過去との決別
カノンから飛び出したスライムを見た二人は、顔を見合わせて戸惑っているように見える。
まあ、あのスライムを見ればさっきの地面からの奇襲もカノン絡みだと分かるし、そうなると必然的に、先ほどの攻撃もカノンの意思でいつでもできるということになる。
なのでうかつに攻撃すると、自分たちの方が危ないと理解しているようだ。
「私は別に、戦いたいわけじゃありませんよ?」
カノンは微笑もながらも剣を構えたままだ。
言葉と行動が全く一致していない。
「お前が……お前さえ戻ってこなけりゃ!」
フレッドがいきなり突っ込んできた。
なんか、沸点が異常に低い気がする。
しかしカノンはそれを再び剣で受け止める。
「ハク!」
『任せろ!』
カノンが何をしてほしいのかは何となくわかる。
というか、一応打ち合わせ済みだったりする。
俺はカノンの足元から触手を伸ばす。
そしてそのまま地面の中を突き進み、フレッドの足元の土を収納した。
「おわっ!」
間抜けな声と共に、フレッドが地面に消えていく。
前に盗賊相手にやった即席落とし穴だ。
そしてフレッドが地面の中に消えた瞬間に、そのまま収納から土を吐き出し、フレッドの体を首まで埋める。
最後に地属性の魔法で地面をがっちりと固めてしまえば生首の完成だ。
ちなみにこの間なんと2秒、練習したら実践レベルまで成長できた。
「フレッド!?」
セシリアが慌てて駆け寄るが、フレッドはピクリとも動かない。
落とした瞬間に麻痺針を発動させて、フレッドに刺しておいたので、しばらくは満足に動けないうえ、声も出せないだろう。
「大丈夫です。命まで取ったりしませんよ?」
飄々というカノンを睨みつけるセシリア。
その姿は本当に母親だったのか疑いたくなる。
「カノン、あんた……」
「すぐに掘り起こした方がいいですよ?」
「カノン、あなた、何がしたいの?」
セシリアがカノンを睨みながら聞いてくる。
「最初に言いませんでしたか?話をしたかっただけです。実際、私からは手を出してないじゃないですか」
そういわれてセシリアは苦い顔をした。
確かに、カノンは自分から攻撃を仕掛けてはいない。
口調は煽るようなものも多かったが、それだけだ。
もし、カノンが自分たちを殺すつもりで攻撃してきていたら、そう考えたのか、セシリアは一歩後ずさった。
「……何が望みなの?」
「私がお願いしたいのは一つだけです。この村の人に迷惑かけないでください」
カノンはそう言って軽く頭を下げる。
「………それだけ?」
それを聞いたセシリアはぽかんとしている。
多分、自分を捨てたことを盾にもっと要求されると思っていたのかもしれない。
「はい、今回だって、この村に来るつもりはなかったんですよ?」
カノンは悪戯っぽく笑った。
「なので、元に戻ってくれればそれでいいです。私の事は、元々居なかったものとしてくれてもいいですよ」
「………………分かったわ、そうしましょう。娘の最後のお願いとして聞いてあげる」
セシリアはしばらく考え込んでいたが、頷いてくれた。
母親としての最後の情なのだろうか?
それを聞いてカノンも安心したような表情になった。
「では、村のみんなの方にも伝えておきます。その人、頑張って掘り起こしてくださいね?」
カノンはそういうと、翼を広げて飛び立った。
「ちょ、ちょっとー!フレッドを掘り起こしていきなさいよー!!」
後ろでセシリアが何か言っているのはスルーである。
カノンはそのまま空を飛んで村に戻り、村長にセシリアとの約束の話をした。
村長は、二人を追い出すから村に戻ってこないかと言っていたが、カノンはそれを辞退した。
そして、カノンの住んでいた家で一冊の本を回収していた。
カノン曰く、日記のようなものらしい。
何が書いてあるのかは本人しか分からないが、後で聞いた所、この本の回収をどうしてもしたかったらしい。
そしてカノンは村のはずれにある広場に来ていた。
その端っこで腰を下ろし、広場を見渡している。
「なんだか、懐かしいな~」
ほんわかした雰囲気を纏っているカノンが呟く。
実は、カノンは最後にここが見たいと言ってここに来たのだ。
『何か思い出でもあるのか?』
「うん、この村って何もないからね~。よくここで遊んでたの」
カノンはそう言って広場の端を指さす。
そこには大きな木が生えている。
「あの木にみんなで登ったりして、まあ、私が魔弱だって分かると一人で遊んだりしてたけど……」
なんとも返答に困る事を……。
「でも、楽しかったんだよね……、あ、そうだ!」
ふと、カノンは何かを思い出したように立ち上がった。
『どうした?』
「うん、これからの事をね」
カノンはそういうと、周りに誰もいないのを確認して、翼を出して飛び立った。
『これからの事?』
「うん、町に戻るまでは秘密だけどね」
カノンは悪戯っぽく笑う。
ふと下を見ると、フレッドたちと戦った場所の上空を通り過ぎるところだった。
丁度、フレッドが救出されて二人そろって地べたにへたり込んでいた。
カノンはそれをちらっと見ると、そのまま方向を変えてグラン達との合流地点に向かう。
村でのんびりしていたとはいえ、空を飛んでいるのでいい時間になるだろう。
「ねえ、ハク?」
『ん?どうした?』
「ありがとう、これで前に進んでいける気がする」
残念ながら俺からはカノンの表情は見えない。
しかし、いままでで一番の笑顔であるのは間違いないだろう。
今までは、成り行きで色々とやってきたが、今度は俺たちがやりたいことを出来るだろう。
これからの事を相談するのが楽しみだ。




