アンデット退治
依頼を受けたカノン達は、そのまま町の外れにある墓地に来ていた。
しかし……。
俺、墓地って言われて西洋風のひらけた物を想像していたんだが……。
いや、確かに洞窟を利用しているとは聞いた。
けど、どこかイメージに引っ張られていた気がする。
街の外れにある小高い丘の下に続いていくように空いている横穴。
その入り口は、鉄の門によって閉ざされている。
まぁ、こちら側に閂があって固定されているだけなので入るためにカギが必要というわけではないようだ。
しかし、鉄の門の横に看板が立っており、いくつかの注意事項が書いてあった。
さっくりと読んでみたが、要するに中にアンデットが発生していることがあるのでその場合は立ち入りは自己責任。
そして、中に入る際に門を開けたままにしておくことは問題ないが、昼間に限る。
つまり、日が落ちる前には門を閉じておけという事のようだ。
これは、内部で発生したアンデットを外に出さないようにするための措置だろう。
「じゃあ、開けるね」
カノンが後ろに控えている二人に声を掛けるのと同時に、閂を外し、門を開ける。
キィィィ…、というさび付いたような音と共に、門が開いた。
「……えぇ…」
門を開けたカノンが開口一番、げんなりとした声を出す。
「どうしたの?……あぁ」
「そういう事ですか」
そんなカノンの様子に後ろから覗き込んだ二人が納得したような声を上げる。
うん。
正直俺も、声を上げそうになったぞ……。
扉の向こうには西洋風の墓地、そして周囲を徘徊するゾンビだ。
体中が腐った動く死体は、初めて見ると衝撃だな。
『そりゃ誰も受けないよな……ここからブレス打ち込んだら駄目か?』
「ダメに決まってるでしょ……正直やってほしいけど……」
「カノンの気持ちも分かるけど、これは慣れていくしかないよ」
そう言ってリーゼが刀に手を掛ける。
アンナも後ろで詠唱を始めたようだ。
「そうだよね……じゃあ、ハク、行くよ」
カノンもそう言いながら魔法剣と魔銃を構える。
そうだな。
俺も覚悟を決めるとしよう。
『よし、じゃあアンナの詠唱が終わったタイミングで突入、各自殲滅していくぞ。奥の方にはゾンビと違う気配もあるから要注意だ』
気配察知で確認できた情報を共有しておく。
洞窟の中ではカノンのサポート以外の仕事はないだろうし、状況分析は責任を持たせてもらおうかな。
「憑依召喚!シルフ!」
『よし!カノン、行くぞ』
俺の声に反応したカノンとリーゼがゾンビの群に突入していく。
「はぁ!」
周囲のゾンビを魔銃でけん制しつつ、魔法剣でゾンビを両断していくカノン。
少し離れた場所では、リーゼが刀でゾンビを切り裂いている。
斬られたゾンビはそのまま土にかえっていく。
流石、アンデット特攻じみた能力だよな……。
ドン!
俺が二人の無双っぷりにため息を吐いていると、カノンとリーゼから少し離れた場所で、爆発のような音が聞こえた。
『ん?……うわ……』
ちらりと音のした方向を見てみると、バラバラになったゾンビの破片が降り注いているところだった。
「……何?」
『アンナしかいないだろう』
アンナの方を見てみると、やはり爆音が聞こえてきた方向に向かって腕を伸ばしている。
見た目は変わっていないが、どことなく雰囲気が違う気がする。
これが憑依士の能力か……。
「アンナ…さん?」
カノンが首を傾げながら呟く。
「あん?あたしはアンナじゃねぇよ。風の大精霊、シルフィードだ!」
そう言って再び誰もいない場所に向かって魔法を撃ちこむアンナ……いや、シルフィード。
というか今、大精霊って……マジか……。




