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迷宮を進め

「はぁ!!」


「キ!」


カノンの掛け声とともに振るわれた魔剣によって、牙から冷気を漏らしている蝙蝠が両断された。


俺たちがいるのは二階層目、ようやく魔物が出てくるようになるエリアだ。


そして、今倒したのはアイスバット。


その名の通り氷属性の魔法……正確に言えば氷属性の魔力を持った牙で攻撃してくる蝙蝠型の魔物だ。


因みにハクティアの風の刃で一刀両断されたことからも分かるように、耐久力自体は低い。


しかし、ひとたび噛まれてしまうとそのまま凍らされてしまう、何気に面倒な能力を持っている。


そのせいで、脅威度はDランクに設定されており、基本的には安定して倒せる冒険者が挑む相手ではある。


凍らされるというのは、ゲーム的に言えばただの状態異常だ。


まぁ、厄介な状態異常である場合が多いのは仕方がないが、あくまで状態異常である。


しかし、現実ではそうはいかない。


まず、凍るという事は細胞レベルで見れば破壊されているという事であり、凍傷は確実だ。


そして、完全に凍る前に直せたとしても低下した体温はどうにもならないのでまともに動けなくなるだろう。


なので、現実では中々に厄介な能力を持った蝙蝠共になっている状態だ。


そんなわけで戦闘能力の割に高い脅威度が設定されている訳なのだが、正直、遠距離戦が出来る冒険者からしたらただのカモだ。


恐らく、氷の能力さえなかったら脅威度はEランクでも底辺に位置することになるだろう。


そして、これはこの迷宮に限った話ではあるのだが、こいつら、とにかく目立つのだ。


まず、迷宮の中は薄暗い。


しかし、外から光が入ってこないにも関わらず真っ暗ではない。


その理由は壁にある。


迷宮の壁全体が魔力のせいで光を放っており、薄暗い程度で済んでいるのだ。


そして、この迷宮は氷で覆われているので壁全体が青みがかっている。


そこにアイスバットが天井付近に待機する形で待ち構えていたりするのだが、こいつら、色が真っ黒なのだ。


青い洞窟に黒い点が見えれば、遠目からでもアイスバットだと分かる。


更に、こいつら羽ばたく音が意外に大きい。


流石に他の魔物との戦闘中では気が付かないだろうが、警戒して歩いている状態なら間違いなく気が付く。


そんな感じの相手なおかげで遠距離攻撃が出来ればこちらから仕掛けて、尚且つ一撃で仕留められるというコスパのいい獲物だったりするのだ。


そして、あくまでこの迷宮はDランク以上の冒険者しか入れないので、こいつらは冒険者に狩られていく存在になってしまっているのだろう……。


実際、今カノンが倒したアイスバットも単独でいたし、これが初戦闘だったりする。


恐らく、他の冒険者に狩りつくされているのだろう。


迷宮って、もっと魔物が出てくるイメージがあったが、どうやら魔物の沸きが追い付いていないようだな……。


「思ったより魔物居ないね」


魔剣を仕舞ったカノンが呟く。


同じことを思ったらしい。


「この辺りは狩りつくされてますから。道を逸れると少しはいますよ」


カノンの疑問にアンナが答えてくれた。


なるほど。


俺たちは三階層目への階段に向かって最短ルートで進んでいる。


多少道が曲がりくねっているので地図だけでは難しかったかも知れないが、アンナの案内のおかげで問題なく進めている。


まぁ、地図と比べると分かりにくいというだけで、一度通ってしまえば覚えられる程度の道順だ。


もし、三階層以下で稼ごうとしている冒険者がいるのなら同じルートを通るだろう。


ならば、この状況も納得だ。


しかし……意外と獲物の奪い合いに近い状態になるもんなんだな。


ギルドの説明の意味が、ここにきてようやく分かった気がする……。


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