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Dランクへの推薦

カノンはそのままギルドの依頼をこなして、夕方にギルドに戻ってきていた。


とはいっても通常依頼は殆どなかったので魔物の間引きやオークの肉の納品などの常時依頼をこなした程度だ。


しかし一日中狩り続けたのでそれなりの数になり、小銀貨5枚ほどの稼ぎになった。


普通Eランクでこの稼ぎはあり得ないらしいが、俺たちの場合は収納スキルがあることと、気配察知で大きめの群を簡単に見つけることが出来るのでこれくらいは割と簡単だったりする。


簡単とは言ってもカノンの体力の問題もあるので楽なことではないが、それでも他の冒険者に比べれば充分稼いでいる方だろう。


受付で報酬を受け取り宿へ戻ろうとしたカノンに受付嬢が話しかけてきた。


「あ、カノンさん。アイリス様が探していましたよ?今なら酒場で食事をされていると思いますので、行ってみてください」


そういわれたカノンの顔は少しだけ嫌そうだった。


まあ俺も朝の続きとか勘弁してほしいが……。


しかしAランク冒険者からの名指しの呼び出しを拒否するわけにも行かない。


「分かりました。行ってみます」


カノンはそういうと酒場の方に向かった。






















酒場に入るとアイリスはすぐに見つかった。


アイリスの周りだけ人がいないのでわかりやすい。


何故誰も近づかないのかと思ったが、近くに行くと簡単なことだと分かった。


アイリスから少し離れた場所に、3人の男たちが倒れている。


気を失っているのか微動だにしない。


「アイリスさん?」


「あ?……か、カノンちゃん?ごめんなさい!」


カノンが恐る恐る声を掛けると、アイリスは不機嫌そうにカノンの方を見てそこにいるのがカノンだと分かった瞬間に謝ってきた。


「あの、何があったんですか?」


「そんな大したことじゃないの。一人でご飯食べてたらナンパされたから」


『全員殴り飛ばしたんです。まったく、アイリスは穏便という言葉を知らないのですか?』


ソルがアイリスの言葉を引き継いでくれた。


ついでに嫌味と説教が混ざっている気がするのは気のせいではないのだろう。


『だから他の冒険者が誰も近寄ってこなかったんだな』


「皆さん、アイリスさんが怖かったんですね?」


『そういうことです』


「女の子に向かってひどくない?」


『女の子はいきなり殴り飛ばしたりしませんよ?』


「はい、その通りです」


相変わらずソルに弱いな。


「えっと、私を探してたって聞いたんですけど……」


「あ、そうそう。忘れてた」


カノンに言われてそのことを思い出すアイリスだが、またソルのお説教コースなのではないのだろうか?


「依頼のお誘いよ。私とカノンちゃんでどうかなって。一応Bランクの依頼なんだけど……」


「ごめんなさい」


「せめて最後まで言わせてよ!?」


アイリスのセリフを遮って断るカノン。


しかし無理もないだろう。


『そもそもBランクだとカノンじゃ受けられないだろ?』


俺の言葉にカノンもこくこくと頷いている。


それを聞いてえっという顔をしているアイリス。


「あれ?カノンちゃんって冒険者ランクは?」


そういえば言ってなかったっけ……。


「えっと、Eランクですけど……」


カノンが言いにくそうに言う。


「……よし分かった!今からギルマスのところに行くよ!」


そう言って食べかけの料理を一気にかき込み、カノンの腕を引いてロンの部屋に向かっていった。


因みにお代は付けでどうにでもなるらしい。


まあ、Aランクなら有名人だし、ソルが居るから後々払い忘れということもないのだろう。





















「ギルマス~、カノンちゃんのランク上げて~」


ノックもなしにロンの部屋に押し入り、開口一番そういったアイリスに対して、ロンは深々とため息を吐いた。


「アイリスさん?いきなり何なの?」


「カノンちゃんのランクを上げてほしいのよ。最低Dランク、出来ればCランクまで」


「何でそんなことになってるの?」


ロンがカノンに聞いてくる。


多分アイリスに聞いても話にならないと思っているのだろう。


「えっと……Bランクの依頼を受けようって……」


「あぁ、もういいよ。何となく分かったから」


カノンの説明のさわりだけで理解できたらしい。


「でもどんな依頼を受けるつもりだい?」


「これよこれ」


アイリスが依頼表をロンに見せる。


カノンの位置からじゃ見えない。


それを見ているロンの顔が段々と険しくなっていく。


「アイリスさん?これは少し無茶じゃないかな?戦力としてなら問題ないけど……」


「それを学ぶいい機会じゃない?」


苦言を呈するロンにあっけらかんと答えるアイリス。


「……一応カノンさんのランクに関しては確認するけど、それでもDランクだよ?」


「それでいいわよ?パーティならCランクパーティとして活動できるから」


「分かった。じゃあ受付に行こうか」


なんとなく疲れた様子のロンはそう言って部屋を出ていく。


カノンとアイリスもそれに続いた。














ロンはそのまま受付の奥に入っていった。


カノンのランクの事を確認しに行ったのだろう。


今はアイリスとカノンの二人で待っている状態なので、先ほどから気になっていることを聞いてみた。


『どんな依頼なんだ?』


「え?あ!そういえば言ってなかった!えっと、私への指名依頼なんだけど、私一人だと少し面倒なんだよね……。調査依頼って感じで、出来れば壊滅!って感じなんだけど」


『壊滅?討伐じゃなくて?』


「別の町の領主様からの依頼で、そこの町で違法奴隷が増えてるらしくて……」


なるほど、納得した。


奴隷には大まかに分けると二つの種類が存在する。


一つが犯罪奴隷。


犯罪奴隷自体が二種類に分けられるが今回それは置いておく。


もう一つは借金奴隷。


借りたお金を返せなくなった者が借金の返済のためになるものだ。


この前者に関しては、死刑囚がなるような鉱山送りはともかく、刑罰のための奴隷に関しては身分が保証されている。


借金奴隷も同じだ。


違法奴隷とは、闇で取引されているもので、地球で奴隷と言って初めに連想されるものと思っていい。


人権もなく、主人の所有物として扱われる。


そしてその殆どが人さらいによるものだ。


以前カノンを攫おうとした盗賊も、恐らくここに流すつもりだったのだろう。


「被害者が増える前に奴隷市そのものを潰したいらしいんだよ。Aランクってこういう面倒な依頼が増えてくるのが嫌なんだよね」


そう言ってため息を吐くアイリス。


しかし、こういった事を依頼として出すというのには違和感を覚える。


いくらAランク冒険者に対しての指名依頼とはいえ、普通は騎士や町の衛兵の仕事なのではないのだろうか?


「あぁ、今回の依頼は少しだけ特別で、普通はこんな依頼はないのよ。今回は封印者(シーラー)の方が都合がいいから私に話が回ってきただけ」


俺たちの考えていることが分かったのかアイリスがそういった。


「えっと、それってどういう……」


「お待たせ」


カノンのセリフを遮ってロンが受付の奥から顔を出した。


「カノンさんのランク何だけど、昇格まで少しだけ足りなさそうだね。もしAランク冒険者とかの推薦とかあれば余裕だし、カノンさんの場合は試験もいらないからすぐにランクを上げられるんだけど」


そう言ってアイリスの方を見るロン。


何となく、無理をするからお前も共犯だと言っているように聞こえてしまう。


「あ~、じゃあ私の名前で推薦しといて」


アイリスは何も考えてないのか簡単に言ってしまう。


それでいいのか?


そもそもカノンはこの依頼を受けるとは一言も言ってない気がするのだが……。


「はぁ、分かったよ。カノンさん、ギルドカードを出してくれないかい?」


「は、はい。あの、こんなに簡単にランクが上がっていいんですか?」


カノンは冒険者カードを差し出しながらもロンに聞く。


「簡単じゃないよ。カノンさんの場合は能力自体は充分に証明されてるし、Aランクからの推薦なんて普通は中々もらえないしね」


そう言ってカードを持って奥に戻っていった。


それを心配そうに眺めるカノンだが、アイリスは涼しい顔をしていた。


「大丈夫よ。ギルマスってランクに関しては厳しいから、いくら私が推薦しても実力のない人はランクアップなんてさせないから。ギルマスが私の推薦を飲んだってことはカノンちゃんはDランクでも大丈夫ってことだよ?」


アイリスにそういわれて少しだけ安心するカノン。


しかし段々と外堀を埋められている気がする。


もうこれ依頼を受けませんとか無理なのではないだろうか?


「もう受けるしかないよね?」


カノンが小声でそういう。


カノンも同じ考えか。


『あぁ、むしろ積極的に外堀を埋めようと頑張ってたな』


「でも大丈夫かな?」


『大丈夫だろ?ソルが居るし』


「私は!?」


わざとアイリスたちにも聞こえるようにしてたんだが、しっかりと突っ込んできた。


『なんか暴走しそうで……』


『ハクさん、その気持ちはよくわかりますよ。ですが私がいるのでご安心を』


ついにソルまで入ってきた。


「お願いします。ソルさん」


カノンもか。


あ、アイリスが膝から崩れ落ちた。


せめて行動の前にワンクッション挟んでくれたら頼もしいんだけどな……。




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