いざ、アレーナ村へ
翌日、カノンたちはアレーナ村に向かっていた。
今回は徒歩で一日半かかるので、野営の道具などそれなりの荷物になっている。
勿論、冒険者なら動きやすいように荷物は最低限にするべきだが、それでもある程度は多くなってしまう。
因みにカノンは何も道具を持っていなかったので、イリスとマリアと一緒に道具をそろえた。
その道具は買ったそばから収納に放り込んでいる。
なので、カノンたちは野営するとは思えないほどの軽装だ。
その道中でも、カノンに対しての説明や、逆にカノンによる魔物の居る水場などの情報の交換を行っていた。
「でもカノンちゃん?この依頼ってカノンちゃんの居た村って話だけど、本当に大丈夫なの?」
一通りの話が終わると、イリスが聞いてきた。
イリスたちはカノンが捨てられたことを知っているので、心配してくれているのだろう。
「はい、私を捨てたのは、両親の独断だったそうですし、それに顔さえ隠せば魔法を使ってるのが私だとは思われませんよ」
そういったカノンは、いつもの防具の上からフード付きのローブを着ている。
フードさえ被れば一目でカノンだと気が付かれないだろう。
とは言っても、村長の息子らしき村の男の話によると、カノンの両親は家に引きこもっているらしいので村の中でばったりと出くわす可能性はほとんどないだろう。
『とはいっても、あまり村の人とは喋らない方がいいだろう。下手をすると声でばれるかもしれん』
俺がそういうと、四人は一斉に頷いた。
因みにグランとイリスとも念話は繋いでいる。
イリスは魔道具越しに俺の声を聴いたことがあったが、グランとは初めて話したかもしれん。
昨日は二人とは念話を繋いでなかったからな。
「いやー、しかしハクがいてくれてよかったぜ。ハクがいないと男一人になるからな」
思い出したようにグランがいう。
しかし、気持ちはわかるが竜を一人の男としてカウントしていいのか?
『気持ちは分からんでもないが……俺は基本的にカノンの中から出られないから男一人って状況に変わりはないと思うんだが……』
「いやいや、話し相手がいるってだけでありがたいよ。男同士でしかできない話もあるしな」
グランはそういうが、俺が話を聞くってことはカノンも聞くってことなんだが……。
『グラン?俺と会話するなら、最低でもカノンは強制参加になるぞ?』
「そうなったら私も参加するわよ?」
イリスが意地の悪い笑みを浮かべてグランに言う。
「あの、私も参加していいですか?」
そこになぜかマリアも入ってきた。
『それはそれで面白くなりそうだよな』
俺がそういうと、グランはバツの悪そうな顔をした。
「いや……やっぱいいや」
一体何を話す気だったのか……。
そんなこんなで一日目の移動が終了し、現在は野営の準備を終えて夕食の準備をしていた。
普通の冒険者は、テントなどは使わない。
テントはそれだけでかなり嵩張るからだ。
そして、毛布などもいくら詰め込もうとも荷物になり、移動の際の負担になりやすいので基本的には薄いものを一枚だけというのが基本らしい。
ただし、収納魔法が使える者は、今回の討伐依頼のように荷物の増える心配が少なく、収納の容量に余裕がある場合はテントを持ち運ぶ場合もあるようだ。
カノンは今回は初めての野営ということもあり、テントは使わず毛布一枚で寝ることに慣れるため、テントは持ってきていない。
なので収納にはかなり余裕があり、他の3人の毛布や非常食などの運搬を一手に引き受けている。
ただし、もしカノンに万が一のことがあった場合のために、他の3人もそれぞれ自分の武器と、最低限の荷物は持つようにしている。
どうやらこの収納スキルは、収納に出し入れするときにわずかに魔力を消費するだけで使える反面、持ち主が死んだりした場合は収納の中身はそのまま取り出せなくなってしまうらしい。
収納にはもう一つ、空間属性の魔法によるものも存在し、こちらは発動している間ずっと魔力を消費する反面、使用者が死ぬか気を失った場合は解除されて中の物があたり一面にばら撒かれるらしい。
俺たちの場合はスキルがあるので関係ないが、魔法による収納は魔力の消費も激しいので、あまり使われないとのことだ。
今現在、グランは近くの森に食料を探しに行っており、俺の気配察知ではウサギほどの大きさの何かを追いかけているグランの様子を感知できている。
イリスは近くの川に水を汲みに行っており、カノンはマリアの指導の下簡易的なかまどを作っている最中だ。
そのあたりに転がっている手頃な石を積み上げているだけだが、これが意外と難しい。
火を使うため不安定な状態では危険だし、その辺りに転がっている石を積み上げているだけなので、うまく組み合わせないと安定しない。
というか、安定させるのがかなり難しい。
マリアの指導を受けながらやってもなかなか上手くいかず、ようやく半分くらいまで積みあがったところだ。
「これ、難しいですね」
思わずといった感じでカノンがこぼす。
それを聞いたマリアは苦笑いをしている。
「そうですね、でも慣れるまでは大変ですけど、慣れると簡単に出来るようになりますよ」
カノンはそれを聞きながら次々に石を積んでいく。
でも、今手に持っている石を置くとバランスが悪くなりそうなんだよな……。
『カノン、そこにはこの石の方がいいはずだ』
俺は触手で近くにあった石をつかみ、カノンに渡す。
「え?うん」
カノンは首を傾げながら石を置いてみる。
すると先ほどまでどこか不安定だったかまどが少しだけ安定した。
「凄い、これだけでこんなに変わるんだ。ていうかハク、なんでそんなこと分かるの?」
それは勿論、日本にいた時にバーベキューをしたときに、何度か今みたいに石でかまどを作ったことがあるからだ。
ただし、一人でな……。
いかん、思い出したら涙が出そうだ。
出る場所はないけど……。
まあ、そんなことをマリアもいる中で言えるわけもなく……。
『何となくだ』
そういうしかなかった。
「それでこんなに上手くできるなら苦労しないよ!」
カノンから突っ込みが入ってしまった。
「ていうか、半分はできたんだから今度はハクがやってみてよ」
『いいのか?』
カノンにそういわれたので、俺はマリアに確認する。
「あ、はい、せっかくですし、私もハクさんのやり方を見てみたいです」
マリアからも許可が出たので、やってみよう。
さて、いっちょやるか。
「ハク?」
「ハクさん?」
二人の呆れたような視線が痛い。
マリアはともかく、カノンからは俺を視界に入れるのは無理なはずなんだが、なんでカノンの視線も突き刺さってくるのだろう?
二人がそんな視線を向けてくる原因は、目の前にあった。
石でかまどを作る、それはよかったのだが、やってしまった。
いや、やりすぎた。
目の前には二つのかまどがある。
その片方はカノンが作っていたものを引き継いだもので、いたって普通の物だ。
問題なのはもう一つで、カノンから引き継いだかまどを作るときに、同時進行で作り上げたものだ。
もう一つのかまどよりもしっかりとした作りとなっており、大きさも少し大きめになっている。
これを作るのに費やした時間はカノンが頑張っていた時間の2割ほどなので、実質カノンの10分の1ほどの時間で作れてしまうのだろう。
『いや~、つい、な?』
「ハク、出来るなら最初からやってよ」
『いやいや、今回はカノンの練習でもあるんだし、俺が最初からやっても意味がないだろ』
「………そうだね」
それを聞いて納得したのか、カノンも渋々引き下がる。
『どっちにしても、これくらいなら地属性魔法を使えば簡単に出来るし』
「「え?」」
俺の言葉にカノンとマリア、二人が反応する。
「ハク、地属性なんて持ってたっけ?」
「というか、一体いくつの属性を持ってるんですか?」
『ゴブリンの中に持ってたのがいたらしくてな。レベルは低いが使えるぞ』
因みに、今の俺のステータスはこうなっている。
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種族・キメラドラゴン 名称・ハク
HP・3624 MP・8964
状態・封印
スキル
感覚系
鑑定Lv5・方向感覚Lv7・気配察知Lv6・高速思考Lv2・身体強化Lv9・念話・威嚇Lv5・魔装(使用不可)
戦術系
剣術Lv5・棒術Lv2・戦斧術Lv1・弓術Lv2・格闘術Lv3・戦槌術Lv1・槍術Lv2
魔法系
魔力操作Lv3・詠唱短縮Lv3・詠唱破棄Lv2・火属性Lv4・風属性Lv8・水属性Lv1・地属性Lv1・雷属性Lv1・治癒属性Lv1
状態・耐性系
麻痺針Lv8・毒針Lv7・毒耐性Lv3
技能系
解体Lv1・料理Lv2・穴掘りLv1・建築Lv2・掃除Lv1・採取Lv1・捕獲Lv1・罠作成Lv1・統率Lv1
特殊系
同化Lv3・捕食吸収・触手伸縮Lv8・自己再生Lv10・高速再生Lv5・収納Lv4・粘液Lv5・飛行Lv9・針生成Lv3・形状変化Lv1
固有スキル
キメラLv2・スキルテイカー・スキルシェアLv2
ユニークスキル
世界の記憶(詳細不明・ナビゲート機能のみ解放)
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こんな感じになっている。
しかし、なんだか見やすくなったな。
多分鑑定スキルのレベルが上がったからだと思うが……。
因みに新しく増えたスキルはほとんどがゴブリンの持っていたものだ。
やはり人型の魔物は使えそうなスキルが多い。
いくらスキルを手に入れようと、魔物に変身できる俺と違ってカノンでは使えないスキルも多いしな。
なので新しく増えた地属性を使えば、かまどを作ることなど造作もないのだ。




