目的の地
「……結局襲って来なかったね」
走りながらキラービーの巣から離れるカノンが後ろを振り返りつつそんな事を呟く。
『あぁ、結局、向こうにとっては部屋一つ分の食料を取られるだけなら俺たちと交戦するよりマシだと判断したんだろう』
もし、このまま採取を続けていたらいずれ襲われていたはずだ。
「……幼虫や卵に手を出さなかったのが幸いしたんだね」
『そうだな。まぁ、威嚇してなければ餌として襲われていただろうけどな』
確かにリーゼの言う通り、幼虫や卵、さなぎに手を出していたらどうなっていたかは明白だ。
竜威スキルがあったからこそ蜂蜜を取るだけだと襲われることがないが、もし普通に採取しようとしていたのなら間違いなく交戦は避けられなかった。
「ハクのおかげで戦わずに済んだのは確かだけど……」
そういいながら周りを見渡すカノン。
「ハク?案内忘れてない?」
ジト目で言われた。
そういえば……忘れていたな。
『あ、あぁ……えっと……あ、あれだな』
周りを見渡して、見覚えのある小山を見つけた。
その方向に触手を伸ばしてカノンに方向を教える。
「……あの山だね?分かった」
短く返事をしたカノンは、そのまま方向を変えて走っていく。
しかし……いくら威嚇していたと言っても前回とは全く違うな。
何でキラービーの姿すら見えないんだ?
そのまま走る事数分、目的地である山が目の前に現れた。
「……ここ?」
『あぁ……間違いない……が……』
「どうしたの?」
歯切れの悪い俺の物言いにリーゼが首を傾げる。
『いや……入り口どこ行ったかなって思ってな』
俺の記憶だと、この岩肌のどこかに洞窟の入り口があったはずなのだが……。
「……本当にここで合ってるの?」
カノンからそんな指摘が入る。
『それは間違いないと思う……』
記憶と差異があるので自信はないが……。
「…………あれ?」
俺の返事を聞いて注意深く岩肌を観察していたカノンが首を傾げる。
「どうしたの……ん?」
そんなカノンに疑問を持った様子のリーゼも、少し遅れて同じように首を傾げた。
『二人そろってどうした?』
「あ……ごめん、私は多分気のせいだと思う」
首を傾げつつも確証がないのかそう答えるカノン。
この感じだとリーゼも確証はないのだろうか?
しかし、次にリーゼの口から出てきたのはとんでもない話だった。
「……ハクさん、これ、多分卵だよ?」
「え?」
『卵?何処だ?』
突然のリーゼの言葉にポカンとするカノンと、卵らしき物体を探す俺。
「何処って、この山、多分だけど元々は竜種の卵だったんじゃないかな?」
そういいながらリーゼが指すのは目の前の山だ。
『……確かに言われてみるとそんな形か?』
よくよく見てみると、確かに歪ではあるが丸みを帯びていて横向きになった卵の形にも見える。
しかし、いくら何でもそれは……。
「……もしかして竜感知?」
リーゼがこの山を卵だと結論付けた理由を推測したカノン。
カノンの言葉にリーゼは頷いた。
「うん。ここまで近づいてようやく、何となくって感じに分かるくらいに弱いけど、竜の気配がする。多分、卵の化石なんじゃないかな?」
化石か……。
『もしかすると、卵の周りを岩が覆っているだけで本体はもっと小さいのか?』
「その可能性は高いと思うけど……それでもこんな大きな卵を産む竜なんて記憶にないんだよね」
『……もしかして俺の居た空間って……』
「ハク?」
『あ、あぁ、すまん』
思わず声が漏れていたようだ。
もしかすると、俺が目覚めた空間こそ卵の中身があった場所なのではないのだろうか?
化石になった卵の殻だけが偶然残って中身が消えるとは考えにくいが、そう考えるとあの空間もなんかしっくりくるんだよな。
「……やっぱり」
俺がそんな事を考えていると、再びカノンから声が漏れた。
『どうした?』
「うん。さっきは気のせいかもって思ったんだけど、揺れてる」
揺れてる?
一体何が?
俺がそう考えたのと同時、突然地面が激しく揺れだした。




