Eランクの仕事
翌日、カノンはギルドで依頼を見ていた。魔法剣と防具の受け取りには、約10日かかるらしい。
なのでそれまでは無理はしない程度の依頼を受けることにしたのだ。
「どの依頼がいいと思う?」
『そうだな……』
カノンが見ているのはEランクの依頼だ。一応Dランクまでは受けることができるのだが、さすがにそれはまだ早いだろう。
今ここにあってカノンでも大丈夫そうなものとなると……
・ゴブリンの群れの調査
・アレーナ村への生活用品の運搬
この二つが候補といったことろか。
それをカノンに伝えると、カノンは微妙そうな顔をした。
「ゴブリンはいいけど……最後のはちょっと……」
『やっぱりそうだよな。ただ、今のカノンの実力だと、安全圏を取ればこれくらいになるだろうな』
「じゃあゴブリンの群れの調査……受ける?」
『そうだな……』
受けてもいいだろうが、これは調査依頼だ。一度受付で確認した方がいいかもしれない。
『一度受付で話を聞いた方がいいと思うぞ』
「やっぱりそうだよね」
カノンはそういうと、受付に移動した。
「あぁ、あの依頼ですね」
カノンが受付嬢に依頼の事を聞くと、少しだけ顔色が悪くなった。
「どうしたんですか?」
「はい。まずこの依頼なんですが、カノンさんでは受けられないんです」
受付嬢は申し訳なさそうに言う。
「これは調査依頼全般に言えることなんですが、依頼を最低でも50件以上成功させていて、なおかつ成功率が7割以上の冒険者しか受けられないんです」
なるほどな。確かに調査は討伐より難易度が高い可能性がある。そうなるとある程度実績のある冒険者にしか受けられないのも当然だ。それに、その冒険者の信用の問題もあるだろうから、仕方ない。
「そして、もし仮にカノンさんが条件を満たしていたとしても、あまりお勧めはできないんです」
そう前置きをして受付嬢が説明してくれたことによれば、この依頼は南の森での依頼らしい。因みに俺たちは北の方から来たようなので、俺もカノンもまだ行ったことのない場所のようだ。その森はそこまで深いわけではないが、ゴブリンやオークをはじめとして、脅威度F・Eランクの魔物が生息している森らしい。
魔物によっては群れで行動するものもおり、その場合は脅威度が1ランク~2ランク分あがるらしい。つまりその森へ行くには、群れから逃げることができるのであればEランク以上、出来ればDランクの実力が必要な場所らしい。
そして重要なのは、この森では確かにゴブリンは生息しているのだが、あくまで10匹程度の群単位で行動しているらしい。
しかし今回は、20匹以上のゴブリンが一か所で目撃されたので、Dランクの依頼として調査依頼が出ているらしい。
ただ、この森は元々町から近いため、ある程度間引きをされている状態で、普通はこんな大量のゴブリンが発生するなどありえないことらしい。
「というわけで、規定上Dランクで出ている依頼なのですが、実質Cランク並みの難易度になることもあり得ると思います」
「分かりました。ありがとうございます」
カノンは受付嬢にお礼を言って受付から離れた。
「どうする?」
『もう後は……常時依頼の魔物か薬草を狙うしかないだろうな』
「せっかくだし、南の森に行ってみない?私が身体強化使えば逃げるくらいなら大丈夫だと思うし」
『ん~、あんまり危ないことはして欲しくないんだが……危なくなったらすぐに逃げるぞ』
「うん」
結局、カノンの希望もあって南の森に向かうことになった。
この町には東西南北に4つの門があり、カノンは南側の門から外に出た。
『よし、じゃあ行くか』
「その前に、少し試したいことがあるんだけど……」
『試したいこと?』
「うん、竜装ってスキル。これ、もしかしたら空飛べるかもしれないと思って」
確かに翼を出すことができれば行けるかもしれない。
『なるほどな。やってみるか』
「うん」
カノンは嬉しそうに頷いた。
多分昨日ユーリの話を聞いてから試してみたくてしょうがなかったのかもしれない。
「よし、行くよ!………ん」
ビリ
そんな音がしたかと思ったら、カノンの服の背中が破れて背中から翼が出てきた。まさか本当にできるとは……
「やった!できたー!」
カノンは飛び跳ねながら喜んでいる。飛行スキルを共有すれば行けそうだな。
確かまだ共有できるスキルには余裕があったから、飛行スキルをスキルシェアとリンクさせた。
『こっちも飛行スキルの準備完了だ。いつでもいけるぞ』
「うん、ありがとう」
カノンはお礼を言うと、翼をはばたかせた。するとカノンの体が持ち上がり、カノンはゆっくりと宙に浮いた。
カノンが飛んでいる間の魔力消費を確認してみたが、思ったほどひどい消費具合ではなさそうだった。
竜装スキルも使う瞬間に魔力を消費するものの、一度発動してしまえば充分持続させることができそうだ。
あとはカノンの技術次第では、非常時用の魔力を考えれば1時間くらいの飛行はできそうだ。
「うわ~、楽し~!」
俺がそんなことを考えている間にも、カノンは空を自在に飛び回っていた。これ、下手すると俺より上達が早いかもしれない。
『カノン……なんでそんなに早く上達するんだよ……』
「え?なんか無意識に……、ハクが何かしてくれてるんじゃないの?」
カノンが不思議そうに言う。どうやら俺が手助けしていると思っていたみたいだ。
しかし今回、俺は何もしていない。まあ、竜装で出しているのは俺の翼なのだから、俺の無意識が何かしている可能性はゼロじゃないが……
それからカノンは、少しの間空を飛び回り、着地した。
「いや~、楽しいね~」
『そのおかげで服は背中がボロボロだけどな』
俺は呆れたように言う。
カノンの来ている服は、背中側がちょうど翼が生えていた部分がきれいに破れているのだ。そこまで目立つような穴じゃないが、さすがに気になる。
「大丈夫だよ」
カノンはそういうと、収納からマントを取り出した。体全体を覆うようなもので、確かにこれを身に着けていれば大丈夫だろう。
『お前、こんな物いつの間に……』
たしか昨日の買い物では、こんなものは買っていなかったはずである。
「イリスさんに貰ったの。せっかくだし使ってみようかなって」
あぁ、そういえば、カノンが試験を受けている間にイリスたち女性冒険者達が服とか選んでくれてたな。その中にあったのか。
『なるほどな、で、どうする?飛んでいくか?』
俺が聞くと、カノンは首を横に振った。
「ううん、流石に歩いていくつもり。でも、危なくなったら飛んで逃げるよ」
『なるほどな。なら、魔力のやりくりは少し考えないとな』
もし危険な状態で、魔力が足りずに翼が出せないとか、飛べないとかになっては話にならない。
「うん。でも私、あまりそういうことやったことないから、お願いしてもいい?」
『あぁ、元々俺の魔力だし、それくらいは任せておけ』
「ありがと。じゃあ行こう!」
カノンはそう言って森に向かった。
別にそんなに急ぐこともない。なぜなら、まだ朝だし今日は別に依頼を受けているわけでもない。獲物か薬草を探して、常時依頼をこなすのが目的なのだ。
でももし、弱い魔物と出会ったなら、カノンの剣の練習にはちょうどいいかもしれない。




