ゴブリン殲滅作戦
それから三日後、カノンは町の門に来ていた。
他の冒険者たちも集まってきていて、物々しい雰囲気になっている。
俺とカノンは二日間で、出来ることはやってきた。
ユーリから魔法剣と防具も受け取ったし、その使い勝手も把握した。
そして何種類かの検証も終わらせてある。
収納にはマナポーションと呼ばれる、魔力を回復させる薬を大量に入れている。
他の冒険者たちが怪我を治すためのポーションをいくつか持っているだけに対して、俺たちの収納の中にはマナポーションと、気持ち程度のポーションしか入っていない。
何故なら、俺の高速再生でほとんどの怪我、というよりも欠損すら回復できるうえ、ポーションによる回復は、高速再生と比べるとわずかに遅いらしい。
とはいっても、日本の薬に比べれば十分に早いと言えるのだが……
なので俺たちは、飛行スキルの使用により大幅に消耗する魔力回復のためのポーションを、そのまま怪我の回復にも使うことにしたのだ。
因みにマナポーションはギルドから支給してもらった。
マナポーションは一本約5000ゴールド、これを自腹で買うとなると、数本なら問題ないが流石に量が多いので財布がいたい。
ギルドによれば、今回必要な物資は、消耗品に限りギルドがすべて負担することになったようなので、カノンもマナポーションだけは大量に注文したのだ。
とはいっても、空からの偵察を依頼した段階でマナポーションが必要になることはロンも気が付いていたらしく、カノンが受付で相談すると、すぐに木箱一杯のマナポーションを出してくれたのだが。
因みにゲームとは違い、魔力の回復量には個人差があるので、昨日の段階で防具を付けた状態での飛行スキルの魔力消費と、マナポーションによる回復量は検証済みだ。
多分、一本で15分くらい飛んでいられる程度の魔力を回復できたので、今日一日ずっと飛んでいても問題はなさそうなストックはある。
そしてカノンの防具なのだが、封印者用ということもあって、露出度が高めになってしまっている。
防具の下に来ている服まで専用の物になってしまった。
背中は大きく開いており、肩や袖の一部にも穴がある。
それを隠すように、腰くらいまであるマントを羽織るようになっていた。
しかしこれで、翼を出すたびに服が破れるといったことは気にしなくても大丈夫そうだ。
しかもこれで触手を出すときに、かなり自由に出せるようになったので、何かあってもすぐに対処することができるかもしれない。
「すごい人だね」
『あぁ、Dランク以上の冒険者は基本的に殆ど参加するみたいだし、Dランク間近のEランクの冒険者も後方支援で参加してるみたいだしな』
「てことは……イリスさんとかいるかな?」
『イリスはいても不思議じゃないな』
そんな会話をしていると、遠くの方からこちらに駆け寄ってくる人影が見えた。
遠目からでもわかる頭の上に生えた獣耳は、イリスだ。
「カノンちゃーん!」
イリスはカノンを見つけて駆け寄ってきたらしかった。
「イリスさん。おはようございます」
カノンは軽くお辞儀をした。
「おはよう。カノンちゃんも後方支援で参加?」
「えっと……私は偵察です……」
カノンがそういうとイリスの顔がだんだんと怖くなっていく。
「て、偵察って……カノンちゃん、誰に頼まれたの?」
イリスは笑顔でカノンに聞いてくるが、目が笑っていない。
確かにEランク冒険者を偵察に出すとか、普通は捨て石扱いなのだろうが、イリスはカノンに対して過保護すぎる気がする。
「えっと……」
「ごめんごめん。頼んだのは僕だよ」
ギルドマスターと答えられなかったカノンに助け舟を出したのは、ロンだった。
というよりも、何でいるんだ?
ロンの言葉を聞いたイリスがロンを睨むが、Eランクの冒険者がギルドマスターにする態度ではない気がする。
「そんな睨まないでよ。偵察と言っても、カノンさんの能力で空から見てもらうだけだからさ」
「空から?カノンちゃん。貴女空飛べるの?」
「えっと、はい。竜装スキルで翼出せますから……」
それを聞いたイリスは少し固まったのち、カノンの肩に両手を置いた。
「カノンちゃん。普通の偵察より安全なのは分かったけど、気を付けてね?流れ弾とかも飛んでくるかもしれないし」
「はい、気を付けます」
「そうそう。カノンさんにこれを渡しておくよ」
ロンがそう言って小さな水晶のはまった腕輪のようなものをカノンに手渡した。
「これは通信用の水晶だ。距離は短いけど、ここから目的のゴブリンの集落くらいまでなら届くよ、これで連絡してほしい。この魔道具は4つでリンクされていて、一つはカノンさん。後はロイド、後方支援にイリスさん、そして僕が持つことになるから」
そう言ってイリスにも同じものを渡している。
それを受け取ったイリスは少し困惑気味だ。
「私でよろしいんですか?」
「あぁ、カノンさんが知らない人だと、情報の伝達に支障が出る可能性もあるからね。それに、君はもう試験さえ突破すればDランクになれるから、他のみんなも文句はないだろうしね」
「そういうことでしたら……」
イリスは少しだけ不満そうではあるが、魔道具を腕に着けた。
「使い方なんだけど、相手の声を聴く分には何もしなくても勝手に聞こえてくる。で、自分の声を伝えたい場合は、魔力を流しながら水晶部分に話しかければいいよ」
ロンはそういうと自分の魔道具に魔力を流した。
《こんな風に聞こえてくるから、よろしくね》
カノンとイリスの身に着けていた水晶から、ロンの声が聞こえてきた。
なんか電話のような感じだな。
《おいギルマス!カノンちゃんたちへの説明するのはいいが、一言教えろよ!》
三人の魔道具から、一斉にロイドの声が聞こえてきた。
なるほど、この魔道具はリンクしている水晶すべてに一斉送信するのか。
まるグループチャットをしているようだな。
《そんなわけでカノンちゃん、イリス。よろしくな。特にカノンちゃんは気を付けてくれよ》
「はい、ありがとうございます」
カノンは自分の魔道具に魔力を流しながら言う。
二人の魔道具から声が聞こえていたので扱いも大丈夫そうだ。
「カノンちゃん。早速で悪いんだけど、偵察に行ってもらってもいいかい?報告によると、ここからまっすぐ南に進んだところに集落があるそうなんだ。そこを見つけたら、詳しい場所と状況の報告をお願いするね」
「はい、行ってきます」
カノンはそういうと、身に着けているマントを収納に仕舞った。
どうやら身に着けている物なら、そのまま収納に入れることができ、それを取り出せば、それを身に着けた状態で取り出すことができるらしい。
この二日間で覚えた技だ。
そして竜装で翼を出現させると、そのまま飛び立った。
「ハク、何か見える?」
『いや、とくには何もないな。森の中に魔物の気配は散らばってるように感じるけど』
カノンはロンに言われた通り、まっすぐ南に飛んでいた。
カノンが目視での捜索、俺が気配察知での捜索をしている。
これで森の中の魔物の数も大雑把にだが把握できるので、ゴブリンの集落も探しやすいだろう。
要はゴブリンの数が多い方向に集落があると考えていいはずだ。
少しすると、少しだけ向かって右の方向にかなり濃いゴブリンの気配を感じた。
これは数が多いということで間違いないだろう。
『カノン、すこし右にずれるが大量のゴブリンの反応を見つけた』
「分かった。行ってみよう」
カノンはそういうと、体を傾けて方向を変えた。
目指すはゴブリン共の集落だ。




