古代の勇者
「まず、勇者とは何か、からお話しした方がいいでしょう。勇者とは、国の切り札みたいなものです。一人で戦況をひっくり返せる能力を持った人を国が勇者という肩書を与えて囲っていました」
アリエルの話を聞いているカノンが早速難しい顔をしている。
俺も似たような顔になってるかも知れんな……。
強い奴は野放しにするより手綱を付けておきたいのは誰でも同じだろう。
「ハクさんの考えている通り、国にとって都合が良かったんですよ。でも、私たちの力は国でも制御しきれない。そもそも、一国と一人で戦争が出来るような人もいましたからね」
だから、勇者は相互監視をする相手でもあったようだ。
というか、それだけの能力を持っているのはもう人じゃないだろ……。
「今でいうAランク冒険者みたいなものかな?」
カノンが首を傾げるが、Aランクのアイリスでも流石に一国相手は不可能だろう。
かなり前に聞いた話だが、確かSランクの冒険者は戦闘能力でも国に匹敵するはずだ。
そして、今の時代でもいるのはいるが、世界に数人レベル。
つまり、目の前のアリエルはそんな存在だったという事か。
「流石に世界に数人なんてことはなかった思いますよ。そもそも、私が生きていた時と今では国力自体も違うでしょうし」
まぁ、それはあるだろう。
しかし、今でいう小国というのがどの程度の規模なのかは不明だが、そんなのと個人で渡り合える奴と戦いたいかと聞かれれば答えは否だ。
というか……。
「一体どれだけ昔の話なんだよ……」
下手をすれば、冒険者とかも存在しないんじゃないのだろうか?
「そうですね。冒険者、という仕事はなかったです。最も、組織化していないというだけで似たような事をしている人たちは居ましたよ?私も勇者になる前はそうでしたし」
なるほど。
個人でやっていたのがいつの間にか組織化したのが今のギルドか……。
「でも、アリエルさんって強かったんですよね?何でこんな所で?」
カノンが当然の疑問に首を傾げると、アリエルが渋い顔をした。
いや、話し始めたのお前だからな?
「あ、あはは……正直思い出したくない過去とでもいいますか……」
いやまぁ……誰も自分が死んだ過去なんて思い出したくないだろうけどな。
「え、えっとですね。私、元々はそれなりの身分だったんですけど、お忍びで町に出て魔物退治をしてたんですよ。で、気がついたらそっちが本業みたいになっちゃって、魔法剣を手に入れて魔剣、聖剣になったんですよね。そのまま聖鎧も手に入れて勇者なんかになってしまって……」
苦笑しながらそういうアリエル。
気がついたらって……。
その一言の裏に一体どんなドラマがあるのやら……。
「で、最期にはあの場所……、私が生きていた頃はただの洞窟だったんですけど、そこで他の勇者に……」
これ、聞かない方が良い話?
もし同じ国の勇者だというのなら、派閥争いじゃ……。
「実際はもっと醜いと思いますけど、聞きますか?」
「「聞きたくない」」
アリエルの問いに、俺とカノンの声がハもった。
「さて、私の話も多少は出来ましたし、そろそろお別れでしょうか?」
満足げに笑うアリエルと、げんなりとしている俺とカノン。
結局、どろどろした話は回避できたが、別の話が続いてしまった。
けれど、俺もカノンも文句は言わない。
どれくらいの間なのかは知らないが、長年独りぼっちだったのだ。
色々と話をしたかったのだろう。
そう思うと、話したいという彼女を邪険にすることも出来なかった。
「あはは、話に付き合ってくれてありがとうございます。でも、また話す機会はありますよ」
ん?
「これで成仏じゃないのか?」
カノンも俺も、勝手にこれでさよならだと思っていたのだが……。
「私もこれは想定外だったんですけど、ハクさんがラティスマギナを吸収したときに私の魂の一部も引っかかってしまったようで……しばらくはハクさんの中にご厄介になります」
おぉ……。
これはまた想定外……。
しかし……確かキメラドラゴンってのは自我とかを取り込まないはずじゃなかったのか?
「魂と自我ってのは別物か?」
俺の質問にアリエルは首を横に振った。
「そんな事はないはずです。だから私も、このままリビングメイルから離れて成仏できると思いましたから。もしかすると、ラティスマギナのスキルと私の魂が繋がってしまったのでしょうか?」
可能性はあるが、推測の域を出ない話だな……。
「どっちにしても、無理やり……偶然の産物なのは間違いないでしょう。恐らく、私もしばらくは眠ったままになると思います。もしかするとこのまま目覚めることが無いかもしれませんが、もし目覚めたらその時はまた話し相手になってくださいね」
そう言ってほほ笑むアリエル。
あぁ……この先どうなるかは、誰にも分からないんだな。
「はい。その時はまたお話ししましょう」
「あぁ、また昔ばなしでも期待してるぞ?」
俺たちの言葉を聞いて、アリエルの表情が少し緩んだ。
それを見届けながら視界が暗転していく中、俺はある言葉を聞いた。
《条件を達成しました。スキル・人化を習得しました》




