蜂の巣
アシッドスライムを倒したカノン達は、そのままもう一方の強い気配のいる場所を目指して移動していた。
そして、その場所はおおよそ予想通りの場所になっていた。
ギルドでこの場所の事を聞いた際、キラービーの巣についての話も聞くことが出来たのだ。
その情報によると、キラービーの巣は基本的に普通の蜂、正確に言えば元の世界にいる肉食性の蜂の巣と大差ない構造らしい。
ただし、元々体の大きなキラービーなので巣のサイズも大きくなってしまうらしいが……。
そして、普通の環境に生息しているキラービーの巣は基本的に外殻に覆われているらしいが、ここのように外敵の居ない環境の場合、外殻を作らずにミツバチの巣のように巣の構造体がそのまま見えていることもあるらしい。
その場合、岩肌に巣が張り付いている状態であったり、木々の間に巣が乱立していたりと状態は様々なようだが、ぞの状態はその近辺が巣の内部であるのと同じであるため、難易度は跳ね上がるらしい。
ギルドでそんな話を聞いたので、蜂の巣らしきものを探していたのだが……。
「……あれじゃないのかな?」
不意に足を止めたカノンが前方を指さしながら呟く。
カノンの指さす先には、確かに何かある。
恐らく岩壁一面に並んでいる正六角形……確かこれってハニカム構造……って言うんだっけか?
何にしても、むき出しの状態の蜂の巣らしきものが見えてきた事に変わりはない。
そして、ここがキラービーの巣であることは間違いない。
それを証明する様に上空には無数のキラービーがこちらを狙っているからだ。
因みに、竜威スキルで周りを威嚇しているのですぐに襲ってくる心配はないだろう。
ただし、巣に危害を加えた場合はどうなるか予想ができんが……。
「ハクの威嚇のおかげで襲って来ないって分かってるけど……」
そう言いつつも居心地が悪そうに空を見るカノン。
「確かに不気味ではあるんだよね……というかよく襲って来ないよね……」
リーゼが不思議そうに答える。
『多分普通の威嚇スキルじゃどうにもならんだろうな……』
威嚇していて気が付いたが、キラービーは他の魔物と比べると威嚇系のスキルの効果が薄いように感じる。
恐らく、ゴブリン達とは違って、あくまで巣の繁栄を最優先に動く性質のせいだろう。
個としての生存よりも種として生存を優先するせいで、個としての生存本能は弱い、そのせいで威嚇も本来の効力を発揮しづらい状態だと予想できる。
しかし、流石に竜威スキルにもなれば十分な効力を発揮しているわけだが……。
まぁ、それでもまだこちらを外敵として認識していない状態なら効果があったとしても、いざ敵対したときに効果があるか分からない。
「……これ、このまま近づいて大丈夫かな?」
『大丈夫じゃないだろう。どこまでが安全かは分からんが……少なくとも巣に触った時点で一斉攻撃の的だ』
「……これ、よく蜜を集められるね」
カノンが少し驚いたように言う。
ギルドで聞いたここの特産品は、蜂蜜だ。
本来、キラービーは肉食を好む雑食性だ。
だから基本的には動物や虫の死骸を漁るか針で仕留めて巣に持ち帰るわけだが、ここではキラービー以外に生息する動物はスライムのみ。
そのスライムは食用には適さないのでキラービーが襲う事はない。
そうなると、キラービーにとっては動物性の餌が手に入らないということになるわけだが、キラービーはあくまで動物性の餌を好むというだけで雑食性。
植物性の餌も食べることが出来る。
基本的に他の地域に生息しているキラービーは必要がないので植物性の餌を集めることはないのだが、ここの場合は選択肢がないということもあって植物性の餌……具体的には花の蜜や果物などの糖類を多く含む餌を集める。
そして、蜜や果物を巣にため込むのだが、蜜の方はキラービーが蜜を集める過程で唾液と混ざり、それが巣の中で熟成されることで上質の蜂蜜になるのだ。
キラービーが特定の条件下で蜂蜜をため込むことは一部では知られているものの、その特定の条件が厳しい事、さらに、確かに普通の蜂蜜よりはおいしい物の魔物の素材、しかも管理されたブランドがつくような蜂蜜には劣ることから需要も低く普通の冒険者にとってはここまでの崖を上ってまで採取にくる価値はない。
俺たちも、俺がここに行こうと言い出さなければ採取に来ることはなかっただろう。
そんなわけで、俺たちの目的物はあの巣の中にある。
しかも、普通のミツバチと同じだとすれば蓋がしてある部屋に蜜がたまっていることになるのだ。
そんな場所から蜜を採取しようとすれば、総攻撃に会うのは目に見えている。
さて……。
どうやって攻略するか……。




