カノンの為に
カノンはフレッド目がけて突っ込んでいったし、俺は目の前の敵に集中するか……。
「……」
目の前に居るセシリアは俺と一対一になった途端に何も話さなくなった。
それに雰囲気が変わった気がする。
さっきまでと何か違う……。
対人戦と魔物戦の違いだろうか?
無口だが、口元はしっかり動いているので何らかの詠唱はしているのだろう。
下手に魔法を撃たれても面倒ではあるが……。
対処できるように備えて様子見が確実か?
「……!ウィンドショット!」
セシリアが魔法を唱えるのと同時、俺に向かって何かが飛んできた。
咄嗟に体をひねって躱す。
『あぶね……』
思わず声が漏れた。
後ろを振り返ってみると、地面が抉れていた。
たしかあの魔法は速度重視の風属性魔法だったはずだ。
元々発動も弾速も速い風属性の中でも速度に特化した魔法なだけあって、普通なら躱すことすら難しい。
俺の場合はカノンの魔銃の練習のおかげであれくらいの弾速は目で追えるようになってきたからどうにかなった。
「ちぃ……」
小さく舌打ちをして再び詠唱を始めるセシリアだが、今のでよく分かった。
詠唱をさせていては厄介だ。
積極的に妨害していく。
『さて……』
俺は翼をスライムの触手に変えてセシリアに向かって伸ばす。
「…!またこれかい!」
何度も見た事のあるスライムに悪態をつきつつも、バックステップで距離を取られた。
やっぱり魔法使いは避けるときに距離をとる。
……まぁ、それでもまだ触手伸縮の範囲内だが……。
『これならどうだ!』
「!?くそ!」
何かに気が付いたセシリアが再び後ろに下がろうとする。
しかし、それと同時に地面から無数の触手が飛び出した。
「……しょうがない!フレイムアロー!」
避けきれないと思ったのか、セシリアは俺目がけて魔法を撃つ。
なるほど。
確かに俺に向かって攻撃をすればスライムの動きも鈍る。
いい判断だ。
けど、遅いな。
フレイムアローが命中する寸前に俺は全身をスライムに変える。
全身をスライムにしてしまうと視覚も聴覚も機能しなくなるが魔力感知で補える。
それに、このままあ戦うわけじゃないので問題はない。
スライムになった体を触手で貫通させた穴に押し込む。
そしてセシリアの周囲に出した無数の触手の先に全身を集め、そこで再び元の姿に戻った。
「な!いつの間に!」
魔法では間に合わないとふんだのか、腰に差していた剣を抜いて斬りかかってきた。
そういえば前に鑑定したときに剣術スキルも持っていたっけ……。
『甘い!』
剣を使ってくるとは思わなかったが、それでも問題はない。
俺にだって剣はある。
俺は右手をサーベルボアの角に変える。
そして、セシリアの剣と切り結んだ。
「これは…サーベルボア?」
一瞬で俺の剣の正体が見破られた。
流石に長年ここに住んでいる冒険者なだけはあるか?
そして、その一瞬の拮抗と共に俺はセシリアの剣に弾き飛ばされた。
『くそ……』
やはり体重がないだけ踏ん張りがきかない。
能力的には押し負けることなどないのだが、いくら力で勝っていてもそれが意味を為さない状態か……。
マンイーターの根っこなどをアンカーに使おうにも動き回る近接戦闘では難しいし……。
やっぱり遠距離からか?
カノンの方を確認してみると勝負は付きそうだし、こっちも一気に決めてもいいかもしれんな。
『さて…殺さない程度の加減が出来るか……』
そう呟きつつも口元に魔力を溜めていく。
「!?フレイムアロー!!」
セシリアも俺の魔力の動きに気が付いたようで、慌てて魔法を放ってくるが少し遅いな。
『おりゃ!!』
少し力を抜きつつブレスを放つ。
今回選んだのは風属性だ。
流石に対人戦で雷はオーバーキルになるし、非殺傷でもブレスなら充分な威力だろうからな。
まぁ、それでも死なれたらたまらないので範囲攻撃にして威力は……ん?
待てよ?
これ、範囲を広げたはいいが下手するとカノンまで巻き込まないか?
カノンはセシリアの向こう側でフレッド蹴り飛ばして一息ついている。
恐らく、カノンの居る場所は充分にブレスの範囲内だろう。
『カノン!跳べ!』
慌ててカノンに念話を飛ばす。
その直後、フレッドとの攻防の最中だというのに一瞬で空高く跳躍したカノン。
素早い……。
一瞬遅れてブレスが二人を直撃した。
「----!!」
何か言っている様子だが、話し声など聞こえないほどの爆音と、地面がめくりあがるほどの暴風の直撃を受けた二人はそのまま吹き飛ばされていった。
ブレスを撃つのと同時に俺の体も反動で後ろに吹き飛ばされそうになったが、マンイーターの根っこを地面に差してアンカーにすることで耐える。
因みに、範囲を広げたせいか土や石を巻き込んだ暴風は完全に殺傷能力を得ている気がするのは気のせいということにしておくか……。
というか、カノンは……。
「ハク!」
カノンの事を探そうとした瞬間、俺の眼の前に憤怒の形相のカノンが降り立った。
あ、これは……まずい……。




