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アレーナ村の異変

ロンに連れられてカノンがやってきたのは、廊下と変わらないくらいの幅しかない暗い部屋だった。


そして隣の部屋に面している壁には、小さな穴があけられていた。


多分、刑事ドラマとかでよく見る取調室をこっそり覗く部屋の異世界版といったところだろう。


「ここでは小声で頼むよ、一応防音結界は張ってあるけど、向こうの声を通す構造のせいで完全じゃないからね」


「は、はい」


ロンが穴の一つをのぞき込む、カノンもそれに習って近くの穴を覗いた。


向こうにいたのは、ギルドの職員とロイド、そして初めて会った時のカノンのような感じの服、つまり村人っぽい感じの服をきた中年の男性だった。


「カノンさん、あの人に見覚えはありますか?」


「はい、アレーナ村の、村長の息子さんだったはずです」


ロンの問いにカノンは即答した。


「彼が依頼を持ってきたのですが、どうやら冒険者ギルドに依頼を出したことがなかったらしく、書いた書類が不備だらけだったらしいんだ」


なのでロイドと職員監修のもと、書き直しているんだそうだ。



しかし、一回も依頼を出したことがないってことは、冒険者が必要な事態もなかったということか?


「でも、年に何回かは冒険者の方は来てましたよ?」


「ですが、ギルドのデータを調べても、アレーナ村に関する依頼はほとんど見つかっていないのです。精々、商人の護衛依頼くらいのもので、村の人が態々出しに来たのは僕がギルドマスターになって初めてではないかと思います」


ロン曰く、なので少し疑問に感じ、カノンに確認してもらったそうだ。


もしカノンが捕まらなかった場合は、この町に滞在している商人の中から、アレーナ村に行ったことがある人を探し出して確認するつもりだったそうだ。


『そこまでするってことは、その村からこの町に来たのはほとんどいないのか?』


「はい、アレーナ村から来た人は他の村からの移住者に比べても少ないです。一応理由はありますが……」


アレーナ村は、レセアールの領地になるらしいのだが、実は隣の領地の町までの方が早くつけるらしい。


なので、納税などの関係で村の代表がこの町にくることは普通にあるが、村から移住してくる人はいないのだとか……。


それに、まずこの世界では移住してくるなど滅多にあることではないらしく、その数少ない人たちは、ここよりも近い隣の町に行ってしまうらしい。


そして壁越しに聞こえてくる男の話、というか、半分以上愚痴を聞いた話によると、今までは冒険者崩れの夫婦に頼んで用心棒的な事をしてもらっていたらしい。


しかし、今回その二人に頼んでも無視されたようで、仕方なくここまで来たとのことだった。


「で、そうなった原因は何だったんだ?」


ロイドが興味を示したように聞いている。


「あぁ、この前、うちの村で魔力測定をやったんです。その時、その夫婦の子供も測ったんですが、その子は魔弱でした」


これは……カノンの事、だよな?


『カノン?』


「……大丈夫」


カノンは少し顔色が悪い気がする。


まあいきなり思い出したくもない話題が聞こえてくれば当然か。


「勿論、私を含めた大人たちはみんな知っていました。あの子だけが、他の子たちとは違って魔道具を使えませんでしたから。ですが、あの二人は何を思ったのかその子を捨てに行ってしまいました」


男の顔が暗くなる。


「誰も止めなかったのか?」


ロイドが口を開いたが、いつもよりも声が低い気がする。


もしかすると、カノンの事だと気が付いてるかもしれない。


「お恥ずかしながら、その子を物のように担いで飛んで行ってしまい……誰も追いつけなかったのです」


申し訳なさそうに俯きながら語る男。


「なので、まずはその後を追って何人かの男が探しに行って、戻ってきた父親を残っていた者が問い詰めようとしたのですが……」


この先は何となくわかった。


「ですが、他のものが問い詰めると、二人そろって何やら喚きだし、そのまま私たちを無視して家に引きこもってしまいました」












『なんだろ~二人よりもカノンの方が大人な気がしてきた』


俺は思わず呟いてしまったが、それを聞いた二人が苦笑していた。


「まあ、確かにカノンさんの方が大人でしょうね……、というより、あの馬鹿共と比べてしまうと誰でも大人に見える気もするけど」


「今思うと、たまに子供っぽい時があったような……」


散々な言われようである。


「しかし、そんなことで仕事を放棄するとは……本気で除名処分にしといたほうがよかったかな?」


『あれ?二人ってもう除名なんじゃないのか?』


「いや、この町に入るなってだけで、冒険者の資格に関してはそのままなんだよ。最も、情報は全てのギルド支部で共有しているから、この町に入れないことも、その理由も調べれば分かるんだけどね」


ロンが言うには、その方が都合がいいらしい。


ギルドには、冒険者に対する強制捕縛の権限などもあり、登録している冒険者がギルドの規律に違反した場合には、国や、領主の判断を待たずに拘束することができるそうだ。


なので、二人に対する首輪的な意味で、資格自体はそのままにしてあったらしい。


「でも、じゃあ前に来ていた冒険者の人って?」


カノンがぼそりと呟く。


『年に数回程度なら、個人的な友人が来ていたか、もしくは近くで依頼があったから泊まるためによった可能性もあるだろうな』


「そうだね。そうじゃなければ商人の護衛くらいしか思いつかないけど」


俺とロンの推測はおおむね一緒のようだ。


「でも、これでこの依頼の不可解な点は解消したね。カノンさん、ありがとう」


「いえ、私も、色々と知れてよかったですから」


カノンはロンのお礼にそう答えると、少しだけ考えるそぶりを見せた。


「あの、この依頼って……」


「あぁ、後で張り出すよ。報酬も預かるし、後は書類の不備さえ直せば問題はないからね」


ロンはそう言って持っていた依頼表をカノンに差し出した。


「もし、カノンさんがここと何のしがらみもないのなら、僕はお勧めの依頼だと思うよ」


ロンの言葉に、カノンは首を傾げた。


「どういうことですか?」


「この依頼は、Eランクの冒険者になったばかりの人が、基本を学ぶにはちょうどいいってことだよ」


この依頼は、住み着いた魔物の討伐依頼である。


討伐依頼には大きく分けると2種類が存在する。


一つは、俗に間引きと呼ばれる常時依頼で、魔物の数が多くなりすぎるのを防いだり、その素材を市場に流す意味がある。


この依頼の特徴として、依頼を受けてから討伐に行くのではなく、討伐した証拠となるものをギルドに納品すれば、それで達成となる。


そしてこの依頼は、基本的に失敗もないが報酬も少ない。


他の依頼のついでとか、受けたい依頼がないのでやるか、ぐらいの物だ。


二つ目は、こうした村や個人から出される討伐依頼で、基本的に依頼を受けてから討伐をすることになる。


この依頼は、基本的に何処にいるどの種類の魔物を、全滅させる、という形の依頼になることがほとんどだ。


勿論、滅多にいない魔物に関しては、一か所に一体しかいないことも多いので、数の指定がされることはないが、今回のように集落の近くに住み着いたり、街道の近くに巣を作ったりした魔物に関しては、その群や巣を全滅させる必要があるのだ。


なので、こういった依頼で必要になるのは、戦闘力はもちろんだが、魔物の巣を見つけ出したり、うち漏らしがいないかを確認する慎重さだという。


もしそれを怠り、うち漏らした魔物によって依頼者が被害を被るようなことにでもなれば、その冒険者に責任がいくこともあり得るとのことだ。


とはいえ、水場を縄張りとしていた魔物が居なくなり、その後に違う種類の魔物が縄張りにすることも普通にあるので、巣を見つけたのに放置したとか、群の個体を何体か逃がしたのに、それを報告しなかった場合くらいしか、責任の追及はされないそうだ。


話を戻すと、この依頼はそういうタイプの物で、個体数も少なく、場所も村の近くの水場のため山の中と比べれば安全だ。


しかも、ここからアレーナ村までは徒歩で約一日半、朝に出発すれば、翌日の昼頃には到着できる。


つまり、一回だけ野宿する必要があり、その訓練にもなるというわけだ。


なので、感情抜きにすればこの依頼は最高の教材であり、誰かDランクの冒険者を含めて臨時パーティを組めば、カノンにとってはかなりありがたい依頼というわけだ。


「だから、カノンさんにはお勧めだったんだけど……」


ロンの言葉を聞いているカノンは俯いている。


しかし、カノンからは暗い雰囲気はほとんど感じないので、悩んでいるといった方がいいのかもしれない。


確かに、カノンにとっては自分の故郷であるし、村人はカノンを疎んでいるわけではない。


ただ、村に行くと、両親と会う可能性があり、その両親に捨てられたカノンにしてみれば、受けないという選択肢もあるのだろう。


「ハク、もし、何かあったら………助けて……くれる?」


なんだかいつもよりも弱弱しい声、しかし、その問いに対する返答は決まっている。


『おう、もちろんだ!』





















































しばらく考えていたカノンは、ようやく口を開いた。


「この依頼、私が受けてもいいですか?」




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