階層主
アンナと別れて少しして、カノン達は5階層へと続く通路へとたどり着いた。
この先は、一つの大きな部屋になっていてそこに階層主がいるはずだ。
そして、ここの階層主はその部屋のど真ん中から動けない。
どんな魔物なのかもどんな対策が有効なのかも、しっかりと聞いている。
それを元に策も用意した。
ここまで戦闘も発生しなかったし、突入しても問題は無さそうだ。
カノンとリーゼも同じ考えだったようで、そのまま通路を進んでいる。
そして、通路の先が大きく開けている場所に出た。
「ここ?」
『あぁ、そうだろう。気配察知には反応しないが鑑定には引っかかった』
俺の視線の先には水晶で出来たオブジェクト。
直径2百メートルはありそうなドーム型の部屋の真ん中に、それは存在した。
「……あれが階層主?」
リーゼの質問に俺は肯定を返す。
『あぁ、クリスタルトレント。氷属性を持った木の魔物だ』
目の前の水晶の塊は巨大な樹を形作っており、その枝の先には雪の結晶のような葉をつけている。
分類上はトレントと呼ばれる木の魔物になるが、どう見ても普通の木には見えない。
半透明な水晶はそれだけで神秘的だが、それが巨木になっているというのは中々な絶景だ。
まぁ、いかに神秘的であろうと、その正体は脅威度Cランクの魔物なのだが……。
クリスタルトレントは、木のような姿をした水晶だ。
生物学的には木ではないのかも知れないが、そこはファンタジーな植物とでも思っているしかない。
クリスタルトレントの特徴として、基本的には水晶の体を動かすことは出来ず、その代わりに根や枝の先で水分を凍らせ、その氷を自分の一部のように動かして攻撃してくる。
しかし、あくまで魔法で動かしているだけなので精度も低いし動きも緩慢だ。
だから油断しなければ攻撃を受ける心配はない。
問題なのは、本体の耐久力だ。
水晶の体なだけあって、普通に攻撃をするだけではまともなダメージにはならない。
それが、Cランクに認定されている所以だ。
まぁ、それでも俺たちの攻撃なら充分に通せるし、他の冒険者であってもCランク以上ならソロでも討伐できる。
なので、カノンとリーゼなら問題なく倒せる。
「じゃあカノン、作戦通りに行くね」
「うん。気を付けて」
リーゼの言葉を受けて、カノンは魔銃を構える。
そして、それを確認したリーゼはクリスタルトレントに向かって駆けだした。
『……リーゼ!下だ!』
その直後、俺がリーゼの足元の地面の中を上ってくる魔力を感知。
それをリーゼに伝える。
リーゼは俺の言葉に反応して、即座に跳躍した。
ズボン!
一瞬遅れ、氷でできた棘がリーゼの居た場所に突き出す。
「カノン!」
「任せて!」
そして、カノンはその棘に向かって魔銃の引き金を引いた。
バリン!
そんな音と共に氷は割れ、リーゼは割れた氷の中に着地して再び走る。
クリスタルトレントの枝にも魔力が集まって氷が生成されていくが、そちらはカノンが順次狙撃して、足りない分は俺が魔法で撃ち落としていく。
ついでに地中の魔力の様子も感知してみるが、リーゼを狙う攻撃は無さそうだ。
このまま、リーゼがトレントの根元までたどり着けば作戦成功だな。
『……ん?』
俺がそう思ったと同時、なんだか空気が変わったような気がした。




