一刀両断
「抜刀術・一閃!」
……ピキッ
リーゼの声が聞こえた次の瞬間、クリスタルトレントの枝が揺れて胴体にひびが入った。
これは……。
「見えた?」
『いや……全く見えん』
何をしたのかは分かる。
刀の間合いの外からの斬撃の一閃。
しかし、その抜刀の瞬間は分からなかった。
相変わらずとんでもない速度だ。
というか、今のってなんだ?
スキルにそんな技なんてあったか?
いや、今は置いておこう。
しかしそれ以上に……。
『ひびは入ったな……』
クリスタルトレントの幹は固い。
枝の先ならカノンの魔銃の通常威力の攻撃でへし折れるのだが、幹は傷一つついていない。
距離が遠いので減衰もあるだろうが、それにしたって硬すぎる。
だが、リーゼの斬撃は傷をつけることが出来た。
それだけで威力の高さが分かる。
今回、リーゼがメインで戦う事になっている。
リーゼからの提案で、自分の力を試してみたいらしい。
なので、連携の練習がてらカノンが援護に回ることが作戦の外枠なわけだ。
というわけで、リーゼに迫る氷の棘を潰していたカノンだが、もうカノンが援護をする必要もなくなってきた。
もっと言うと、俺の出番はさらに少ない。
なにせ、最初に相手の攻撃を教えた以外は何もしていないのだから……。
二回目以降の地下からの攻撃は今のところないし、他の攻撃に対する動きを見ていると恐らく俺が教えなくても躱せるだろう。
一撃を入れたリーゼは、クリスタルトレントの周りを時計回りに走る。
カノンは魔銃での狙撃を段々減らし、リーゼが反対側へ行った時点でついに狙撃をやめた。
一応、こちらを狙った攻撃は狙撃しているが、リーゼへの援護はしていない。
正確に言うなら、出来ない……が正しいかも知れないが……。
反対側に居るリーゼへの攻撃なんぞ、どうにもできないし……。
しかし……。
さっき一撃を入れた影響か、リーゼへの攻撃の方が数が多い。
カノンの方が妨害はしているはずなのだが、自分に直接ダメージを入れたリーゼを優先的に狙っているのだろうか?
カノンの援護がない中、雨のような攻撃にさらされているリーゼだが、迫ってくる氷の棘や鞭を踊るように躱し、時には切り裂いて防いでいる。
これがリーゼの実力か……。
リーゼの武器の特性や戦い方の都合もあるのは確かだが、ゴブリンなどの群との戦いよりも、強敵との一対一の方が強い。
寧ろ、今までこういった機会が無くて本領を発揮できなかったのは間違いない。
なんせ、いままでこういった強敵との戦いというと、亜竜くらいだ。
あれはいくら何でもリーゼでは無理だし、そもそも一人で戦う相手じゃない。
他に戦った魔物も、群だったり弱かったりで苦戦するような相手じゃなかった。
今まで本気を出せなかったからこそ、リーゼは階層主の相手をしたかったのだろう。
自分の得意な場面で、どれだけ動けるようになったのか、自分でも確かめたかっただろうし、カノンにも見て欲しかったはずだ。
その証拠に、雨のような猛攻を躱すリーゼはどこか楽しそうにも見える。
そして、攻撃してくる氷を斬る頻度が減っていき、最後には攻撃を完全に躱す様になった。
これは、完全に見切れるようになったという事か?
「もう決めるみたい」
不意にカノンがそう呟いた。
リーゼに視線を戻すと、確かに刀に手を添えている。
魔力も刀に流れ込んでいるようだ。
そして、攻撃の一瞬の切れ目を逃さずに駆け出し、クリスタルトレントに肉薄する。
「抜刀術・二閃!!」
リーゼの声と共に、クリスタルトレントが左右に割れた……。




