VSキラービー
土煙が晴れるとそこにキラービーの姿はなかった。やはり一筋縄ではいかない。警戒しているとはいえ、一撃でも貰えばこっちの負けは確定だろう。こっちには麻痺や毒の耐性はないのだから。
とはいえ触手伸縮を使ったところであの素早さ相手に攻撃が当たるとは思えない。スピードで勝る相手に攻撃を当てる手段としては、基本は先読みとなるだろう。一部のゲームではモーションを見てからでは回避が間に合わないような敵もおり、そういう敵への対策は予備動作から繋がる攻撃を覚えるというものが一般的になるだろう。初見でどうにかなる物ではない。
しかもそれはゲームのようなプログラムされた動作が相手だからできるもので、現実ではあまり意味をなさない。もちろん相手の癖や型を覚えれば似たようなことはできるが、どっちにしてもそんな暇はないだろう。
ならばもう一つの対抗策を採るしかない。その対抗策はある意味簡単である意味難しい。それは範囲攻撃だ。相手の回避が間に合わないような範囲に一斉に攻撃できれば、間違いなくダメージは入れられる。しかし触手伸縮ではそこまでの範囲はカバーできるか怪しいし、あまり範囲を広げすぎると触手の間を縫って攻撃されるだろう。
今の俺が戦闘で使えそうなスキルはあと粘液くらいしか……。
「待てよ?」
そういえば俺は粘液の能力を確認したとき、トラップに使えそうだと考えなかったか?確かに今からトラップを仕掛けるのは無理だが、俺をトラップに見立てれば策はあるのではないだろうか?
俺を餌に見立てて、触手が網、そして……
いける!!
俺が考えを纏めていると、キラービーは真上から攻撃してきた。俺は気配感知はできないが、虫特有の羽音を聞けば充分に対応できる。
「これなら……どうだ!!!」
俺は触手を10本ほどに分裂させて、キラービーに向けて一気に伸ばした。ただし3本だけがキラービーを狙い、残りの7本は逃げ道を塞ぐように周りに伸ばす。
触手伸縮には限界があるが、それは触手の体積に依存する。今回はいつもの半分ほどの太さの触手にしている。そのおかげで10本にしても6メートル程には伸ばせるのだ。しかしこの太さでは大したダメージにはならないだろう。
キラービーにもそれがわかるのか、今回は触手を避けもせずそのまま突っ込んできた。キラービーと触手がぶつかり、触手は簡単に弾かれていく。そしてキラービーは触手を払いながら俺に向かって突っ込んできた。
俺はその光景を見て、思わず笑みをこぼした。
俺はキラービーを取り囲むように触手を動かすと、粘度を高めた粘液をキラービーに対して放った。
俺が一度に出せる粘液は少ないが、触手の途中にいくつもの噴射口を作り、そこに作成した粘液をいったん保存、一斉に発射することでキラービーが避ける隙間もないくらいの粘液を発射できる。流石のキラービーもこの攻撃は予想外だったのか、粘液をもろに浴びてしまい脱出しようともがきだした。しかし粘度の高い粘液は動けば動くほど体に絡みつくので、キラービーは次第に体が動かせなくなり、俺に向かって落ちてきた。
俺の頭上にいたのだから俺に向かって落ちてくるのは当然だが、でかい蜂が目の前に迫ってくるのは少し怖い。俺は背中の部分をスライムに変えるとキラービーを掴み、全力で地面に叩きつけた。
そしてさらにすべての触手を集結させてハンマーを作った。
「正直ここまで上手くいくとは……予想以上だよ!!」
そのハンマーを身動きのできないキラービー目掛けで振り下ろし、今度はしっかりと虫のつぶれる嫌な感触を感じ取り、対キラービー戦は俺の勝利に終わった。
触手のハンマーでそのままキラービーを取り込み、捕食吸収で吸収する。
これで他の個体が来た時にも少しはましに戦えるだろう。
「さて、俺のステータスはどうなったかな?」
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種族・キメラドラゴン 名称・???
HP・126 MP・141
スキル
鑑定Lv2・同化Lv1・捕食吸収・触手伸縮Lv3・自己再生Lv4・収納Lv1・粘液Lv1・飛行Lv1・麻痺針Lv1・毒針Lv1・方向感覚Lv1・風属性Lv1・魔装(使用不可)
固有スキル
キメラLv1・スキルテイカー
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ステータスを確認してみると、キラービーのスキルが丸々手に入っていた。方向感覚はレベルが下がっているが、おそらくスキルテイカーで奪ったスキルはレベルがリセットされるのだろう。麻痺針と毒針は戦闘ではかなり使えそうだが、これを使うのには針を出す必要があるのだろうか?
もしスライムとキラービーへの変化を同時に使えるのならかなり便利になるだろう。
そして気になるのは風属性だ・
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風属性Lv1・風属性の魔法を使用できる。(Lv1・ウィンドウ・ウィンドボム・エアカッター)
ウィンドウ・風を生み出すことができる。
ウィンドボム・圧縮した空気を放つ。一定時間たつか、使用者の意思で起爆する。起爆すると周囲を吹き飛ばす突風が起こる。
エアカッター・風の刃を放つ。
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風属性が思ったよりも有用そうだ。これ単体ではあまり攻撃力はないだろうが、他のスキルと組み合わせれば戦略は何倍にも広がる。元の世界でラノベを読み漁っていたのが役に立つ日が来るとは思わなかった。
「さて、少し移動してから実験を……ん?」
流石にここではあいつの仲間が襲ってくるのでいったん移動しようとしたら、俺の周りが少し暗くなった。
いやいや…流石にお仲間がいらっしゃったなんてことはないだろう。それにもし仮にお仲間さんだとして、ここいら一帯に影ができるなんてどれだけの数で来たってんだよ。大方雲が出て影になったんだろうな~
俺の希望的観測が正しいことを祈りつつ、ゆっくりを空を見上げてみた。
「ほら、やっぱり雲だよ。なんか雲にしては細かいのがうようよしてるし高さも低いけど……」
なんかさっきまで戦っていた奴と姿が似ているのも偶然だよな……。ってどう見てもさっきの奴のお仲間さんじゃねぇか!!!!
都合が悪くなると現実逃避する癖、直した方がいいかもしれないな。空にはキラービーの大群。その数はざっくり数えただけでも百匹は下らないだろう。1匹相手でも手こずったのにこの数はさすがに無理かもしれん。
さっき手に入れたスキルを使いこなせればまだ可能性はあるだろうが、検証も実験もしている時間がなかった。飛行スキルを手に入れているから空を飛んで逃げられるかもしれないが、ぶっつけ本番で飛ぶのは難しいかもしれない。万が一墜落したら目も当てられない。
幸いにも向こうはこっちの出方を見ているのか襲ってはこない。こうなれば先手必勝で新しいスキルを見て思いついた技を試すしかないか?
俺は翼をスライムに変化させて、触手伸縮を全力で発動した。ただし触手を伸ばすのではなく、その場で膨れ上がらせるイメージだ。その結果、俺の背中には巨大なスライムの球体が出現した。そしてその球体を大砲のように変化させていく。イメージは戦艦の三連の連装砲だ。そして俺の背中から突き出した巨大な大砲が完成した。
キラービーたちは俺の姿を見て何か感じ取ったのか、かなりの速さで飛び回り始めた。狙いを付けさせないつもりだろう。確かに普通の銃火器に対してならその行動は正解だ。
「でもこれは普通の大砲じゃないんだよな」
ポン!
俺は不敵な笑みを浮かべると、砲身から風魔法・ウィンドボムを発射した。かなりしょぼい音がしたが気にしない。
そしてウィンドボムはキラービーの群れの中心で炸裂し、半透明な液体を周囲にまき散らした。
そう、ウィンドボムの中に込めていたのは粘液だ。さっきの戦いで粘液がこいつらに効くのは確認している。
とはいえこの数相手にさっきみたいな戦法は無謀だ。1匹を仕留める間に他の奴らから総攻撃を喰らうだろう。しかし、少しでも粘液を浴びせられれば動きを鈍くできる上、羽の付け根にでも当たれば墜落してくれるだろう。
俺は敵を倒せば倒すほど強くなる。ならば最初にできるだけ倒しておけば、楽に戦闘ができるようになるはずである。
そしてさっき撃った砲身とは別の砲身では、新たな粘液の準備が完了していた。さらに砲身の付け根を肥大化させ、そこに弾を補充していく。これで連射の準備は整った。
ポポポポポポポポポポポポポポポポッ!
少し寂しい音と共に、空に向かって打ち出されていく大量の粘液inウィンドボム。狙いはまんべんなく敵のすべてに対してだ。もしこれが実弾だったのなら、こんなペースで撃つことなどできなかっただろう。一匹一匹に対して狙いを付けるには時間が足りない。だがこの範囲攻撃もどきなら細かく狙う必要はない。
俺の狙い通り、キラービーの殆どが粘液に羽を固定されて落下を始めていた。後はこいつらにとどめを刺せばいい。
「成功してくれよ!」
俺は砲身を二つ分解して触手に戻すと、その先を針に変化させた。さっき倒したキラービーの物だ。正直さっきの攻撃よりもこの形態にする方が緊張した。二つの生物に同時に変身できるか分からなかったから仕方がない。
俺はそのまま触手を伸ばし、落ちてきたキラービーの頭を貫いた。流石に頭をつぶせば大丈夫だろうとの判断によるものだ。そしてそのまま触手を止めることなく、落ちてくるキラービーを次々貫いていく。
因みに貫かれて絶命したキラービーに関しては、触手の一部を肥大化させて包み込み、捕食吸収で吸収、触手が足りない場合は収納にしまい込んでいく。
そしてわずかに残ったキラービーに対しては、一つ残った砲身から粘液爆弾を打ちまくり、ついに最後の一匹も墜落した。
魔力はかなり消費したが、なんとか勝利できたみたいだ。