カノンの両親
カノンが目を覚ましたのは、翌日の昼過ぎだった。
そして今はもう夜だ。
なぜこんなにも時間がたっているのかというと、まず、カノンが起きた段階で俺はまだ借りたままだった魔道具でロンにカノンが起きたことを伝えた。
そしてカノンがゆっくりと覚醒し、カノンに状況をゆっくりと説明している間に知らせを受けたロン、ロイド、イリス、そしてなぜかマリアが到着した。
その後カノンはマリアを除く三人から、数時間にも及ぶお叱りを受けることになっていたのだ。
因みに俺も、カノンを強く止めなかったことを少しだけ怒られた。
そして念のためということでもう一日ギルドの医務室に泊まることになったカノンは、マリアと一緒にギルドに併設されている酒場で夕食をとっていた。
「あ~、ひどい目にあった」
「それは自業自得だと思いますよ?」
『俺も同感だな』
カノンのボヤキに対して、マリアと俺から同時に突っ込みが入る。
因みにマリアには俺の事を教えているし、俺の念話も二人だけに届くようにした。
「ハクも賛成してくれてたよね?」
賛成……したな、そしてよく考えるとまともに止めなかったな、俺。
『しかしな、あんな風に言われて止めるのはハードルが高かったんだよ』
なんとも言い訳じみた言葉が出てしまった。
そしてこのやり取りを聞いていたマリアは少しだけ笑っている。
「カノンさん。いくらハクさんが止めなかったとしても、無茶はしたらだめですよ?」
「『マリア(さん)には言われたくない(です)』」
俺とカノンの声がハモる。
それを聞いたマリアは苦笑いをしていた。
「た、確かにそうかもしれませんけど……私はもう身の丈に合わない依頼は受けないと決めましたよ」
胸を張ってそういうマリアだが、それは威張って言うようなことではない気がする。
「今回もお誘いはありましたが、断りましたしね」
ん?今回の依頼って、確かEランクは中堅以上の冒険者しかいないはずだよな?
「あれ?マリアさんって、ソロではEランクに上がったばっかりなんじゃ……?」
カノンも疑問に思ったらしく、マリアに聞いていた。
「はい。パーティとしての活動中の事が評価されたようでした。それに、この間試験をしていただいたロイドさんも、Eランクの上位の実力はあるって言ってくれたみたいです」
マリアは恥ずかしそうに言う。
「それでも、ソロではほとんど実績がないも同じですので、今回は辞退したんです。カノンさんも、カノンさんなりの考えで動いた結果だとは分かっていますが、もう少し周りに心配をかけていることも自覚してください」
マリアがそういうと、カノンはしぶしぶ頷いた。
『まあ、マリアを含めて、4人ともカノンの心配をして叱ってくれたんだ。どうでもいい奴には説教なんてしないからな』
「………分かった、ありがとう、ハク」
カノンは少しだけ照れ臭そうにお礼を言う。
「マリアさんも、ありがとうございます」
「いえ、むしろ私がお礼を言うべきな気がしてるんですけど……」
『で、だ。カノン、一つ聞いていいか?』
カノンとマリアは喋りながら夕食をとっていた。
俺は二人が食べ終わったタイミングで、真剣な声色で言った。
「ん?どうしたの?」
『なんで、あんなに必死だったんだ?』
俺がそういうと、カノンはバツが悪そうに顔をそらした。
というか、マリアから逸らせても意味はないんだが……。
「…………………………………………………な、何のこと?」
暫しの沈黙ののち、カノンはとぼけることにしたようだ。
『カノン……演技スキル貸してやろうか?』
いや、まだ持ってないけど……。
「な、何のことか分からないよ?」
『お前、何か焦ってるだろ?もしくは、嫌なことでも思い出したか?』
「…………………………………………」
多分このままじゃ話してくれない気がする。
俺はマリアにも向けていた念話をカノンだけに切り替えた。
『カノン、お前と初めて会ったとき、両親の話は聞いた。もしかして、それと関係があるのか?』
俺の言葉に、カノンの肩がわずかに跳ねる。
直観に頼ったが、どうやら正解だったようだ。
「……ごめんね。でも、二人になるまで待ってくれない?」
カノンは消え入りそうな声でいう。
『分かった』
俺たちの会話は、マリアには意味は分からないはずだ。
しかし、カノンの様子を察したのか、明後日の方向を向いて何も見ないようにしてくれている。
いや、そうしてても声は聞こえるから意味ないぞ?
その後、ギルドの医務室に戻ったカノンは、周りに誰もいないことを確認してから話してくれた。
「私、昨日気づいたの。お父さんとお母さんは冒険者だったんだって……」
カノンは言いにくそうに説明してくれた。
昨日、カノンの住んでた家によく来ていた人がロイド率いる集団にいるのを
見たのだという。
そして、その人を見て、両親とその人がしていた会話を思い出したらしい。
その会話の詳細までは思い出せなかったものの、うろ覚えの記憶によると、カノンの両親は元々この町で冒険者をしていて、何らかの理由でカノンの生まれ育った村に住み着いたのだそうだ。
そして村で用心棒のような事をしながら暮らしていたらしい。
どうしてカノンがそのことを忘れていたのかというと、その時の会話でカノンの事が出たからだそうだ。
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「あの子は私たちとおんなじ、魔力が封印されているはずだから、強くなるわよ」
「もし魔力が無かったら?そんなのあり得ないだろ。もしそうなら捨てるだけさ」
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そんな事を色々言っているのを聞いてしまったらしい。
カノンの両親が言っていたのは、魔力が極端に多い子供の例だ。
胎児の時に魔力が多すぎると、母体にも胎児にも悪影響が出る。
そのため、母体、つまり母親は子供を死なせないように無意識に封印を施すことがあるそうだ。
そして、その封印はある程度大きな町で処置をしてもらえば簡単に解除でき、魔力測定で封印の有無も簡単に分かるそうだ。
普通、カノンのように魔力が極端に少ない子供は、封印状態なのか魔弱なのかの検査を受けることが多いそうなのだが、カノンは受けたことがなかったらしい。
しかしカノンの両親はカノンの魔力が封印されているだけだと信じて疑わず、そう他の村人にも触れ回っていたのかもしれない。
そしてカノンに魔力測定を受けさせ、カノンが魔弱だと判明したから捨てた……と、これならつじつまも合うし、いきなりカノンが捨てられたことにも納得がいく。
因みにカノンには、自分には魔力がないことが分かっていたらしい。
本人曰く何となくだそうだが、カノンが最初から持っていた魔力操作Lv10によるものだろう。
話を戻すが、そのことに何となく気づいたカノンは、今のままもし自分が見つかったら、と考えてしまったらしい。
もしカノンの事を両親に報告されてしまうと、もしかしたら自分を連れ戻しに来るかもしれない。
しかし、カノンとしては二度と戻りたくない。
ならば、強引にでも逃げられるように早く力を付けたいと考えたらしかった。
そんなことをしなくても、俺の能力を使えば問題はなさそうだが、個人的なことで俺の力に頼りたくなかったらしい。
それならそうと言ってくれればよかったのに………
『そういうことなら頼ってくれていいんだぞ?というより、それは俺にも関わることになるかもしれないんだ。困ったのなら迷わずに頼ってくれ』
俺がそういうと、カノンは頷いた。
「うん、ありがとう。でも、どうしたらいいのかな?」
『とりあえず、カノンの両親が冒険者だったのならロンにでも聞けば分かるんじゃないのか?』
ロンなら色々と知っていてもおかしくはない。
『まず必要なことは、相手の情報を持つことだ。今日はゆっくりと休んで、明日にでも調べてみよう』
「うん。そうする」
そういうと、カノンは少しだけ安心したようにベッドに入って眠りについた。




