していたからレベルが上がったのか?
とりあえず飛行スキルを試してみるとしよう。空を飛べれば逃げるにしても戦うにしても選択肢が増える。
俺は翼を広げるとゆっくりと羽ばたいてみた。
「おぉ?」
すると俺の体はゆっくりと持ち上がり、初めて空を飛ぶことに成功した。しかも思ったよりも安定している。俺はためしに少し上下に動いたり方向転換したりしてみたが、思った通りに動いてくれる。水の中を泳いでいる感覚が近いかもしれない。
ふと空を見てみると、そろそろ日が暮れようとしていた。とりあえずは初めて目が覚めた場所に戻れば安全だろう。方向感覚スキルのおかげで大体の方角はわかる。俺はその方向に体を向けると、ゆっくりと飛んで行った。
俺が目覚めた場所は、小さな山のようになっていた。空を飛んで初めて分かったことだが、この森はある程度は広いが、不自然な途切れ方をしている。正確には途中から木が全くなくなっているのだ。そして森の中心部に山があり、その小さな洞窟が俺の目覚めた場所になるようだった。
洞窟の中で一晩過ごした俺は、さっそくこの森を抜けようと空を飛んでいた。途中でスライムやキラービーの集団を見つけると空から粘液爆弾を投下して、そのまま急降下で襲い掛かる。そんなことを続けながら1時間ほどで、ようやく森の端に到着した。
「これは……!」
そこにはすごい光景が広がっていた。森の端はそのまま崖になっており、100メートル以上の断崖絶壁になっていたのだ。道理で生態系がスライムとキラービーに偏っているわけである。流石にこの崖を登って侵入してくる生物など中々いないのだろう。
気配察知で探ってみると、強そうな気配が二か所にあるだけで、あとはスライムとキラービーの気配しかなかったのもうなづける。俺は滑空しながらその崖をゆっくり降りて行った。
空を飛べるとはいえ、しばらくは戻ってこないだろう。さらば故郷よ!
24時間ほどしかいなかったのに何が故郷だと思わなくもないが……
滑空しながら降りているので疲労はほとんどない。翼を広げっぱなしとはいえ元々がドラゴンだし、この疲労度合いから言って丸一日飛んでいても平気なのだろう。もしスキルだけで飛ぶとなると話は変わりそうだが、滑空も併用すれば行けそうだ。
少しすると遠くの方に町が見えてきた。町までの間には所々に森があるが、大半が平原になっていた。俺はその森のうちの一つと、平原の間に着地した。
「ふう、ようやく着いたな……」
俺は一息つくと、とりあえず周りに何があるか確認しようとしてみた。
ガサガサ
「ん?」
その時、いきなり森の中から音が聞こえた。
気配察知で探ってみると、二つの気配がこちらに向かってくる。このペースならあと30秒ほどで森を抜けてくるだろう。
だが少し気になるのは、前を走ってくる気配がやけに弱いことだ。感覚的には死にかけとかではなく、元々の存在感が薄い感じだ。流石に距離がありすぎて鑑定はできないので詳細は分からない。しかし後ろの気配が殺気立っているのは分かる。
多分獲物と捕食者だろう。
そして姿が見える少し前、ようやく鑑定の射程範囲に入った。
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種族・人間 名称・カノン 年齢・13
HP・124 MP・5
スキル
魔力操作Lv10・剣術Lv1・身体強化Lv1・料理Lv4
固有スキル
???(詳細不明)
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種族・サーベルボア
HP・758 MP・56
スキル
身体強化Lv4・形状変化Lv6・威嚇Lv2
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どうやらモンスターに人が襲われているらしい。しかしこの世界でついに人と遭遇したか……。
俺…討伐対象にならないよな?
そんなことを考えているとようやく人の方が姿を現した。
「しまったぁぁぁ!!森抜けたぁぁぁぁぁ!!!!!」
そんな叫び声と共に現れたのは真っ青なショートヘアの少女だった。声の内容から察するに森の中の木々を利用してモンスターから逃げる予定だったらしい。まあ、もし森の中で逃げ回ったところで逃げ切れるとは思えないが……
バキバキバキッ
その直後、木がなぎ倒されて猪が出てきた。うん、ボアって名前から想像していたけど、大きめの猪って感じだ。
ただしその角は剣になっていて接近戦なぞしたくはないが……。
俺がそんなことを考えていると、少女は俺の存在に気づいて慌てて足を止めた。
「嘘…、挟まれた…」
絶望したような声でつぶやく少女。確かにこの状況で挟まれたら逃げようもないだろう。だが足を止めた少女はサーベルボア(……面倒だから猪でいいか?)にとっては格好の獲物になってしまう。猪は森から出てきた勢いをそのままに少女に向かって突進していった。
「危ない!」
俺はとっさに翼を触手に変化させ、少女と猪の間に割り込ませた。そしてそのまま触手を広げて盾を作り、残っている触手で少女を掴んで引き寄せた。少女を引き寄せるには俺の体重も力足りないので、引きずる形になったのは仕方がない。
そして猪の方は、触手の盾に突っ込んだ。
「っ!」
触手が切り裂かれた感触がしっかりと俺に伝わる。そういえば触手を切られたりちぎられたりしたことって今までなかったな。
再生がたやすい部分だからか痛みはあまり感じないが、不快感がすごい。局所麻酔をかけられた所を触られているような感覚だ。だがそんなことを気にしては居られない。触手を多少切り裂かれるのは覚悟していた。そのまま触手を猪を拘束するように伸ばし、先端を何か所か針にして地面に突き刺した。
これで角で触手を切ることはできないし、脱出するなら力尽くしかないだろう。
ともあれこれで少しだが時間が稼げるだろう。その間に少女を逃がして俺も空に退避するか、一緒に戦って倒すか決めればいい。俺がそう思って少女の方を見ると、ポカーンとした顔でこっちを見てくる少女と目が合った。
「えっと…、助けてくれたの?」
少女は恐る恐るといった感じで聞いてきた。さて、ここで俺はどんな反応をしたらよいのだろう?俺はここにきてから確かに声を出している。とはいえそれがこの世界の人間に対して言葉として伝わるのか?とりあえず試すしかないか。
「あ~、俺の声が聞こえているか?」
とりあえずためしに喋ってみることにした。とはいえ少女が話しているのは日本語ではないし、なぜか意味は分かるのだが俺は日本語しか話せない。俺のスキルにはそんなものなかったはずだし、これで言葉が通じなければこの場をどう乗り切るのかの相談もできない。
「ん?いきなり唸ってどうしたの?」
やっぱり駄目だ。しかも俺は言葉を発しているつもりなのに傍目からは竜の鳴き声に聞こえるらしい。とは言え俺への警戒心はあまりなさそうなので、いきなり少女の方から襲われる心配はなさそうだ。
しかしどうする?ラノベとかだとモンスターの中には念話とかで話すことが出来る者がいるが、俺にはそんなスキルないし……。
そんなことを考えていると、俺の触手がちぎれる感触がした。
「っ!」
俺が慌てて猪の方に向き直ると、すでに猪は俺の1メートル先まで迫っていた。どうやら自分を拘束できる俺を脅威と判断したらしい。この猪にとっては俺を吹き飛ばすなり切り裂くなり造作もないことだろう。
それに対して俺はさっき引きちぎられたことにより触手の大半を喪失しており、多分翼に戻したら根本しか残ってないだろう。それくらいなら自己再生で何とでもなるが、目の前に迫った。剣はまずい。
一か八かスライムになって受け流すか?いや、もしそれで受け流したとしても、スライムになると五感が使えなくなる。そうなるとその後何もできなくなってしまう。かと言ってこれを避けるだけの動きは俺にはできない。
これは死んだな。そういえば橋から落ちた時みたいに思考が早くなった気がする。第二の人生は24時間で終わりそうだ。そうなるとここに残される少女に申し訳ないな……。
すまん、確か…カノンとか言う少女よ…何とか逃げ延びてくれよ。
俺はそう祈りながら、死を覚悟して目を閉じた。一回死んだとはいえ、やっぱり死ぬのは慣れないな。
次に俺が感じた感触は、思っていたものとは違うものだった。
何かに抱きかかえられる感覚がしたのだ。俺が目を開けると、少女が俺を両手で持ち上げ放り投げるところだった。
そしてその時に少女と目が合った。
少女は笑っていたのだ。
「なっ!」
俺が声を出す暇もなく、少女は腰に携えていたナイフを抜くと猪に向かって振りかぶり、そのまま猪の角に体を貫かれた。
「ぐがっ!」
少女の口から短い悲鳴が血と共に漏れる。しかし同時に猪の首筋にもナイフが突き刺さった。
「くそ!エアカッター!」
俺はとっさに風魔法を猪に叩き込んだ。エアカッターは初めて使用したが、何故この魔法を選んだのかは分からない。風の刃は少女のナイフがつけた傷口に当たり、そのまま傷口を広げるように切り裂いていった。
そして猪の首は胴体と完全に離れた。これでこの猪は絶命しただろう。しかし今はこの猪は無視だ。
俺はすぐに尻尾を触手に変えて猪の角が刺さったままの少女の体を支え、角を切断した。下手に角を抜くと失血死してしまうかもしれないからだ。
こんな時でも多少の平常心を残せる俺の性格に感謝だ。
少女は俺に支えられていることに気づいたのか、ぎこちない動きで俺の方を見た。
「……よかっ…た………、無事で……」
もう息も絶え絶えでこのままでは自分が死んでしまうというのに、俺の事しか気にしていない。そんな少女を見ていたら、一つの感情が沸き起こってくるのを感じた。
【絶対に死なせない!】
俺はすぐに自分のスキルを確認した。
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スキル
鑑定Lv2・同化Lv2・捕食吸収・触手伸縮Lv6・自己再生Lv10・高速再生Lv1・収納Lv2・粘液Lv5・飛行Lv7・麻痺針Lv8・毒針Lv7・方向感覚Lv5・風属性Lv6・針生成Lv3・気配察知Lv4・毒耐性Lv3・身体強化Lv1・形状変化Lv1・威嚇Lv1・高速思考Lv1・魔装(使用不可)
固有スキル
キメラLv1・スキルテイカー・???(詳細不明)
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この中で回復系のスキルは自己再生と高速再生だ。さっきスライムとキラービーを狩りまくってたから成長したのだろう。しかし自己再生は自分にしか使えないし、高速再生はどうやら自己再生が前提スキルになっているようだ。
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高速再生Lv1・魔力を消費することで自己再生の速度を上げる。再生速度は消費する魔力の量に応じて変化する。
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結局は自分の傷を治すものでしかない。それこそ俺が怪我をしたのなら簡単なのに……待てよ?
俺は一つのスキルに目を付けた。このスキルは最初のスライムから奪ってはいたのだが、使い道がなさそうなので検証もなにもしていなかった。しかしこのスキルならなんとかできるのではないのだろうか。むしろそれ以外の手は全く思いつかない。
ここまでの思考時間は1秒ほどしか掛かっていない。多分高速思考のおかげだろう。
俺はそのスキルに全てを掛け、少女から角を抜いた。
「……ぅ…」
少女から小さな悲鳴が漏れる。痛いだろうが今は気にしている余裕はない。俺は少女の傷口に触れると、スキルの名をつぶやいて発動した。
「同化Lv2・発動」