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南の森

南の森の中は、確かに冒険者の稼ぎ場所としてはいい場所だった。木の根元に様々な種類の薬草が生えているし、木の実も豊富だ。しかし他の冒険者の姿は全然見かけない。


多分、ゴブリンの群のせいで低ランクの冒険者はここに寄り付かないのだろう。高ランクの冒険者としても、態々ここで狩る必要はないのかもしれない。


「ここが南の森?」


『あぁ、そのはずだ』


「稼ぎ放題だね」


カノンはそういうと、近くにあった薬草を採取して、そのまま収納に入れていく。


殆どの薬草は、ギルドで常時依頼として出されている。取り敢えずギルドに持っていけば金にはなるだろう。


「そういえば、ハクは魔物の気配感じる?」


しばらく採取していたカノンが、思い出したように聞いてきた。


『いや、遠くの方にゴブリンっぽい気配があるくらいか……』


カノンが採取に集中している間、俺は気配察知を使って周りの警戒をしていた。俺のレベルでは個体を探知できる距離はそれほど遠くないが、それでも群にもなれば多少遠くても分かるようになってきた。


これはスキルのレベルとかの話ではなく、俺が気配を読むことに慣れてきたということなのだろう。


「ゴブリンって言えば、大きめの群がいるかもって話だったっけ?」


『そうだな。流石に距離が離れてるから数までは分からないけど………ん?』


「どうしたの?」


『いや、見つけた群、なんだかこっちに来てるような気がするんだよな……』


さっきよりもゴブリンの気配を鮮明に感じるようになってきた。つまり、ゴブリンたちが近づいてきているということだ。


「それってまずいんじゃないの?」


『俺もそう思う。因みに作戦が3つある』


「3つ?」


カノンが首を傾げる。


『一つ目・正面から戦う』


「それ作戦って言わないよね!?ただの力ずくだよね!?」


ごもっとも。しかし、流石に俺もこんなバカげた行動をとるつもりはない。


『二つ目・隠れる』


「何処によ!ていうか、ゴブリン相手に隠れてもすぐに見つかっちゃうよ!?」


確かにゴブリン相手だと、においも消さないと難しいよな。


『三つ目・逃げる』


「だからなんでそんなシンプルな作戦ばっかなの!?ていうか、それもう作戦とは言わないよね!?」


カノンの言いたいことはもっともだった。


『逃げるって言っても、空飛んで上空にって意味だぞ?それなら戦うにしろ町に戻るにしろ、やりやすいだろ?』


「なら最初に言ってよ!」


カノンはそういうと、背中に翼を出現させた。


そして翼をはばたかせて、一気に空に駆け上がる。


そしてこれで気配察知の範囲外でも、ゴブリンの群を確認できるようになった。


「見えた!正面!」


『あぁ、しかし……なんか様子がおかしくないか?』


ゴブリンたちは、30匹ほどの群だった。そこまではいいのだが、何かを追いかけるようにしてまっすぐに走っている。


「何か追いかけてる?」


『はっきりとは見えんが………人……冒険者か?』


ゴブリンの群の少し先に、人らしき影が見えた。人型というだけで、男か女かもわからないが、3人分の人影が走ってきているのが見える。


「どうする?助けた方がいいよね!?」


カノンが少し慌てながら言う。しかし、この場合、カノンに冒険者を助ける義務は存在しない。何故なら、もし助けに入って自分が死ぬ危険がある以上、態々自分の身を危険に晒してまで助ける必要などないのだ。


それに、冒険者は自分が生還できる依頼を選ぶのも仕事の内らしい。だからギルドは冒険者が依頼を選ぶというシステムになっているらしい。


この辺りは、ギルドに登録したときに教えてもらった。だから、もし依頼をこなしている最中に危なくなっても、他の冒険者が助けてくれるとは思わない方がいいらしい。


同じ狩場にいるのは、殆どが同じくらいの実力者の場合が多いのだから。


『あくまで自分の命を大事にだが……ここから粘液爆弾落とすか?』


「ゴブリンたちに?」


『あぁ、あれならゴブリンくらいなら足止めできるし、上空からなら危険も少ない。魔力もまだまだたっぷりあるからしばらくは飛んでいられるしな』


「じゃあお願い。少し高度落とすね?」


カノンはそういうとゆっくりと高度を下げていく。


それと同時に、俺はカノンの両肩にスライムの大砲を作った。その上には粘液をためておくタンクを作っておくのも忘れない。


『この感じだと、あと30秒ほどでゴブリンたちが射程圏内に入る。そうなったら一気に掃射する。反動には気を付けてくれ』


粘液爆弾は、空で使うと多少の反動が返ってくる。地面に足を付けているときにはあまり気にならないが、支えのない空中ではバランスを崩して落下してしまう危険もある。


なので今回は威力は捨てて、あくまで粘液を落とすことにした。冒険者が通り過ぎた瞬間に、粘液爆弾を落としてゴブリンたちの大半を足止めできれば、後は何とかできるだろう。







少しすると冒険者の方の気配も捉えられるようになってきた。距離があるので鑑定はできないが、三人とも人間で、男一人、女二人の構成のようだ。


背負っている武器は、男が大剣、女が杖なので、剣士一人、魔術師二人のパーティなのだろう。


多分、剣士が魔物を足止めして魔術師二人が魔法をぶつけるスタイルで戦うのだろうが、流石にこの数では相性が悪いだろう。


「そろそろ?」


『あぁ、行くぞ……!?』


冒険者が俺たちの真下に来た時、ちょうど後ろを走っていた女性が転んだ。


「『あっ』」


俺たち二人は空から見ていたので気が付いたが、前を走っていた冒険者たちは逃げることに必死なのか気づかずに走っていく。


「ハク!お願い!」


『おう!』


流石にこの状況で見殺しにするわけにはいかない。


ゴブリンたちは女性に飛びかかろうとしているので今から急降下しても間に合わない。粘液爆弾ではうち漏らす危険が高い。なので俺は大砲を作っていた触手を地面に向けて伸ばした。


流石にすべてのゴブリンを貫くなど不可能なので、狙いは女性とゴブリンの間だ。


ドス


「ギャ!?」


ゴブリンたちの目の前に突き刺さった触手に、ゴブリンたちは警戒して立ち止まる。その間にカノンは段々と高度を落としていき、刺さっている触手からさらにゴブリンめがけて触手を伸ばす。


「ギャー!!」


一番手前にいたゴブリンの体を触手が貫いた。因みに触手の先端はキラービーの針になっているので、勢いさえあればゴブリンの体を貫くなど造作もない。


「え?」


女性の方もようやく自分とゴブリンの間で行われていることに気づいたのか、触手をたどって上を見て、カノンを発見した。


「大丈夫ですか?」


カノンは微笑みながら女性とゴブリンの間に着地すると、剣を構えた。


その間にも触手によるゴブリン大虐殺は終わっていない。


触手は貫いたゴブリンが絶命すると同時に収納に死骸をたたき込み、新たな獲物に向かっていく。身軽になった触手の動きはかなり早くなったので、油断したり、茫然としているゴブリンなど簡単に捉えて貫いてしまう。


まあ、たしかに獲物をしとめたと思った瞬間に自分たちが獲物になってしまったのだから、ある意味しょうがないのかもしれない。


因みにこの触手、一見すると自動追尾をしているような挙動をしているが、実際は俺が動かしているのでめちゃくちゃ疲れる。動かしている触手は三本なのだが、ゴブリンの心臓を貫く正確性と、皮膚を貫く勢いを同時に出すには、どうしても高速思考を使うしかないのだ。


カノンはその間にも、倒れている冒険者らしき女性を助けている。


前を走っていた二人は早々に見えなくなってしまったところから、必死すぎて最後尾の事まで気にしていなかったのか、もしくはこの女性がいい時間稼ぎになると思って放置したのか……


しばらくするとゴブリンの数は10匹を割り、一目散に逃げだしてしまった。


『カノン、ゴブリンの三分の一が逃げた。どうする?』


「今はこの人の事を優先でもいい?」


『あぁ、大丈夫だ。流石にもう襲ってはこないだろうしな』


逃げるという判断をしたということは、ゴブリンたちも俺たちと戦うと危険と判断したということだろう。ならば、今すぐ襲ってくるとは思えない。


「あの、ありがとうございます。えっと……」


「あ、私はカノンです。貴女は?」


「はい、私はマリアと言います。Eランクの冒険者です」


マリアと名乗った女性は、座った姿勢のまま頭を下げた。


「えっと……さっきのは……」


カノンの両肩から出ていた触手の事だろうか?冒険者同士での詮索はご法度ではあるが、流石に気になるらしい。

確かにこの能力、魔物にしか見えないしな。


「ハク、どこまで話したらいいかな?」


『基本はカノンの判断に任せるつもりだが……封印者(シーラー)ってのは説明した方がいいかもしれないな』


「えっと、私封印者(シーラー)なので……」


カノンが言いにくそうに言うと、マリアは納得したように頷いた。しかしそれを聞いて、マリアは深々と頭を下げてしまった。


「なるほど、封印者(シーラー)の方でしたか。失礼なことを聞いてしまい申し訳ありませんでした。冒険者同士の詮索はいけないと分かっているつもりなのですが……」


「いえ、流石にさっきのは聞かれても仕方ないかなとは思ってますので」


カノンは苦笑しながら言う。


それを聞いてマリアもほっとしたように頭を上げた。


「そういえば……あなたの前を走っていたお二人は……」


「あぁ、あの二人なら森の外に向かって全力で逃げていると思います。私が食べられていれば、時間稼ぎになりますから」


マリアはそういうとため息を吐いた。



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