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憑依士

馬車に乗っていた乗客たちは、口々にアンナに礼を言い、取り囲んでいた。


一時は危険な状態だったが、乗客たちにとってアンナは自分の身を挺して自分たちを守ってくれた救世主に違いない。


この状態に割り込んでいくのはカノンも気が引けているが、それでも割り込まなくてはいけなかった。


何故なら、この馬車はもう身動きが取れないのだ。


馬も御者もいない馬車は動かしようがない。


……。


いや、正確には方法は無いこともない。


俺が何かに変身して牽いていくことも出来るし、下手をすればカノンでも身体強化に竜装まで発動させれば動かすことは可能だろう。


しかし、流石にそんな事をするつもりはない。


余計な騒ぎはごめんだしな。


というわけで、そのことを乗客たちに伝えた結果、徒歩で町まで移動することになった。


幸い、ここからルネットまでは徒歩でも一時間程度だろう。


それに、乗客の中にも移動が困難なほどの大荷物はいなかった。


馬車の中に残っていた乗客は9人で、その内お年寄りが二人だが、その二人は若い男性が背負っていくことで話は付いた。


最初はカノン達が背負うと提案していたのだが、その場合は魔物に遭遇した際にカノン達の足かせになってしまうという理由で却下された。


というわけで、前方をカノンとアンナ。


最後尾をリーゼが歩いて乗客たちを護衛する形でルネットに向かって歩いていた。


因みに前を歩いているカノン達は、お互いに自分のクラスの説明をしていたりする。


「つまりカノンさんのクラスって、とても条件が厳しいんですね」


カノンによる封印者の説明を聞いたアンナが驚く。


「でも、アンナさんの憑依士も似たようなものだと思いますよ?」


大雑把にアンナのクラスの説明を聞いていたカノンが突っ込む。


アンナの説明によると、憑依士とはその名の通り、自分に何らかの非物質系の生命体を憑依させることが出来るクラスらしい。


非物質系の生命体とは、例えばアンデットの中のゴーストなどの実態の存在しない魔物、もしくは魂そのもの……まぁ平たく言ってしまうと幽霊かな?


そして、精霊もその中に入るらしい。


因みに憑依士の条件は、前提条件として非物質系の生命体の憑依を許容できる体質と、召喚契約を結んだそれらを憑依させたことがあることだそうだ。


この体質というのは、封印者の魔力の許容量だけが多いというのと同じように、ステータスには反映されないものとなっている。


因みに憑依士も封印者と同じように、かなり珍しいクラスらしい。


その代わりと言っては何だが、本人の能力で戦力が左右されることが無いのが特徴だ。


例えば、精霊などに憑依された状態では体の主導権は基本的に精霊が握ることになる。


これは、本人の経験値が低くても憑依させた精霊の力を効率よく運用できるという事であり、それなりのアドバンテージとなる。


アンナのステータスが同ランクの冒険者と比べても低いのはこのためだ。


まぁ、本人の成長が遅くなるのが欠点ではあるのだろうか?


因みに魔力量に関しては、精霊に憑依されている間に引っ張られて上がっていくようだ。


これは、魔法を覚えれば強いのではないだろうか?


『話を聞く限り面白いクラスだよな』


「そうだね。でも私達も同じようにみられてない?」


『まぁ……そうだろうな。少なくとも、見る分にはそう見えるだろうな』


「……私からすると、カノンさんのようにいつでも話せるのは羨ましいです。私は召喚で呼び出している間しか話が出来ませんから」


不意にアンナからそんな声が聞こえてきた。


なるほどな。


確かに、いつでも一緒に居られるわけではないか。


少なくとも、封印者よりは戦術の幅が広がるだろうが、戦闘時以外の汎用性に欠けるクラス……と言った所だろうか?


しかし、封印者と憑依士、話を聞く限りでは、どこか似ていると思ってしまうのは気のせいではないだろうな。



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