生まれ故郷
アレーナ村からレセアールに戻ってきた日の夜。
宿でこれからの事を話し合っていた二人に、俺は割り込みを掛けた。
「行きたい場所?」
『あぁ、別にすぐにって訳じゃないんだが……』
何となく、俺が一日だけ過ごした台地が気になった俺は、カノンに行きたい場所があることを告げたのだ。
「珍しいね。ハクさんって行先はカノンにまかせっきりだったのに」
確かにリーゼの言う通りだな。
ただ一つ違うのは……。
『言っておくがカノンも大概流されてるからな?』
「そんな事無いと思うけど……」
カノンがそう言いつつも目を逸らす。
自覚はあったんだな。
「まぁ私も人の事は言えない気もするけど……」
自分自身にも思い当たる節があるのか勝手に落ち込むリーゼ。
そういえば……。
リーゼが行きたい場所ってのも聞いたことないな……。
「で、ハクは何処に行きたいの?」
このままでは話が進まないと思ったのかカノンが無理やり話を進めに来た。
『あぁ……なんて言ったらいいか……カノンと出会った場所の近くにでかい山みたいのがあるだろ?』
「え?……そういえば……」
カノンが古い記憶を何とか引っ張り出すが、いまいちピンと来ていないようで難しい顔をしている。
「……それって…どんな場所なの?」
リーゼもいまいち分かっていないらしい。
まぁ無理もないか。
リーゼはこの周辺の町や村の出身というわけでもないし……。
「で、その山?に行ってみたいの?」
『あぁ……大した理由があるわけじゃないんだが……』
「面白そうだけど……どんな場所なの?」
『そうだな……正直俺も殆ど知らん……』
「何それ……」
カノンから呆れたような声が聞こえてきたが仕方ないだろ……。
『言っても数日しかいなかった場所だしな……詳しい情報は全くないんだよ……』
「そういうもんなの?」
納得しきれないと言った声でカノンが言う。
まぁ、しょうがないか?
「でもそうなると……明日ギルドで聞いてみるのが速いかな?ギルドなら情報くらいあるでしょ?」
リーゼの言う通りか……。
『まぁどうしても行きたいって訳じゃないんだ。無理しなくてもいいぞ?』
「せっかくだし私も行ってみたいから、行けそうなら行ってみよ?」
そう言ってもらえると嬉しいが……。
どっちにせよ、明日ギルドで情報を集めてからかな?
翌日、人の少なくなる時間を狙ってギルドにやってきたカノン達は、受付嬢にあの山の情報がないか聞いてみた。
「あ~、あれですか」
すぐには分からないと思っていたのだが、意外にも受付嬢はすぐに見当がついたようだ。
「何か知ってるんですか?」
「はい。あそこは簡単に言えば蜂の巣……と言った所でしょうか?キラービーと呼ばれる魔物のテリトリーとなっています」
それは知ってるな。
なんせ大群に襲われたこともあるし……。
「なのでギルドではキラービーの台地って呼んでるんですけど……」
キラービーの台地ね……。
確かにキラービーとスライム以外の姿は見なかったが……。
「危険な場所なんですか?」
リーゼの質問に受付嬢は少しだけ悩むそぶりを見せた。
「危険……と言えば危険でしょうか?キラービー自体は単独でFランク、集団でもEランクの魔物なので問題はありません。キラービーの巣にはクイーンビーという上位種がいますがそちらもせいぜいDランクです。なので魔物自体は脅威ではありません。勿論、お二人からすればという話ではありますが……」
確かに今のカノン達なら大した問題は起きないだろうな。
「問題となるのは道中です」
「道中?」
受付嬢の言葉にカノンが首を傾げる。
それに対して俺は何となく分かった。
『そういう事か……』
「ハク?」
「どういう事なんですか?」
「あそこに辿り着くには方法が二つしかありません。一つは断崖絶壁を100メートル以上上る事です。しかも、頂上付近ではキラービーの攻撃を受けることになってしまいます」
確かにそれは危険だな……。
普通の状態ならともかく、あんな場所で襲われたら対処できる者は限られているだろう。
「もう一つは空を飛ぶ方法ですが……こちらは実行できる者がほとんどいません……ってカノンさんは出来るんでしたね」
「空を飛べば安全なんですか?」
「絶対安全とは断言できませんが、崖を上るよりは遥かに安全かと。それと……」
その後も受付嬢は注意事項や台地で採取できる物を教えてくれた。
今までのやり取りでカノン達がそこに行くつもりだという事はよく分かったようだ。




