目的
「……というわけで、ここに居た時より前の記憶がないんだよ。ここで自我……というか人と話せる知能を手に入れたのか、そもそも前からこうだったのか、もしくはここで生まれたのか、少し気になっただけだ」
歩きながらリーゼとカノンにここに来た目的を説明する。
まぁ、カノンに関しては俺に前世の人間だったころの記憶があるとは話してあるが、それでも生まれてからの記憶が無いことは説明してなかったからついでに説明している。
まぁ、今の段階では前世云々の話は省略しているが……。
「……でもそれだとここで生まれたんじゃないの?」
歩きつつ首を傾げるカノン。
そして、リーゼも同意する様に頷いている。
「ハクさんの大きさからしてもそう思うけどね。子供の竜にしても小さいし……」
『確かに小さいことは自覚してるけども……そもそも卵の殻なんて見た記憶がないぞ?』
気がついたら洞窟の中に居て、周りには何もなかった。
普通に考えてもあれが生まれたてだとは思えない。
まぁ、何らかの手でその場に生み出されたという可能性も否定はできない……というかその可能性が高いだろうとは踏んでいる訳なのだが、それだと俺は普通の生き物とは何か違うものになってしまっている気がして気に入らない。
まぁ、仮にそうだとしても受け入れるだけではあるが、自分の出生くらいは把握しておきたいのだ。
「そもそもキメラドラゴンって……ていうかドラゴンってこの近くにいたかな?」
後ろを歩いているリーゼが怖い事を呟く。
勘弁してくれ……。
近くに親がいないと何らかの手段で生み出された可能性が高くなっちまう……。
「そもそも生まれたばっかで親がいなくて大丈夫なのかな?」
「種類によるかな?卵から孵ってしばらくの間は母親、もしくは父親が育てる竜もいるし、卵から孵ったらすぐに巣立つ竜もいる。数は少ないけど卵を産むだけで放置するって竜も居るしね」
同じ竜なのに全然違うようだな……。
「ハクの場合は?」
「キメラドラゴンってそもそも個体数が少なすぎて詳しい事は全然わかってないんだよね。そもそも何でこんな場所にいたのか私も知りたいくらいだし」
正直俺も知りたいくらいだけどな。
『リーゼでも分からないか……』
竜種に関してはかなり詳しいのだが、キメラドラゴンがそれだけ希少だという事か……。
「私だってなんでも知ってれるわけじゃないからね。そもそも魔物の事とかカノンより知ってるのだって冒険者としては先輩だからだよ?竜種の場合は……少し別だけど」
確かに魔物に関してはそうだよな……。
竜に関しての下りは少し気になったが、今は置いておこう。
で、問題は俺の出生に関してだが、流石にリーゼも分からないことが多すぎるよな。
『まぁ、今回で情報の断片でも見つかれば御の字ってつもりだし、正直ダメもとだしな』
「ハクがいいなら別にいいんだけど……」
カノンが不満げに呟く。
「なんだかんだでカノンもハクさんの事気になってる?」
「……少しだけ気になってるかな?」
おちょくるようなリーゼにそっけなく答えたカノンだが、すぐに足を止めた。
「どうしたの?」
さっきの言い方が気に障ったのかと心配するリーゼだが、気にしなくてもいいと思うぞ?
『ついたな。この先に強い気配がある』
話しながらでも気配察知を使い続けていてよかった。
この森を抜けた先に何かがいることがよく分かる。
「……どっちだと思う?」
『クイーンビーじゃないだろうな』
カノンに聞かれて即答する俺。
「どうして?」
カノンが首を傾げるが、単純な理由だ。
『ここまで来たのにキラービーの姿をみてない。あいつらの巣ならもっといても可笑しくないだろ』
「確かにね」
俺の仮説にリーゼは同意してくれた。
「なるほど……じゃあ突っ込んじゃう?」
そういいながら再び歩みを進めるカノン。
何がじゃあなのか聞きたいが、もういいや……。
こうなったら俺も新スキル獲得を目指して進むとしよう。




