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異変

俺たちがどうするか考えていると、遠くの方からこちらに近づいてくる気配を感じた。


というか殺気立った気配を感じた。


『カノン、まずいぞ』


「分かってる。マリアさん!隠れますよ!」


「え?え?」


カノンは小声でマリアにそういうと、意味も分からずオロオロするマリアを引きずって近くの家の陰に隠れた。


『いや、隠れなくても逃げればいいんじゃ……』


俺としては退散するぞという意味でいったはずなのだが、なぜかカノンは隠れてしまった。


「ごめん。でもこの気配、お父さんだから」


カノンはそういうと少し困った顔をした。


しかし、カノンの両親はさっきは家にいたはずだ。


なぜこんなにも殺気立っているのだろう。


そんなことを考えていると、筋骨隆々の大男が見えてきた。


無精ひげを生やしており、佇まいは立派なのだが、なにかが違う。


なにか、内面というか、雰囲気というか、とにかくそういった物が全く違う感じがするのだ。


『カノン、あれか?』


俺の問いにカノンは頷いた。


あの男がカノンの父親らしい。


一応鑑定してみよう。


----------

種族・人間 名称・フレッド

職業・重剣士・Dランク冒険者 年齢・38歳

HP・693 MP・968

スキル

感覚系

身体強化Lv6・気配察知Lv1・威圧Lv4

戦術系

剣術Lv4・大剣術Lv5

魔法系

魔力操作Lv8

技能系

恫喝Lv6・解体Lv1・採取Lv1

----------


何というか、突っ込みどころの多い結果となってしまった。


というか、魔力はかなり多いのに職業は重剣士だし、魔法は一切使えないのに魔力操作だけはレベル高いし、その辺りについては魔弱だったのが関係してそうだ。


たしかカノンも魔力操作は最初からカンストしていた記憶がある。


だからここまではいい。


何でスキルに恫喝があるんだよ!しかもそれなりにレベルが高いし、威嚇じゃなくて威圧スキルも持ってるし……。


ついでにいうと、恫喝と並んでいる解体スキルだが、冒険者なら解体するのは魔物のはずなのだが、この組み合わせでは別の物を解体しているように見えてしまうのは気のせいだろうか?


というか、気配察知を持っているってことはこっちもばれる危険があるのではないか?


『カノン、あいつ気配察知を持ってるぞ?大丈夫か?』


「大丈夫だよ。お父さん、多分使ってないし、あそこまで怒ってたら周りは見えてないしね」


カノンはため息を吐くと、呆れたような目でフレッドを見た。



『でも、なんであんなに怒ってるんだ?』


確かにカノンの事を他の村人に責められたのはあるのかもしれないが、さっきまで家にいて、今村長の家に乗り込んできた理由が分からない。


ドガン!


そんな音とともに、フレッドが村長の家の扉を蹴破った。


見事なやくざキックだが、自分の住んでいる村の村長相手によくやると感心してしまう。


「おいジジィ!出てきやがれ!冒険者なんぞ寄越しやがってどういうつもりだ!」


無人の家に向かって叫ぶフレッド。


なるほど、村長たちは逃げたのか。


「グランさんたち……無事でしょうか?」


マリアが不安そうに呟く。


『まあ大丈夫だろ。流石に村で変なことはしないだろうし』


「その変なことを今まさにしてる所だと思うよ?」


まあ確かに村長の家を襲撃とか、正気を疑うレベルだが……。


「で、どうするの?イリスさんたち探す?」


「そうですね。ですが、動いても大丈夫でしょうか?気づかれるのでは?」


フレッドの怒りはどうやら冒険者に向いているようだ。


もしここで俺たちが見つかれば、面倒なことは避けられないだろう。


『確かにな。触手伸ばして麻痺針でも打ち込むか?麻痺耐性はないみたいだし』


「それやっちゃうと私たちが悪者だよ?私に任せてくれない?この村なら逃げきれるから」


カノンはそういうとマリアの手を掴んで歩き出した。



















カノンはその後、家と家の間を抜けて、村の入り口に戻ってきた。


意外というかなんというか、フレッドは村長宅で騒ぐのに忙しかったらしく、すぐには追いかけてこなかった。


気配察知で探っていたところ、カノンたちが動き出したことには気が付いたようだが、カノンが裏道を通って移動を始めると、どうやら村の子供と思ったらしく村長宅に戻ってしまった。


まあ、よそから来た冒険者が村人しか通らないような裏道を行くとは思わないわな。


入り口にはグランとイリス、そして腰の曲がった老人がいた。


「あ、村長だ」


カノンが小声でつぶやいた。


どうやらあのご老人が村長らしい。


「おう、よかった。無事だったか」


カノンたちを見つけたグランが安堵したように言った。


しかし村の中を歩いていただけのカノンたちにかける言葉ではない気がする。


「なにかあったんですか?」


「あぁ、こちらはこの村の村長なんだが、どうもこの村の用心棒が暴れているらしくてな」


グランは少し困った様子で村長を見た。


村長はカノンをじっと見て、首を傾げたところでグランの視線に気が付いたらしく、咳ばらいをしてから説明してくれた。


「始めまして、この度は依頼を受けてくださりありがとうございます」


村長はそう言って頭を下げた。


「実は、この村の用心棒が今回の依頼に苦言を呈しましてな……」


村長が説明してくれたことによると、今回の依頼は本来なら、この村の用心棒であるフレッドとセシリア、つまりカノンの両親がいれば何ら問題のないことだったらしい。


しかし、彼らは現在、カノンの件を村人に責められた腹いせに、この町の付近にいる魔物を放置しているらしく、今回水場に入り込んだファングウルフも放置しているらしかった。


これに対して村人が抗議しても、まったく改善する気配がないため仕方なくレセアールの冒険者ギルドに対して討伐を依頼した。


ここまでは村長の息子の話とも一致している。


「しかし、その二人が依頼の事を知ったとたん、依頼を取り消せと毎日怒鳴り込んでくるようになったのです」


それを聞いたマリアが呆れたような表情になる。


カノンは片手で頭を押さえている。


「なのでわし等はそこに身を隠しておるのです」


村長がさしたのは入り口近くにあるボロボロの家だった。


元は空き家だったものを利用しているらしい。


「それで村長さんのお宅は誰もいなかったんですね」


マリアが納得したように呟いた。


「おお、そちらに行かれておりましたか。大丈夫でしたか?」


「えっと、ご自宅は襲撃中でしたよ?」


マリアが言いにくそうに状況を説明すると、村長は大きなため息を吐いた。


「そうですか、いや、儂共も言い争いは後悔しておりませんが、冒険者の方にまでご迷惑を……」


村長は申し訳なさそうにうなだれる。


しかし、あの二人はやってることはチンピラと同じだ。


しかし実力はしっかりある分余計にたちが悪い。


「まあそんな訳だ。少し急だが、このまま依頼をこなして帰った方がいいだろう。流石にCランククラス二人に襲われたんじゃ対処できん」


「そうですね」


グランの言葉にマリアも頷く。


「でも、いいの?私たちが帰っても、魔物がいなくなったなら村長さんたちに被害が……」


イリスはカノンの方を見ている。


カノンに確認しているのだろう。


カノンにとってはずっとお世話になった人たちだ。


自分たちは仕事として割り切れるだろうが、カノンはいいのかと。


「ハク、勝てる?」


カノンは小声で聞いてきた。


何に、とは聞くまでもないだろう。


『勿論だ。二人相手でも、カノンは立っているだけでいい』


俺は即答したが、これは強がりではない。


かといって冷静に考えたかと言われると違うだろう。


カノンの事を物みたいに扱った奴らだ。


俺個人として、叩きのめしたいだけだ。


カノンはその言葉を聞くと、周りを見渡して、誰もいないことを確認すると口を開いた。


「三人は魔物を倒したらすぐに撤退してください」


カノンがため息とともに口を開く。


その意味を悟ったグランとイリスは頷き、マリアは心配そうな顔でカノンを見ている。


そして村長は、幽霊でも見たような表情をしている。


「え?いや、その声は……」


「はい、お久しぶりです、村長さん」


カノンはそう言ってフードを取ってほほ笑んだ。








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