特殊クラスの冒険者
カノンから飛び出して、気配がする方向に飛ぶこと数分、道から外れた林の中を、木々を掻い潜るようにして走っている薄汚れた格好の男が三人。
そして、その中の一人に抱えられるようにして揺られている冒険者らしい恰好をした女性の姿を見つけた。
『……あれか…』
カノンの中から感知した気配の数と一致することを確認しつつ、ゆっくり高度を落としていく。
気配遮断で気配を隠すことは忘れない。
これをしないと流石に誰かには感づかれそうだしな。
とはいえ、上空では何かの拍子に目視で見つかる可能性もあり得るわけで、そんな事になる前にさっさと鑑定をしてしまう事にする。
鑑定で職業が盗賊や山賊になっていれば、殲滅確定だ。
あと、流石に大丈夫だとは思うが女性の方が真っ当な職業であることは確認しておかんとな。
仲間を連れて撤退という可能性もないわけではないのだから。
『……よし……ん?』
ある程度高度を落とした所で、4人に向かって鑑定を掛ける。
男三人は山賊だったので殲滅は確定したのだが、女性の方のステータスに見覚えのないものを見た。引っかかりを覚えた。
それが、これである。
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種族・人間 名称・アンナ
職業・憑依士 Dランク冒険者 年齢・16歳
HP・5/203 MP・25/1058
状態・瀕死
スキル
感覚系
身体強化Lv2
戦術系
憑依戦術Lv3
魔法系
魔力操作Lv1
固有スキル
精霊召喚・憑依術Lv3
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Dランク冒険者というのはいいとしよう。
鑑定が間違っているとは思えない。
しかし、Dランクにしてはスキルが弱すぎないだろうか?
そして、何故か魔力は多い。
同じDランクのリーゼより……というよりもっと上のランクの冒険者より多いのではないだろうか?
見慣れないスキルもちらほらいる。
というか、憑依士というクラスは恐らく特殊クラスなのだろう。
距離があるのでこれ以上細かい鑑定は出来ないので、気になることはもっと近づいてから……って、あれ?
よくよく見ると体力も魔力も危ない……ってか状態瀕死じゃねぇか!
ゆっくりと観察している暇はない!
これは早急に助け出して治療しなくては!
とりあえずこのまま襲撃しても駄目そう……というか、竜相手では油断もしてくれないだろうから、姿だけは変えておく。
変身するのはファングウルフだ。
何故この魔物を選んだのかって?
スライムは流石に無視されて終わりそうだし、かといってゴブリンやオークはなんか嫌だった。
いや、手とか足とか一部分だけならいいんだけど、なんか全身は精神衛生的に嫌だった。
後は、出来るだけ気づかれずに近づけるのはこの姿だけだろうという理由もあったが……。
さて、というわけで降下しつつ変身し、茂みに姿を隠して近づく。
「……あ?」
ゆっくり、しかし速やかに近づいていき、山賊たちとの距離が残り5メートルを切ったあたりで、山賊たちの中の一人が声を出した。
「どうした?」
「……魔物だ。近いぞ」
そういいながら視線をこちらに向ける山賊。
こいつ、俺の気配遮断を無効化できるレベルの気配察知なんて持ってたか?
いや、今はそんな事を考えている場合ではない。
バレたというのなら仕方がない。
ガサ
俺は山賊たちに向かって、勢いよく茂みから飛び出した。
「な!ファングウルフか!」
「ぎゃぁぁぁ!痛てててて!!」
とりあえず手近な一人に噛みついてみた。
「おい!じっとしてろ!おりゃ!!」
すると、残っていた二人は瀕死の女性を投げ捨てて、そのまま剣を抜いて斬りかかってきた。
これは好都合だな。
あの女性さえ離れれば、こっちも自由に戦える。
そう考えながら、俺は迫りくる剣を見据えた。




