二対二
「な、なんだそれは!」
小さくても竜の姿を見て驚いたのか、少し腰が引けているフレッドがカノンに聞いてくる。
「何って……前に名前だけは出しましたよね?紹介します。ハク、私の相棒です」
「……そういやそんな事言ってたっけか……で、そのちびに何ができるって?」
精いっぱいの虚勢を張っているようにしか見えないフレッドに向けて、軽く威嚇してみる。
それだけでフレッドは数歩後ずさった。
竜威スキルはまだ使っていないというのに……。
『思ったより度胸無いな……』
「仕方ないと思うよ?ハクの大きさでも竜には違いないんだし……普通の冒険者が戦って勝てる相手じゃないしね」
『それもそうか……で、どうする?どっちか相手するか?』
「それもいいんだけど……向こうに向かってくる度胸があればね……」
「そのちっこいのと何話してるか知らないけどなめんじゃないよ!フレイムカッター!」
カノンとの会話を遮るようにしてセシリアの魔法が飛んできた。
『任せろ』
俺はその魔法をスライムの盾で包むようにして防ぐ。
そしてその瞬間、セシリアの眼が驚きに染まった。
「……なるほどね…あんたの奇妙な能力はそいつのおかげって事かい」
奇妙とは失礼な物言いだな。
「そういう事です」
そして奇妙と言う所をカノンも否定しないって……。
「なるほどね……なら今のあんたは昔のままってわけ……じゃなさそうだね」
セシリアの言葉を聞いている最中に手のひらにファイヤーボールを浮かべたカノン。
それを見たセシリアは、一瞬思い浮かんだ、俺がいない状態なら昔のカノンのままという可能性を捨てて再び警戒し始めた。
まぁ、警戒した所で大した意味はないが……。
『カノン、俺はどっちの相手をする?』
「ハクはこっちをお願い」
そういいながらカノンはフレッドに向かっていく。
というか、魔装で突っ込んで勢いに任せて吹き飛ばしたな……。
……まぁ、カノンがフレッドの相手をするのなら俺はセシリア相手に暴れさせて貰うとするか。
side カノン
お母さんはハクが相手をしてくれるから心配しなくても大丈夫のはず……。
流石にハク相手に魔法合戦なんてしても勝てるわけないし。
私はお父さんの相手をしないとね……。
さっき魔装のまま吹き飛ばしたけど、やっぱりというか大したダメージにはなっていないかな?
こっち睨みながら起き上がってるし……。
「このガキが…」
正直、こんなお父さんは初めて見たかも知れない。
私の中では強くて……自分勝手だけど私じゃ勝てる気がしないくらいには大きい感じだったのに……。
今のお父さんはとても小さく見える。
「……いい加減に今までとは違うって学習してくださいよ!」
何かハクにも出てきてもらったのに面倒くさくなってきちゃった。
何で私こんな頑張ってるんだろ?
私は再びお父さんに急接近して剣を振りぬく。
「くっ!」
ガキン!
ドガン!
けど、魔装のスピードに任せた剣は受け止められた。
でも受け止めた姿勢のまま地面に足がめり込む。
うん。
やっぱり魔装は竜装ほどの力は出せないかな?
でもスピードが力の代わりになるし充分だね。
「いい加減に……しろや!!」
お父さんの声と共につばぜり合いをしていた私の剣が弾かれた。
私は瞬間移動みたいに距離を取る。
分かってはいたけど……馬鹿力……。
これでも身体強化は全開なんだけどな……。
「くそ!何でお前は出しゃばってくんだよ!親子の縁は切ったんだろうが!」
そういいながら私に向かっては走ってきた。
「何でって……」
ガン!
お父さんが剣を私目がけて振ってきたけど、魔装の魔力を腕に集めて防ぐ。
魔装の鎧は私が使ってる防具以上に頑丈だから腕で受けてもなんともない。
「なっ!?」
「私の親友を巻き込んだからに決まってるじゃないですか!」
そんなことも分かっていなかったんだね。
私は魔装の魔力を足に集めてそのままお父さんを蹴り飛ばす。
バギッ!
「がっ!?」
何か嫌な音が聞こえた気がするけど気にしない。
お父さんはそのまま倒れて動かなくなった。
「セレンに手を出すなら許しませんからね」
多分聞こえてないとは思うけど……。
『カノン!跳べ!』
これで終わったと思った瞬間、ハクから念話が届いた。
何か嫌な予感がしたから素直に従って全力で跳ぶ。
その直後、私がいた場所を暴風が吹き荒れた。
倒れたまま動かないお父さんを巻き込んで……。
やりすぎな気もするけど……死なないよね?




