空中機動
「カノン!」
飛び上がったカノンに下からリーゼが声を掛ける。
「私がおびき出すから攻撃は任せるね!」
そういうとリーゼは氷の足場に向かって跳んだ。
「は、はい!」
慌てて、尚且つ少し焦っているカノンの返事を受け取りながら、リーゼは大ジャンプで氷の足場に向かっていく。
『おいリーゼ!落ちたら終わりだぞ!』
「大丈夫!」
やけに自信満々に答えるリーゼ。
無謀なことをする感じじゃなさそうだ。
いや、行動自体は明らかに無謀なんだけど……。
そもそも、よくこんな距離の跳躍が出来るなと思ったら、竜化スキルを使って身体能力を引き上げているようだ。
しかし、リーゼは竜化しても飛べないし、一体どうするつもりなんだ?
そう考えていると、リーゼの下から影が上がってくる。
「っ!リーゼさん!下!」
「了解!カノンはまだ手を出さないで!」
影に気が付いたカノンが声を上げる。
その声にリーゼが返事をするのと同時に、粉雪が爆ぜてブリザードシャークが口を大きくあけながらリーゼ目がけて跳んだ。
普通に考えれば空中のリーゼに回避手段はない。
しかしリーゼに焦った様子はない。
いや、囮にはなったし、ここをカノンが攻撃すればいいだけの話なのだが、リーゼはまだ攻撃するなという。
先ほどの様子からしても隠し玉があるのは分かっているのだが、どうするつもりだ?
カウンター狙い?
いや、それならカノンに攻撃を任せる必要はないし、そもそも制御の利かない空中でカウンターを決めたとしても、跳躍の軌道が変わって雪の海に落ちるだけだ。
だとすると……。
この状況から躱す手段があるという事か?
ブリザードシャークの口がリーゼを飲み込みにかかるその瞬間、リーゼが空を蹴って更に跳んだ。
その結果ブリザードシャークはリーゼを捉えることが出来ずに雪の海に戻る。
「ハク、あれって……」
『あぁ、アイリスがやってたやつだな』
確か、跳躍スキルと何らかのスキルの組み合わせだったはずだが……。
そうか、これがリーゼの隠し玉か。
リーゼはそのまま感触を確かめるように何度か空中を蹴って、手近な足場に着地した。
「うん。大丈夫そう」
満足げに頷くリーゼ。
「凄い……」
そんなリーゼを見て、カノンが呟いた。
「カノン!次はお願いね!」
そんなカノンにリーゼから声がかかる。
「任せて!」
カノンが力強く頷くと、ハクティアを構える。
そして、魔力をハクティアに集めながら攻撃の機会を待つのだった。




