迷宮の内部
洞窟の入り口でどうするか相談をした俺たちは、とりあえず中に入ってみることにした。
今のままでは、この中が迷宮だという確証もないし、それ以外の可能性もあるからだ。
それでも、洞窟の内部は魔力が満ちていて魔力感知が仕事しないし、これほど魔力の濃い場所で気配察知やほかの感知系スキルが機能するかどうかも怪しいので、慎重に慎重を重ねて行動をすることになったが。
というわけで、周りを気配察知を始め各種感知系スキル、さらに目視や物音など普段よりはるかに警戒しつつカノン達は洞窟の中に足を踏み入れた。
「……あれ?」
洞窟の中に入ったカノンの第一声が、それだった。
そして、その声の意味は俺には分かった。
入り口を潜った瞬間、なんとも言えない奇妙な感覚に襲われたのだ。
しかし、隣に居るリーゼだけはカノンの様子に首を傾げていた。
「カノン?どうしたの?」
「えっと……変な感じが……リーゼさんは何も感じなかった?」
「え?とくには何も……」
『俺も変な感じがしたが……俺とカノンだけがか?』
リーゼはカノンより感知能力に劣る。
勿論、カノンの使えない竜感知など、完全に劣っているわけではないが、それでも総合的にはカノンよりしただ。
しかし、今回リーゼだけが違和感を覚えなかったのはそれが原因ではないだろう。
「ハクも変な感じあったの?」
『あぁ、気になるのは、俺たちとリーゼ、どっちが特別なのか……だな』
「……他の人でも何か感じるのか、私みたいに何も感じないのかってことだよね?」
『そういう事だ。まぁ、今回は俺たち……というかカノンとリーゼの違いを考えてみるのが一番か……』
どちらかが何らかの条件を満たす、もしくは足りないために違いがあったのかもしれないし……。
「私とリーゼさんの違い……まずは歳だよね?」
カノンが考えるそぶりを見せつつ呟く。
真っ先にそれが思い浮かんだか……。
『流石に歳って事は……あり得ない話じゃないのか?』
元の世界じゃ歳を誤魔化すことも簡単と言えば簡単だったが、この世界には鑑定スキルがある。
だから、歳を誤魔化すのは実質不可能だしな。
「もしくは種族……後は持ってるスキルかな?」
何気にリーゼの言うスキルと種族は可能性としては大きいと思うが……。
『その前に、俺としてはリーゼの巫女ってクラスが怪しいと思うんだけどな』
何か加護的な能力持ってそうだし……。
「流石に関係ないと思うんだけど……、それを言うならカノンはカノンでハクさんを封印してる影響ってこともあり得るよね?」
確かに言われてみれば……、というか、その可能性がかなり高いのではないかと震えていたり……。
「確かにあり得そうだよね……元々ハクがここに来たがってたんだし」
「そうだよね……で、ハクさん、カノン、周りの様子は?」
リーゼに言われ、ここに入った瞬間から発動していた気配察知の結果を伝える。
『今のところ魔物の気配は無い……が……』
「なんだか気配察知も普段通りじゃないかも……いつもより狭い?」
俺の言葉をカノンが引き継いでくれた。
「狭い?範囲が?」
『あぁ、普段で言う所の戦闘用に自分の周りだけに索敵を集中している状態……それ以上は広げることが出来ないって感じか?』
広げようとすると視界がぼやけるイメージだろうか?
嗅覚探知もどこまで機能しているか分からんぞ……。
「そういえば……迷宮の中だと感知系スキルの効果が落ちるって聞いたような……」
俺たちの話を聞いたリーゼが気まずそうに呟く。
「……リーゼさん…」
『頼むからそういう事は前もって……』
「ごめんね?」
苦笑しつつ謝るリーゼに、カノンもとくに追及するつもりはないようでそのまま話を終わらせるのだった。




