脅威度不明の対決
「ハク!」
『どうした?』
後ろから聞こえたカノンの声に短い返事を返す。
「さっきの衝撃、鎧の隙間から出てるからそこを避けて捕まえて!」
『なるほど……分かった!』
流石俺の相棒。
よく見ていてくれた。
「それとリーゼさんが思い出したんだけど、リビングメイルの能力は鎧の持ち主や歴史に影響を受けるみたいで脅威度が測れないみたい!気を付けて!」
マジか……。
まぁ、あの感じからするとさっきまでの有象無象共とは比べものにならないとは思っていたが……。
しかし、思い出してくれただけでありがたい情報だ。
『よし、もう一回行くから待機していてくれ』
俺はそれだけを伝えると、再びリビングメイルに向かって触手を伸ばす。
これだけだとさっきと同じように見えるが、今回は俺自身は地面に降りて翼までスライムに変えている。
頭のいい敵相手に同じ動きが通用するわけはないからな。
変則的に、予想外の動きで攻めてみる。
「……!」
案の定、リビングメイルは自分に向かって伸びてくる触手に向かって剣を振り、風の刃で切断していく。
ここまでは予想通り、確実に触手を潰してくるだろう。
そして、恐らく触手を潰した奴の行動は2パターンに派生する。
一つは、追撃を警戒して後退する。
もう一つは攻撃が止む瞬間をチャンスと見て突撃する。
後退するのは相手を同格、もしくは僅差の格上と認識して警戒している場合だ。
そして、後者を選ぶのはこちらを格下とに認識している場合だ。
で、こいつの場合は……。
ほぼ間違いなく後者だろうな。
俺の予想通り、リビングメイルは切断された触手を掻い潜って俺に向かってきた。
っと思ったのと同時、足を踏み出して走り始めたリビングメイルの周囲の地面からスライムの触手が飛び出す。
「!?」
いきなりの攻撃に足を止めるリビングメイル。
しかし、勢いの付き始めた体はすぐには止められるわけもなく、バランスを崩す。
甲冑というものはそれだけで数10キロを越える重量がある。
流石にそんなものがバランスを崩せば直ちに立て直すのは不可能だ。
そして、この状況であれば触手の拘束は間に合う。
『これで終わりだ』
俺は触手を手足に巻き付けて拘束していく。
さっきと同じ失敗をしないように関節の隙間は塞がないように、出来るだけ関節からは触手を離して拘束している。
これで簡単には引きちぎられないだろう。
『よし!今だ!』
「うん!サンクティファイ!!」
「……!ライト!!」
俺の声を合図にカノンとリーゼの魔法が発動する。
カノンによる浄化の光と、リーゼによる魔法の光に照らされたリビングメイルが逃れようと暴れるが、俺が全力で拘束してるんだ。
簡単に逃げられるわけがない。
……そのはずなのだが……。
今、苦しんでいるはずのリビングメイルと目が合った……気がした。
『……なんだ?』
「……ハク?今……」
気のせいかと首を傾げるのとほぼ同時、カノンが不安そうに口を開く。
『どうした?』
「……目が合った気が……」
カノンもか……。
後の二人はどうだろう?
そう思い二人をちらりと確認する。
「え?私は特に……。アンナさんは?」
「えっと、私もとくには何も感じませんでしたけど……」
という事は俺とカノンだけか……。
一体どうして?
ブチ
「ハク!」
戦闘中に意識を逸らせたのが間違いだった……。
考え込んだ瞬間に聞こえた何かがちぎれる音と、触手が引きちぎられた痛み。
そしてカノンの声に慌てて意識を戻すと、目の前にはリビングメイルの投擲した剣が迫っていた。
あ……。
死んだかも?




