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到着

その後、カノンたちはグランが取ってきたウサギらしきもの……いや、見た目はウサギなのだが、俺の記憶ではウサギって角はなかったよな?


額から一本の角の生えたウサギを解体して、持っていた干し肉と野菜で簡単なスープを作り夕食にした。


そして見張りの順番を決めてそれぞれ眠りについた。


カノンは今回が初めてなので、イリスと一緒に見張りをすることになった。


順番は、マリア、グラン、最後にイリスとカノンだ。


一番大変な深夜の時間帯はグランが引き受けてくれたが、帰りはカノンがしてみる方がいいかもしれない。


深夜の見張りは、睡眠が分割されてしまうのでかなり大変らしいが、これも経験だろう。


因みに俺は、カノンが寝ていてもある程度は触手を動かせるし、俺自身は寝る必要がないのでずっと見張りをすることもできる。


ただし、それでは練習にならないので一応起きているだけといったところだろう。


まあそれでも、気配察知は常時発動させることにするが……。





















そんなこんなで一晩が過ぎ、カノンは眠そうに目をこすりながら歩いている。


それに対して他の三人は平気そうなので、もうこれは慣れの問題なのだろう。


実際、カノンたちの番になり、グランに起こされた時もカノンは二度寝しそうだった。


その後何とかある程度目は覚めたみたいだが、一日中歩き続けた後で睡眠時間を3分の2に削るのは流石にきついようだ。


「カノンちゃん?大丈夫?」


イリスが心配そうに声を掛ける。


「は、はい。大丈夫です。すぐに目は覚めます」


カノンはそういうが、目は半分ほどしか開いていない。


「カノンさん、あまり無理はしない方がいいですよ?慣れるまでは結構きついですから」


マリアはそう言って遠い目をしている。


前のパーティでは一体どんな見張りをしていたのか……。


カノンとイリスも気になったのか、じっとマリアの方を見ている。


カノンに関しては眠気も紛れたのか、さっきよりも目は空いているし足取りもしっかりしている。


「マリアさんって、前のパーティではどうしてたんですか?昨日のグランさんみたいな感じですか?」


カノンがそう聞くと、マリアは少し困った顔になった。


「えっと、私が一晩中起きてました。二人は戦って疲れるからって……一晩中ぐっすり……しかも朝ごはんも準備しないといけないし……」


マリアの声は段々と小さくなっていく。


そして声に伴ってその眼からも光が消えていく。


これは……地雷踏んだ?


「あの、マリアちゃん?ごめんなさい」


イリスが思わず謝っていた。


「いえ、大丈夫です。あの頃は、戦えない奴はみんな同じことしてるって言われてましたから」


何だそのふざけた理由は!


確かに戦闘に参加しないなら、戦闘での疲労はほとんどない。


しかし、荷物持ちだったり回復支援であったり、非戦闘員にもしっかりと仕事はある。


見張り専門で雇っていて、それが昼間は寝ているとかならともかく、マリアは昼間も働き続けていたはずだ。


「マリアちゃん、それって、移動中は一睡もしなかったってこと?」


イリスが恐る恐るといっった感じで聞く。


「はい、しかも、戦闘中もしっかり囮として使われてました。今思うと、よく生きてましたよね」


マリアはしみじみとした表情で言っているが、そんな顔で話す内容ではない。


『あの二人、帰ったら一度〆るか』


「奇遇だな、ハク。俺も同じことを考えてた」


それまで空気だった俺とグランは、二人で不穏な空気を出している。


そんなマリアの苦労話を聞きながら、俺たちはアレーナ村に向かった。




























それからしばらく歩くと、ようやく村が見えてきた。


村の周りには木でできた柵があり、簡易的な魔物除けになっているようだった。


『カノン、あそこか?』


「うん、あそこが私の居た村、なんだけど……」


カノンはそう言いながら首を傾げる。


「なんだか……ボロボロ……」


カノンの言う通り、柵の近くにある家はやたらと損傷が激しい。


近づいてみて分かったのだが、外壁についている傷はまだ真新しい。


経年劣化というわけではなさそうだ。


どちらかというと、この近くで何かが暴れた際にその余波を受けてこうなったようにも見える。


『カノンが驚いたってことは、カノンがいた時は問題なかったってことだよな?』


「うん、こんな傷は知らないよ」


やはりカノンがいなくなってからできたもののようだ。


ということは、恐らくここ半月以内といったところか。


「で、どうする?一旦村長の家に行って話を通しておかないといけないんだが、カノンちゃんは流石にばれるだろ?」


確かに、この村でカノンが声を出せば一発でばれるだろう。


「そうですね。この場合はパーティのリーダーと、最低でももう一人が行けばいいですから、グランさんと私かイリスさんが村長さんに話をして、カノンさんは待っているのがいいのでは?」


「そうね、それに、カノンちゃんも行きたいところとかない?」


「え?」


イリスにそう言われ、カノンは少し気まずそうに俯く。


『まあ、俺がいる時点で危険はないだろうし、行きたいところがあれば行ってみるか?』


「いいの?」


カノンの言葉には、仕事中なのにといった意味もあるのだろう。


「大丈夫だ。依頼を出したことのない村なら、こういったことも慣れていない。だから打ち合わせでも時間はかかるだろうしな」


グランの言葉に、カノンは甘えることにした。



























その後、カノンはマリアと一緒に村を歩いていた。


村人とは何人かとすれ違った物の、ローブを着て顔を隠しているカノンに気づいたものはいないはずだ。


まあ、好奇の視線にさらされるのは仕方ないかもしれないが。


そしてカノンが立ち止まったのは、入り口にほど近い一軒の家の前だった。


そして数秒立ち止まると、そのまま歩き出した。


『どうかしたのか?』


「お父さんとお母さん、家で寝てた。だからしばらくは歩き回っても大丈夫なはず」


なるほど、さっきの家がカノンが住んでいた家だったのか。


多分、気配察知で確認したんだろう。


もし両親が家に居なければ、村の中で遭遇する可能性もあるので気を付けないといけないが、家で寝ているのならしばらくは安心だ。


念のため、俺も気配察知で確認するが、確かに家の一角で寝ていると思われる気配が二人分ある。


俺はあったことのないカノンの両親の気配など判別できないが、カノンには充分判別できるだろう。


カノンは安心したような足取りで歩き、しばらくすると足を止めた。


そこは他の家よりも少し豪華な家だった。


「ここが村長の家だよ。多分グランさんたちはここで話し合いをしてると思う」


『話の内容が気になるか?』


「少しね。一か月もたってないのに、少し可笑しいかな?」


自嘲気味にカノンが笑うが、マリアは目じりに涙をにじませていた。


「大丈夫ですよ。今は私たちが一緒です!」


何が大丈夫なのかは分からないが、マリアなりの励ましなのだろう。


カノンは一瞬ぽかんとしたのち、少し嬉しそうにほほ笑んだ。


『しかし、まったく話し声が聞こえてこないな。いくら壁越しでも声くらいは聞こえてきそうなはずだが……』


「確かにそうですね」


村長宅は、確かに立派なつくりだが所詮は村だ。


壁板には隙間もあるし、普通に話をしているなら声くらいは聞こえてきても不思議ではない。


念のため気配察知を使ってみると、家の中は誰もいなかった。


『カノン、マリア。この家の中、誰もいないぞ?』


「「え?」」



「…………畑に行ってるとか……でしょうか?」


マリアがそういうが、カノンは首を横に振る。


「ううん、いつでも誰か一人は残ってるはず。何かあったらここに報告に来るから」


つまり、今の状況は普通ではありえないということだ。


グラン達はともかく、村長やその家族の気配も一切ない。


俺たちの周りを不穏な空気が埋め尽くした。





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