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不穏なクエスト

翌朝、カノンが目を覚ますと既に日は高くなっていた。



昨日はかなり寝ていたが、それでもまだ疲れは取れきっていなかったらしい。


カノンは目を覚ますとギルドの受付に行き、ロンと面会できないか確認していた。


普通,Eランクの冒険者がいきなり面会の申し込みをしても無理なはずなのだが、カノンのギルドカードを見た受付嬢はすぐにロンの部屋に飛んで行った。






















その後、ロンから今すぐでも大丈夫との回答をもらい、そのままロンの部屋を訪ねると、ロンは安堵したような表情を見せた。


「カノンさん。もう大丈夫なのですか?」


「はい。色々とすいませんでした」


「それはこちらにも言えることですよ。貴女にも無理をさせてしまいました。それで、今日はどうされましたか?」


ロンは、カノンのいつもの表情の下にある、いつもとは少し違う表情に気づいているのかもしれない。


まじめな声色で聞いてきた。


「えっと……」


『話に割り込んで申し訳ない。尋ねたい人物がいるんだ』


「尋ねたい人物?」


ロンは首を傾げる。


まあ、カノンがこの町に来てまだそんなに日は経っていない。


態々ロンに尋ねるような人物に心当たりはないだろう。


「…………………………フレッドと、セシリア、この二人の名前に…」


ドガッ!


カノンが言い終わる前に、なぜかロンは椅子から転げ落ちていた。


「か、か、カノンさん。今、フレッドとセシリアって!?」


珍しく取り乱したロンが確認してくる。


「は、はい……」


カノンもロンの豹変ぶりに驚きながらなんとか返す。


というか、カノンの両親の名前を今初めて知った気がする。


しかし、なんでロンはここまで反応するのだろう?


少しして、ロンが何とか落ち着きを取り戻し、椅子に座りなおした。


「すまなかったね。で、その二人の事はどこで?」


言葉遣いこそ元通りだが、その口元はわずかに震えている。


本当に何があったんだ?


「あの、私の両親なんです……」


ドガシャン!


カノンが言いにくそうに口を開き、ロンはまたもや椅子から転げ落ちた。


て、またかよ!!



























「申し訳ありません。少々取り乱しました」


再び、椅子に座りなおしたロンがコホンと咳ばらいをしてから誤ってきた。


『あれを少々と言うか……』


「……カノンさんのご両親があの二人とは思いませんでした」


おい、無視すんな。


俺の突っ込みをスルーして、ロンは話を続けてくれた。


カノンの両親、フレッドとセシリアは、15年ほど前までこの町で活動していた冒険者らしい。


ロンは、もしかしたら名前が同じだけの別人かもというかなり低い可能性を信じたかったようだが、カノンの説明する特徴などから、本人だと断定することになったらしい。


そして、この二人は、よく言えば有名人、悪く言えば、要注意人物だったらしい。


「今から20年近く前かな?僕はまだギルドの事務員をしていたんだ。そのころからあの二人には散々な目に遭わされたよ」


遠い目をしながらロンが語る。


元々フレッドとセシリアの二人は、別々の町から流れ着いたソロの冒険者だった。


その二人がこの町で出会い、二人でパーティを組んで仕事をすることになったらしかった。


それだけなら問題ないのだが、問題があったのは二人の価値観だったらしい。


二人は、魔力の量や能力だけで人を判断しているようだった。


ギルド職員に対しても、受付嬢などの非戦闘員に対しては無理難題を吹っ掛けたりのやりたい放題。


その反面、高ランクの冒険者相手には下手に出ることも多かったらしい。


「因みに二人のランクは、Dランクだったよ。実力的にはCの下位ってところだったかな?」


Cの下位だと、ようやくベテラン冒険者と呼ばれるくらいの実力だ。


しかしランクが低いのはどうしてだろう?


「実力は申し分ないんだけど、素行が悪すぎてランクが上がらなくてね、その憂さ晴らしを僕たち相手にやるんだからたちが悪いよ!」


ロンの言葉がだんだん強くなっていく。


当時の事を思い出して頭に来たらしい。


そして、同じ価値観の二人には共通点があったらしい。


二人とも、魔弱だったらしい。


結局、二人とも封印されているだけだったのでそれを開放して人並み以上の魔力を手に入れた。


そして、魔力が多いので戦闘面での実力があるのでギルドとしても強くは言えなかったそうだ。


その説明を聞いていたカノンは納得したような顔をしていた。


それに気づいたロイドは苦笑いをしている。


「その様子だと、カノンさんにも心当たりがありそうですね」


「はい、あまり思い出したくもありませんが……」


カノンがそういうと、ロンも何かを思い出す様に頷いた。


『話の腰を折るようで悪いんだが、一つ質問させてくれ』


今の話を聞いていて、俺は一つ疑問を持った。


『なんでその二人が村に移住したんだ?』


恐らく周りの事など全く考えないような性格だったはずだ。


周囲からの評判など無視して、この町に住み続けた方が生活は楽だっただろう。


「ハクさんの疑問は最もですね。あの二人は周りからの評判など、半分以上気にしないですから。その答えは、厄介払いですよ」


思ったよりもシンプルな回答が来てしまった……。


どうやら、15年ほど前に、他の町から来た貴族相手に何かをやらかしてしまったらしい。


その貴族は変わり者で、冒険者としての活動もしていたそうだ。


当時、二人はその貴族の冒険者に因縁を付けたそうだ。


内容は詳しく分からないものの、依頼を横取りされたとかなんとかという話になったらしい。


しかし、この二人はそうやって他の冒険者にも絡んでいたそうで、周りから窘められてその場は終わったそうだ。


貴族の冒険者も、冒険者としての活動中の非礼など気にしておらず、その場はそれで終わったそうだ。


しかし、その日の晩、何を考えたのか二人は貴族の冒険者を尾行して、滞在していた宿まで追いかけたそうだ。


話を聞くだけならただのチンピラなのだが、実力はCランク程度なのでたちが悪い。


そして、宿の警備をしていた貴族の私兵に捕らえられ、ギルドも巻き込んだ騒動に発展したらしい。


そして、二人はこの町へ入ることを禁じられ、移り住んだ先がカノンが生まれた村だったというわけらしい。


「いや、正直よく生きてられたとは思ったよ?普通ならそのまま奴隷に落とされても文句は言えないことをしたんだからね?」


確かにそうだろう。


貴族を尾行して宿まで追いかけたんじゃ、暗殺者と思われても文句は言えない。


しかし、尾行された本人が、冒険者同士のいざこざの延長だと言ってくれたので、ギルドとして、落とし前を付けるだけにとどめたそうだ。


「これが僕の知ってる二人の話だ。細かいことならいくらでもあるけど、あまり思い出したくもないからね」


ロンはそう言って苦笑している。


「ありがとうございます。なんだか、色々と納得できました」


カノンはなぜかすっきりとした顔をしている。


「そうですか。最後にこれだけは言って置きます。カノンさん、貴女はあの二人のお子さんでしょうが、それ以前にこの町の冒険者です。そして冒険者とは、生きる責任すべてを自分で負います。カノンさんは、あの二人の事は何も心配しなくてもいいんですよ?」


「はい、ありがとうございます」


カノンは軽く礼をする。


「ところでカノンさん。せっかくこの話題が出たことですし、少し見てもらいたいものがあります」


ロンはそう言って引き出しから一枚の依頼表を取り出した。




・討伐依頼

対象・ファングウルフの群(5~6頭)

アレーナ村よりの緊急依頼

内容・アレーナ村の近くの水場に住み着いたファングウルフの討伐

適正ランク・Dランク

報酬・1万ゴールド





「アレーナ村……」


『カノンの住んでた村か……』


思わずつぶやいた俺たちに、ロンは頷く。


「そう。でも少しおかしいんだよね。あの村には馬鹿二人がいるから、これくらいは依頼にすらならないはずなんだ」


ついにカノンの両親の事を馬鹿と言い始めた。


まあ否定するつもりもないが……。


しかし、確かにその通りだ。


たしか実力がCランクと言っていたから、少しなまっていたとしてもDランクくらいの実力はあるだろう。


それならDランクの依頼くらい問題はないはずだ。


『因みに、ファングウルフってのは強いのか?』


俺の疑問に、ロンは首を横に振った。


「いや、一個体での脅威度はEランク、群でもDランクだよ。だからこの依頼もDランクになってるし、Eランクの冒険者でもパーティさえ組めば充分に討伐できるはずだ。因みに、この依頼が来たのはついさっきだよ。で、カノンさんに聞きたいんだけど、君がいたころでも、この手の依頼はよく出していたかい?」


「えっと……よく分からないです。でも、魔物が出たって話自体あまり聞かなかった気がしますけど……」


カノンは申し訳なさそうに言う。


「やっぱりね。僕もおかしいと思って、持ってきた人に色々と聞いてもらっているんだ」


ロンはそういうと、カノンについてくるように身振りで伝えると、部屋を出た。




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