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もう一人の封印者

カノンたちは依頼の達成報告をしてから分かれた。


もう少しでGランクの依頼が更新されるそうなので、セレンはそれを取りに行く予定らしい。


カノンは受付でロンから部屋にくるように伝言を受けたので、仕方なくロンの部屋に向かう。


なんか最近呼ばれてばっかりな気がする。


悪いことをしたわけじゃないから別にいいんだが……。


ガチャ


「失礼します」


カノンが扉を開けてから挨拶をする。


因みにノックはしていない。


部屋の中では疲れたような顔をしているロンがいた。


「ついにカノンさんまでノックをしないようになったのか……」


……あぁ、なんかごめん……


でもこんな頻度で呼び出す方にも問題あると思うぞ?


『で、今度は何だ?』


このまま話が進まないのも面倒なので、強制的に話を進めることにする。


「そんな大したことじゃないんだけど、医務室で寝ていた子が目を覚ましたんだよ。で、君に対して恨み言を言ってたから気を付けてって話だね」


アインの事か。


恨み言とは予想通りというかなんというか……。


しかし、そんなことで態々呼ばれるのか?


ここから本題が待っているような気がしてしょうがないんだが……。


「分かりました」


カノンもそう思っていたのか、返事をすると踵を返して部屋を出ようとする。


「あ!ちょっと待ってよ!」


後ろからロンの慌てたような声が聞こえてきたのでカノンは立ち止まって振り返る。


「ここからが本題なんだよ!ていうか、分かっていて帰ろうとしてない!?」


「別に逃げ……帰ろうとなんてしてませんよ?」


「今逃げるって言いかけたよね!?ていうかほとんど言ってたよね!」


『で、今度は何なんだ?』


もうこのやり取りも面倒くさくなってきた。


俺たちから初めて文句を言うのもおかしいとは思うが……。


「うん、この町にはカノンちゃん以外に封印者(シーラー)が一人だけいるのは知ってるかな?」


ロンに言われてカノンがEランクになった時の会話を思い出す。


そういえば、この町に一人いるようなことは言っていた気がする。


確か今は依頼で遠くに行ってるって話だった気がするが……。


「……?」


カノンは首を傾げている。


どうやら忘れているらしい。


『そういえばそんな話もあったな。でも今はいないんだろ?』


「うん、他の町で長期間の依頼を受けてたんだけど、その町のギルドを通して依頼の達成報告があったんだよ。その時にカノンさんの事を伝えといたんだけど、早く会ってみたいって言ってその町を出ちゃったんだよ」


ロンがいろんな人間に振り回されているのはよく分かった。


「で、その連絡があったのがついさっき、彼女が全力を出せばこの町まで二日もあれば着くから、明日にはここに戻ってくると思うんだ」


ロンは大きくため息を吐く。


「問題でもあるんですか?」


ため息をみたカノンが首を傾げる。


「いや、戻ってくること自体に問題はないんだ。ただ、向こうでしないといけない処理を殆ど手つかずで来ちゃったらしいから、今からそれの謝罪と後始末をね」


ロンが遠い目をしている。


気持ちは分からんでもないが……。


「で、カノンさんへの話なんだけど、多分戻ってきたらすぐに君の事を探しに行くと思うんだ。だからいきなりで驚かないように知らせておこうと思ってね」


『で、どんな人なんだ?』


まずそれが分からないことにはどうしようもない気がする。


「第一印象はとてもいいんだけどね。多分向こうもカノンちゃんだと知らずに話しかけたとなれば普通の女性だと思うはずだよ。少なくとも、事務処理を放り出してくるなんて思えないはずだ」


ロンはそう言って苦笑いをしている。


まあ、明日以降気を付けていれば問題はないだろう。


そもそも敵意があるわけでもないだろうし、そんなに警戒するようなことでもない。


「……分かりました」


カノンはそれだけ返事をすると、そのまま部屋を出て行った。








































翌日、カノンは宿で朝食を取ってからギルドに向かっていた。


実を言うと、カノン自身は自分以外の封印者(シーラー)に遭えるかもしれないと少しだけ期待していた。


宿とギルドは近いのですぐに到着する。


そしてギルドの正面まで来たとき、俺の気配察知に不思議な反応があった。


『ん?何だこれ?』


「どうしたの?」


思わず声が漏れ、カノンが不思議そうに聞いてくる。


『いや、魔物のような人のような気配が近づいてきてるんだ』


正確には、両者の間のような気配だ。


気配察知では気配の違いこそ分かるものの、初めての気配がどんな相手の物なのかを識別するすべはない。


しかし、人と魔物の違いくらいは普通に分かるのだが、今回のはそれらが混ざり合ったような気配なのでよく分からない。


周りは誰も騒いでないし、街中なので問題ないとは思っているのだが……。


「それって、昨日ギルドマスターが言ってた人なんじゃないの?」


『俺も最初は封印者(シーラー)特有の気配だと思ったんだがな……』


しかし、カノンのFランクの試験の時、気配察知を持っていたロイドはカノンが封印者(シーラー)だと気が付いていなかった。


つまりあの段階でカノンから漂っていた気配は普通の人と変わらなかったということであり、この気配と同じだったとは思えない。


しかしその答えはすぐに判明した。


「あれ?ハク、あれ見て」


カノンが遠くの方にある建物の屋根を見ながら言う。


カノンの視線の先には、人影が屋根から屋根に飛び移りながらこちらに向かってくる光景があった。


『あれは……獣人?いや、カノンの竜装みたいなもんか?』


不思議な気配の正体はあの人物で間違いない。


段々と近づいてきて、その姿がはっきりと見えるようになってきた。


真っ白な猫耳に、白と黒の縞模様の入った尻尾。


真っ白な髪が腰辺りまで伸びている。


顔は大人しそうな女性だ。


普通なら猫系の獣人だと思うのだが、昨日のロンの話を思い返してみる。


確か、第一印象はいいと言っていた。


まあ、もしも動かずに話し方も普通だとすれば、俺は間違いなく常識人判定をしているだろう。


そんな容姿だ。


そんな容姿であの後先考えていないような行動。


そして、獣人であるイリスからは感じない魔物のような気配。


魔物のようなとは言っても、多分俺たち竜種も同じような気配なんだとは思うが……。


つまり人以外の気配があるということ。


自分で自分の気配は感知できないので実験もできないが、カノンも竜装を使っている間は俺の竜としての気配を垂れ流しているのだろうとの推測。


これらを踏まえると、あの人物が昨日ロンから聞いたこの町に元々居た封印者(シーラー)なのだと判断できる。


「なんかすごい事してるね……」


『あぁ、でもカノンもアレーナ村でしてなかったか?』


確か、規模の小さい村だったとはいえ、カノンも上空を飛んでいたはずだ。


やっていることは大して変わらないのではないだろうか?


その女性はギルドの前に着地し、そのまま中に入った。


「ちょっとギルマスー!新しい封印者(シーラー)の子って何処ー!」


建物の外まで聞こえるその声に、カノンの周りにいた冒険者が一斉にカノンの方を見る。


カノンは居心地が悪そうにため息を吐き、ギルドの中に入っていく。




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