カノンとアイリス
「調子に乗りました。ごめんなさい」
何故か敬語で謝ってくるアイリスに混乱するカノン。
中々にカオスな光景だと思うのは俺だけだろうか?
「あ、あの……その……」
カノンも何を言っていいのか分からないらしい。
当然と言えば当然か……。
「はぁ~、封印者ってみんなこんなかんじなのかな……」
「そんなことはないと思いますよ?」
何やら落ち込んでいるアイリスにカノンが声を掛ける。
「私達なんてハクがとんでもない事言い出して私がそれを止める側ですから!」
『待てカノン!それは聞き捨てならないぞ!?』
カノンの言葉に思わず突っ込む。
「だってそうでしょ?この前もゴブリン相手の作戦、作戦ですらなかったじゃない!」
『あれはまあ……否定できんが……。とんでもない事やるのはお前も同じだからな?』
「……?私そんなにとんでもないことしてる?」
自覚なかったのか……。
『アレーナ村で、最初は正体隠すつもりが結局自分からばらしてるし』
「うっ……」
『ゴブリンの大群相手に白兵戦を仕掛けるし』
「…………」
『Cランク相当の相手に単独で挑むし』
「……ごめんなさい」
ついにカノンが折れた。
「でもハクも似たようなものだと思うけど……」
そうでもなかった。
しっかりと反撃はされた。
自分の行動を思い返してみる。
とはいっても俺のやったことと言えば……
威嚇のつもりで使った魔法でゴブリンの群を骨まで焼き尽くす。
盗賊相手に落とし穴などのからめ手で完封する。
作戦ともいえない作戦を提案する。
かまどを作って少しだけやりすぎる。
うん、充分だった。
『すまん』
ついつい謝ってしまう。
「まぁどっちもどっちかもしれないけどね」
カノンはそう言って苦笑いする。
確かにその通りかもしれない。
それを見ていたアイリスが驚いた顔をしている。
「カノンちゃん達って……なんだか兄弟みたいだね……」
ふとアイリスが呟く。
なるほど、兄弟、もしくは相棒って感じなのかもしれない。
「ソルももう少し優しく…………いえなんでもないですすみませんでした」
アイリスと白虎の力関係はよくわかった。
とは言ってもあれはあれで仲がいいのだろう。
「えっと、気を取り直して……カノンちゃんは何を封印してるの?」
露骨に話題を変えてきたアイリス。
まあ気持ちはよくわかるが……。
「あ、はい、ハクはキメラドラゴンです」
カノンが答えるとアイリスは目を丸くした。
「キ、キメラ!?…………え?キメラドラゴン?キメラじゃないの?竜なの?はい、私の勉強不足です」
なんかやりにくい。
しかしやっぱり神獣だけあって物知りだな……。
「カノンちゃん、キメラドラゴンって竜なの?ソルがそう言ってるんだけど……」
「は、はい。そうみたいです。……だよね?」
何故そこで自信を持って言い切らないんだ?
『あぁ、そのはずだぞ?第一スキルに竜装ってあるんだから竜でいいんじゃないか?』
「それを言うなら魔装もあるけど……」
『そうだが……魔装は少し違う気がするぞ?』
「うーん?そうかな~?」
「ねえカノンちゃん?今魔装って聞こえたんだけど……もしかしてカノンちゃん使えたり……」
魔装という単語に反応したアイリスが恐る恐ると言った様子でカノンに聞いてくる。
「え?はい、使えますけど……」
カノンがそういった瞬間、アイリスは凄い速さで土下座をした。
「お願いしますカノンさん!魔装の習得方法を教えてください!」
「え?」
そのあまりの必死さにカノンが後ずさるが、アイリスもついてくる。
『申し訳ありませんカノンさん。この馬鹿には後でしっかり言って置きます』
突然響いた頭の中に聞こえてくる声。
これは俺と同じ念話だ。
しっかりとした女性のような声。
ここに居る中で俺以外に念話を使うのは限られている。
『……白虎?』
『これは失礼しました。私は神獣・白虎のソルと言います。アイリスの保護者です』
「ちょ!?ソル!?」
本人まで保護者と言い切ってしまった。
アイリスまで驚いている。
『あ、あぁ……こちらこそ失礼した。俺はキメラドラゴンのハクだ』
「あの、なんでアイリスさんはこんなこと……」
『簡単なことです。魔装の習得はアイリスの目標への手段。それだけです』
その目標についてぼかしたのはアイリスへの配慮だろうか?
もしそうだとすればしっかりとアイリスの事を考えている。
誰しも自分の夢を勝手にばらされたくないだろうからな。
そういうことなら教えるのはやぶさかではない。
『とはいっても……俺が元々持っていたスキルだからな……。使えなかっただけで使用条件と習得条件が同じかは……』
「それでもいいです!お願いしますハク様!」
ついに様付けまで進化した。
そこまでして知りたいのか?
『アイリス?ハクさんも戸惑ってしまいますから様付けはやめなさい』
「はい、すみません」
ソルが強い。
『使用条件は魔力操作Lv10と身体強化Lv10になることだ。俺たちの場合は俺のスキルをカノンと共有できるから、カノンが魔力操作、俺が身体強化を持ってるけどな』
『ハクさん、少しよろしいですか?』
俺が説明したところでソルが待ったを掛けてきた。
『先ほど、俺が元々持っていたと言いましたが、魔装はハクさんのスキルなのですか?』
『あぁ、さっき言ったスキルの共有でカノンも使えるがな』
『スキルの共有……そのようなスキルは初めて聞きましたね。しかし、竜が魔装を持っているとは……』
そうか、そういえば魔装は人が使うことが前提のようなスキルだ。
何故俺が持っていたのだろう?
『…………失礼しました、少々取り乱しました。つまりカノンさんはハクさんの持つ魔装を使用しているだけで、ご自分では習得されていないのですね?』
『あぁ、そういうことだ。使用条件なら俺のスキルでカノンも満たしているしな』
『やはりアイリスが同じ条件を満たしたとしても習得は難しそうですね』
「そんなぁ……」
ソルの言葉にアイリスが落ち込む。
まあ仕方ないだろう。
「えっと……どうすれば……」
『あぁ、カノンさん。放っておいて大丈夫ですよ。いつもの事ですから』
『それでいいのか……』
思わず呆れた声が漏れてしまった。
『そういえばアイリスは向こうで事務処理をほったらかしてこっちに来たって話だが……いいのか?』
『それについては今からやらせますのでご心配なく。ではカノンさん、ハクさん。私たちはこれで失礼しますね。アイリス、行きますよ?』
「はい。カノンちゃん達もまたね?」
落ち込んだままアイリスは部屋を出て行った。
「なんだか嵐みたいな人だったね……」
『あぁ、ソルの苦労が目に浮かぶようだ』
残された俺とカノンはしみじみとそう思うのだった。
多分近いうちにまた会うとは思うけど、出来ればしばらく会いたくない。
話をするだけでこれだけ疲れるのは初めてだ。




