魔物と馬車
気配を感じてから走る事数分、前方に馬車らしきものと、それに群がる魔物の群が見えてきた。
「……あれだよね?」
『あれだな』
カノンからの確認に即答する。
「戦ってるようには見えないんだけど……」
確かにな……。
どう見ても魔物……あれはゴブリンか?
ゴブリンの群に馬車が襲われていて、反撃している様子は見受けられない。
一応気配察知で確認してみると、馬車の中に数人の反応があるので立てこもっているのは分かった。
『馬車の中に立て籠もってるな。一応気配的には無事だが……』
「状況は無事じゃないよね?」
リーゼからそんな指摘が聞こえてきた。
『まぁ……そうだな。中に入られるのは時間の問題だな』
「じゃあ、助けていいんだね?」
カノンがそういうのと同時に、今まで走るために発動していた竜装を解除して魔装を発動させた。
そして、魔法剣を取り出してそのまま馬車を囲むゴブリンに向かっていくカノン。
その後ろから、リーゼも腰の刀に手を当てたまま走る。
「はっ!」
カノンの掛け声と同時、横なぎに一閃された魔法剣から魔力の斬撃が飛び出しゴブリンを襲う。
「「「ギャ!」」」
それにより、数体のゴブリンの胴体が上下に綺麗に切断された。
『……ん?』
俺が手を下すまでもなさそうだったので周りを観察していたのだが、ここから離れた場所に、かなり弱い人らしき気配を感知した。
その周囲には、人らしき気配が3つある。
「ハク?」
俺の声にカノンが首を傾げた。
さて、これはどう判断するべきか……。
平和的に考えるのなら、誰かが怪我をしてその処置をするために急いで町や村に向かっている。
しかし、そんな平和的な事態の可能性は低いだろう。
気配の向かっている方向は山があるだけで町も村もないはずだ。
それにそもそも、馬車の中に人が立て籠もっている状況で逃げだせるのか?
最悪の事態の可能性は捨てがたい。
ここは……。
『……カノン、ここは二人だけで行けるな?』
「え?うん……!……」
俺の言葉に一瞬疑問符を浮かべたカノンだったが、気配察知で同じ気配に気が付いたようですぐに詠唱を始めてくれた。
正直、ここまで弱ってる気配は初めてだ。
恐らく、始めに会った時のリーゼ達より弱い。
瀕死でも可笑しくはないだろう。
もしかしたら、俺が駆けつける必要はない問題なのかも知れない。
しかし、一度見つけたのだ。
手が回らないのならともかく、手を伸ばせるのに手を伸ばさないのでは寝覚めが悪い。
行ってみて問題なしならそれでよし。
問題があれば叩き潰してきたらいいのだ。
カノンも同じ考えだったのか、俺の意図を察してくれただけなのかは分からないが、それでもカノンも同意してくれているのだ。
やれるだけやってやる。
「……!召喚!」
カノンの声と共に、俺はカノンの頭上に召喚された。
『よし!二人とも!ここは任せた!』
そう言って翼を羽ばたかせて上昇していく。
「ハク!向こうはお願いね!」
カノンのそんな声を背に、俺は全速力で気配のある方向に飛ぶのだった。




