間接的な覚悟
ルネットまでの数時間でカノンとアンナも大分打ち解け、なんだかんだで俺も会話に参加する様になってしまった。
『しかし……よく下準備もなしに飛び出していったよな』
「お恥ずかしい話ですが、考える前に体が動いてしまって……」
俺の言葉に小さくなるアンナ。
『まぁ、その気持ちはよく分かるけどな』
アンナの言葉に、カノンと初めて会った時の事を思い出す。
「……私にはできないかも」
カノンがぼそっと言うが、俺の知る限りお前も同じだろうが……。
『俺たちが初めて会った時、似たようなことしてたような気がするのは気のせいか?』
「あー、そういえば……」
カノンも思い出したようで苦笑する。
「所で……」
カノンと俺が過去を懐かしんでいると、不意にアンナが呟いた。
『どうした?』
「あの、私を連れ去った山賊はどうなったのでしょう?」
山賊?
山賊……。
『……あ!』
思い出した。
というか完全に忘れていた。
「ハク?」
カノンが不思議そうな顔をする。
『えっとだな。アンナを助けるときに生首状態で地面に埋めてきた』
「その後は?」
『運が良ければ今もそのままだ』
掘り起こすの完全に忘れてた。
いや、掘り起こしても倒すだけなのは変わらないのだが……。
山賊だし、生かしておくと被害者が増えるだろうしな。
「運が良ければって事は、悪かったら?」
『魔物の餌』
短い回答を聞いて、カノンとアンナが納得したような顔になる。
「でもいいんじゃない?だってどっちにしろ命はないんでしょ?」
『まぁな……』
正直、今のところ俺たちは直接的に手を下したことはない。
止めの手前までは何とか出来るが、前回の盗賊戦ではカノンがそこで怯んでしまったのでそのまま殺していない。
かくいう俺も、日本人だった時の感覚に引っ張られているようで心のどこかで直接手を下すことをためらってしまっているようだ。
アンナを助けた場面でも、態々埋めたのは直接手を出すことをためらったからだな。
そんなつもりはなかったが、無意識に忌避していたのだろう。
まぁ、それでもこの状況で生かして連れていくという選択肢はなかったので、間違った対応ではなかったと言えるだろう。
実際、カノンの言う通り、例え生かしてここまで連れてきても馬車の惨状を確認すれば殺すことになっただろうしな。
町まで連行していく余裕はなさそうだし……。
『……で、目の前に見えてきてるのがルネットか?』
話し込んでいる間に、町を囲む外壁が見えてきた。
「あ、はい。そうです」
俺の言葉にアンナが返事をしてくれた。
つまり、多少のトラブルはあった物のなんとか無事にたどり着いたってことだな。
目測であと一キロほどだろうし、ここまで来たら早々トラブルも起きないだろうしな。
「そうだね。で、町に着いたらどうしたらいいのかな?」
カノンがそんな事を言いながら首を傾げる。
そうだな。
確かに今回は今までにないパターンだしな。
『とりあえず……町の入り口で検問があるだろうし、その時に馬車の事を報告。で、後はそこで指示をもらえばいいだろう』
管轄として、乗合馬車の組合か、冒険者ギルドも候補になるが、流石にいきなり行っても無駄足になってしまう可能性もある。
「そうですね。町の入り口で、馬車が襲われた事、その馬車の乗客をここまで護衛してきた事を伝えれば問題ないと思います」
アンナも同意してくれたので、その方針で行くことにしよう。




