診療所にて
診療所は迷宮からほど近い場所にあった。
確かに迷宮で怪我をする冒険者は多いだろうし当然といえば当然か……。
守衛はカノンをここまで案内すると駆け足で戻っていった。
仕事の合間に抜けさせて申し訳ないと思ったが、道中で聞いたところこれも仕事の一環とのことだった。
迷宮の入り口なだけあって、稀に自力で歩けないほどの重傷者もいるらしい。
そういった人の搬送も仕事らしい。
診療所には冒険者らしき人たちがいるが、人数は多くない。
そもそも、擦り傷程度で来ることはないし、迷宮にはある程度の安全マージンをもって潜っている冒険者がほとんどだ。
大けがをする機会はほとんどないのだ。
診療所の前でリーゼをおろすと、診療所にいた人が慌てて駆け寄ってきた。
「ど!どうされたんですかその腕!」
白衣を着た女性が駆け寄ってきたが、リーゼの腕みて慌てている。
というか、この世界でも白衣ってあるんだな。
まぁ、白っぽいってだけで材質とかは全く違うだろうが……。
「え、えっと、腕がこの状態で……見てほしいんですが……」
「は、はい!こちらにどうぞ!」
リーゼが腕を上げてみせると白衣の女性は慌ててリーゼを連れて行った。
「どうしよう?」
『どうしようって言っても……待ってるしかないんじゃないか?』
リーゼが診療所の奥消えていき、カノンは入り口で立ち尽くしている。
一応、邪魔にならなように端によってはいるが何をするわけでもない。
というか、待つ以外にすることがない。
周りを見てみると、カノン以外にも連れを待っていると思わしき冒険者たちが数人はいるのでリーゼの治療が終わるのを待つしかないだろう。
「……ねぇ、ハク?」
それからしばらく経ったころ、カノンが口を開いた。
『どうした?』
「リーゼさんの腕、治ると思う?」
また答えに困ることを聞いてきたな……。
『……正直に言うと、普通の手段では難しいと思う』
まず、この世界の医療は遅れているが進んでいる。
矛盾した言い方だが、医学的には遅れているがそれを魔法が補っているから元の世界の医療よりもすごかったりするのだ。
実際、ポーションを使えば小さな怪我など速攻で治ってしまうしな。
で、問題は欠損部位が元に戻るかということだが……。
普通のポーションではまず不可能。
そして、治癒属性の魔法でも無理じゃないだろうか?
よほどの高レベルならわからないが……。
『身近な方法だと、俺の高速再生スキルだな。これなら欠損だろうが元通りだろうが、俺を封印しているカノンにしか共有できないし、そもそも人が習得できるスキルじゃないんだよな……』
「そうだよね……」
答えが分かっていたかのように苦笑するカノン。
実際、どうなるのかはリーゼの診断結果次第になるだろう。
それまでに何を相談していても何もできないが、こういう話でもしていないと落ち着かないのはカノンも同じようだな。




