6階層
クリスタルトレントの根元にあった階段は、予想よりも長かった。
そして、階段を下りた先の光景は、俺たちの予想から大きく外れていた。
「雪だね」
『雪だな』
「これが雪?」
俺とリーゼが見渡す限りの銀世界に感心している横で、積もっている雪を手に取って不思議そうな表情を浮かべているカノン。
どうやら、レセアール周辺には雪は積もらないらしい。
とはいえ、まったく振らないわけではなく寒くなれば降りはするようだ。
単純に、積もるほどの寒さにならないだけのようだ。
対してリーゼは銀世界を見たことがあるようで、カノンのような感動は無さそうだ。
というか……。
『ここまで来てようやく雪が出てきたが……すべての階層に雪が積もってるって話じゃなかったか?』
確かカノンから聞いた話ではそんな話だったはずだが……。
「あ~、それは多分……階層の全てに雪が積もってる場所がある……って言うのが間違って伝わったんじゃないのかな?」
俺の疑問にリーゼが答えてくれた。
なんだその伝言ゲームは……。
言葉の順番が入れ替わっただけで意味合いが全く変わってるぞ……。
しかし……。
『そういう事か。でも何でリーゼは分かったんだ?』
「え?迷宮の勘違いの話ってそれなりに有名だよ?まぁ、雪の迷宮なんて名前が付いてるし間違えやすいんだけどね」
まじか……。
「あ、別にこの迷宮に限った話じゃないからね。迷宮って、どこもイメージが名前に先行されていざ潜ってみると想像と違ったって事あるから」
あぁ、確かに、ここも最初から雪が積もってるだろうと思って潜ったら、実際は氷の洞窟って感じだしな。
「だから、多分似たような感じだったのかなってね?」
『なるほどな。っと、カノン、どうだ?雪の感想は』
「凄い!こんな白いんだね。それに冷たい」
不思議そうに足元の雪を手に取っているカノン。
始めて雪を触るにしては感動が薄いような気もしなくもないが、まぁいいか…。
迷宮の中だし……。
しかし、足元の雪以上に俺には気になって仕方ないことがあるんだが……。
『なんで青空が広がってんだ?』
空を見上げて思わずこぼしてしまう。
俺たちの頭上には一面の青空。
……ここって迷宮の中で合ってるよな?
「……あれ?外?」
俺の言葉にカノンが上を見上げて目を見開く。
雪に気を取られてようやく気が付いたらしい。
「空に見えるけどある程度の所で天井があるはずだよ。それでも、さっきまでの洞窟よりは全然高いだろうけどね」
リーゼによると、こういったエリアのある迷宮というのは珍しくないらしい。
明るさも外と殆ど同じで、植物が生育している迷宮もあるようだ。
「……でも、困ったかな……」
俺とカノンが感心している間にも、リーゼは地図を広げて首を傾げる。
「どうしたの?」
「うん。ここからって洞窟じゃないから、目印を探しながら進まないとだめなんだよね」
あぁ……そうか。
ここは地図と目印を照らし合わせて行かないとだめか。
とはいえ……。
『雪一色とはいえ多少の地形は見えるし進めないことはないか?』
「そうだね。これならなんとか?」
「……確かに進むしかないよね」
地図を見ながらギリギリ行けそうだと判断する俺とカノン。
そして覚悟を決めたリーゼが歩き出す。
しかし……。
リーゼの反応が正しかったのだと、俺とカノンは痛感するはめになるのだった。




