緊急報告
その後、一度戻った方が良いという結論に至ったカノン達は、レセアールに戻って真っ先にギルドに来た。
そして、ロンに台地での事を報告していた。
「なるほどね……あんな場所に迷宮とはね」
カノン達の報告を聞き終えたロンがそういいながらため息を吐く。
「気のせいかも知れないけど、最近厄介ごと多くないかな?」
『そう言われても……こんなもんだろ?ゴブリンの集落に始まってちまちま起きてるぞ?』
「前はこんな頻度じゃなかったんだよ?」
俺の言葉に苦笑するロン。
「で、話を戻すけど、報告の内容からすると、状況から迷宮って推測してる段階で確信はないってことだね?」
ロンの言葉に頷くカノンとリーゼ。
「はい、私もカノンも迷宮に潜ったことがありませんので、比較のしようもありませんでした」
「それは仕方ないよ。迷宮に潜ったことのある冒険者の方が少ない地域もあるんだしね。でもそっか、さっきの揺れはその時のだったのか」
揺れ?
『さっきのって事はここでも揺れはあったのか?』
確かにあの台地はレセアールからほど近い場所にあるが、あの揺れはあそこだけの局所的なものだと思っていた。
「うん、とは言っても、カノンさんたちの報告にあったような揺れじゃなかったよ?積み上げた書類が落ちる程度だったから」
そう言いつつ机の片隅に居ある書類の山に視線を移すロン。
高く積み上げられた書類の山は不安定で、少しの衝撃で崩れてしまいそうだ。
『そんなもの簡単に崩れるだろうが……しかしそうか……ここでその程度だったのか』
それならおおむね予想通りか?
「その揺れについても調査するつもりだったし、カノンさん達の情報にある迷宮と無関係とも思えない。この件については迷宮も含めてギルドで正式に調査するよ。というわけで……」
そこまで言いながらカノンとリーゼに何かの書類を差し出すロン。
「えっと……これは?」
その書類を受け取りつつカノンが疑問を投げかける。
「揺れの調査に関しての依頼書だよ。カノンさんたちの報告を聞いた後だから事後承諾になっちゃうけど、この話は正式なギルドの依頼にするってことだね」
それは有り難い話だが……。
『いいのか?』
流石に特例が過ぎるのではないだろうか?
「いいも何も、ここだけの話カノンさんたちが戻ってきたら依頼するつもりで書類だけ作ってたからね。調査に出向いてもらう手間が省けたよ」
そう言ってとてもいい笑顔で笑うロン。
最初からこっちに依頼するつもりだったのか……。
通りですぐに書類が出てきたと思った。
「そういうわけで、カノンさんたちの報告で揺れの原因も分かったしこの依頼は達成扱い、この後に出す迷宮探索の依頼も受けて貰おうと思ったんだけど……」
段々とロンの語気が弱くなっていく。
『どうしたんだ?俺たちは元々準備をしたら潜ってみるつもりだったし受けるのは問題ないぞ?』
「それなんだけど……二人は迷宮に潜ったことはないよね?」
「は、はい」
「私もないです」
ロンの質問の意図が読めずに困惑気味に答えるカノン達。
「ギルドの規定で、未開の迷宮、つまり最深部までたどり着いた者のいない迷宮の探索依頼は、基本的に走破済みの迷宮を探索したことのある冒険者にだけ出すことが出来るんだよ。だから、カノンさん達にこの依頼を出すことはできないし、あの迷宮も出来れば立ち入りは避けて欲しいかな?」
『つまり、あそこにカノン達が入るには別の迷宮に潜ってくるか、誰かが最深部まで探索するのを待たないといけないって事か?』
「そういう事。迷宮は特殊な空間だから、未経験の冒険者が何の前情報も持たずに入るのはリスクが大きすぎるからね」
そういう事なら仕方ない。
「……なら、どこか迷宮に行って来たらいいんですね?」
確認する様にカノンが言う。
「そうだね。レセアールから近い迷宮は……森の迷宮、岩の迷宮……後は雪の迷宮も…」
ロンが雪の迷宮と言った瞬間、カノンの眼の色が変わった。
『……よし』
「次の目的地は雪の迷宮だね」
俺とリーゼがそういうと、カノンが驚いたような顔をした。
「え?いいの?」
『いいも何も、とりあえず迷宮に行かないとあそこは入れないだろ?』
別に入れないことはないだろうが、ギルドがそう取り決めている以上、従った方が良いのは間違いない。
それに、元々の目的地でもあった訳だし好都合だ。
「なるほどね。じゃあ目的地はルネットだね」
『ルネット?』
「うん。雪の迷宮の近くにある町でね。小さいけど面白い町だよ?」
なるほど。
ならとりあえずはその町に向かうことになるんだな。
思わずして次の目的地が決まったが、念願の迷宮に行けるし運がよかったのかも知れないな。




