助かった命
??? side
…………あれ?
何故私は倒れて気を失っているのでしょうか?
それに……体を動かそうとすると痛みがありますね。
たしか……。
偶々乗っていた乗合馬車が山賊に襲われて、戦えるのは私しかいませんでしたので戦ったのでした。
けれど、結局あっさり負けてしまって……。
……!
そうです!
私は山賊の一人に胸を切り裂かれたのです!
でも今、そこまで酷いけがをしているという感覚はありません……。
一体どういう事でしょうか?
恐る恐るですが、目を開けてみると、私の体に包帯がまかれているのが分かります。
それに……多分ですが包帯の下に薬もつけてもらっていますね。
私は助かったのでしょうか?
あの後、偶然他の冒険者の方がやってきて盗賊を倒してくれた?
いえ、違いますね。
自分の事で精いっぱいで周りの事を全然見ていませんでしたが、ここは森の中です。
という事は、私は山賊に連れ去られたのでしょうか?
そうだとすれば、この場所は納得できます。
ですが、この傷の具合は納得できませんね。
今の怪我と、私の記憶にある怪我は全くレベルが違いましたし。
誰かがポーションを使ってくれたのでしょうか?
そうだとしたらお礼を言わないといけませんね。
ですが、今は馬車に戻らなくてはいけませんね。
私には方向感覚スキルが無いのでどっちに行ったらいいのか分かりませんが、ここでじっとしていることも出来ません。
幸い、痛みはありますが動けないほどでもありません。
これならなんとか歩けるでしょう。
ゆっくりと立ち上がってみましたが、少しフラフラしますが何とか大丈夫そうです。
トス。
「え?」
私が立ち上がるのと同時に、目の前に白い生き物が下りてきました。
その生き物の姿を見た私の顔は、多分この世の終わりみたいな顔をしているでしょうね。
なにせ、小さいですがあれは竜です。
白いので白竜さんでしょうか?
竜は初めて見ましたが、普通の魔物じゃ足元にも及ばない強さです。
例えいつもの私だったとしても、勝てないでしょう。
助かったのだと思った矢先にこれとは、ついていませんね。
ですが、仕方ありませんか。
私は覚悟を決めて目を閉じました。
あれ?
てっきりすぐに襲ってくると思っていたのですが、何もしてきませんね。
コン
そう思っていると、私の足に何か固いものが当たる感覚がありました。
目を開けてみると、どうやら石の様です。
「え?」
何でこんなものが?
そう思って白竜さんの方を見てみると、後ろを向いて首だけこちらを向けています。
これは……。
「着いてこい……という事でしょうか?」
思わずに白竜さんに聞いてしまいました。
言葉を理解してくれるとありがたいですが……。
すると、白竜さんはゆっくりと頷いて飛び立ちました。
私が見失わない距離で立ち止まって、私を待っているように見えます。
何処に行けばいいのか分かりませんし、行ってみましょう。
そう考えた私は、白竜さんについて行くのでした。
間違いありません。
この白竜さん、私をどこかに連れて行こうとしています。
まだ本調子ではない私が遅れる度に立ち止まってこちらを待っているのですから。
でも一体どこに?
そう考えていたら、遠くの方に見覚えのある景色が見えてきました。
いえ、景色というより場所でしょうか?
それに、見覚えのある馬車もありますね。
もしかして……。
「白竜さん、あなたは私を馬車まで案内してくれたのですか?」
白竜さんに問いかけてみましたが、返事など来るわけもありませんよね。
ですが、白竜さんはこちらをじっと見つめ返した後に小さく頷いて、馬車の方に視線を移しました。
私もつられてそちらに視線を移し、再び白竜さんの方を見た時には白竜さんは居なくなっていました。
……私、変なものを見ていたのではないですよね?
そんな恐怖を覚えながら、私は馬車に向かうのでした。




