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魔法剣

「待たせたな」


そう言ってユーリが持ってきたのは、真っ白な剣だった。装飾の類はないが、どこか異様な気配のする剣だ。


「……何ですか、これ?」


「これは、魔法剣だな。俺は普通の剣だけじゃなくてこういった物も作ってる。ただこいつは、少し問題があるんだ」


ユーリは神妙そうな口調で言う。


「本来、魔法剣てのは所有者の魔力を流し込んで強化したり、魔力を飛ばしたり出来るもののはずなんだ。しかしこいつは、人の魔力じゃ起動しないんだ。そんな剣、普通の人間が持ったところで使えない」


なるほど、確かにカノンなら、俺の、竜としての魔力を使ってこの剣を使えるかもしれないな。


しかし、なんでそんなことになったんだ?


道具は鑑定できるのかな?


---------

魔法剣

製作者・ユーリ

魔法剣。所有者の魔力を吸収することで、斬撃の距離を伸ばし、威力を上げる。また、特殊な魔力を吸収することで進化することもある。魔力で自己修復をする。

人類の魔力では使用不可。


----------


思ったよりすごい剣だった。というか、スキルの魔力吸収と自己進化は、もはや剣の領分じゃないだろ。


『カノン、思ったより不思議な剣だぞ。鑑定してみろ』


「鑑定?……進化?」


剣を鑑定したカノンが思わずつぶやいたのは、やはりそこだった。


「魔法剣って、進化できるんですか?」


「いや、そんなことはあり得ない。嬢ちゃん、鑑定持ちか」


ユーリは少し悩むそぶりを見せた。


「この剣はやっぱり鑑定してもらった方がよさそうだ。もし鑑定してもらって問題がなければ、嬢ちゃんが使ってくれないか?」


ユーリはそう言って魔法剣をカノンに差し出した。


「もちろんこの剣が嬢ちゃんに合えば、だが」


カノンはそのその剣を受け取り、軽く振り回す。


「ハク、魔力もらうね?」


『あぁ、でも室内だから慎重にな?』


「うん」


カノンはそういうと、魔法剣に魔力を流した。すると魔法剣が一瞬光った。


「うん。大丈夫そうだね」


カノンは満足げに呟くと、剣をユーリに返した。


「とてもいい剣だと思います。ですが、魔法剣は高いと聞いたことがありますが…」


カノンが言いにくそうに言った。


たしかにこの店に置いてある普通の武器でも、1万ゴールドが最低ラインだ。魔法剣なんて代物、下手をすれば桁が変わるだろう。カノンのランクでは、どれだけ働けば買えるのか分からない。


「いや、どうせこの剣はお嬢ちゃんくらいにしか使えん。お嬢ちゃんの買えないような値段にすれば、結局俺が損をしちまうんだ。でだ、この剣は、一旦しっかりと調べてもらってから売りたい。だからこの剣と、使い勝手の似ている普通の剣。二本で……1万5千ゴールドでどうだ?」


ユーリはそう言って置いてある剣の中から一本の剣を持ってきた。


「この剣なら量産品の安物で、こいつの代わりにもなる。重さも長さもほとんど同じだ」


ユーリはそういうが、その剣が置いてあった場所には1万2千ゴールドと書かれた値札が置いてある。確かにこの店の中では再安価に近い品物だろうが、普通にその剣だけでもいい気がする。


「あの、私、その剣だけでも……」


「あぁ、そうだろうな。お嬢ちゃんの今の実力からすれば、この剣でもしばらくは大丈夫だろうし、封印者(シーラー)なら魔法剣も必要ないかもしれん。だからこれは俺の我がままでもあるんだ」


「わがまま?」


カノンが聞き返すと、ユーリは頷いた。


「この店にあるのは全部俺が作ったものだ。作った身としては、どんな剣でも役に立ってほしいのよ」


ユーリはそう言って笑った。


「別に嬢ちゃんに特別サービスって訳でもねぇ。たまにこんな魔法剣なんかが出来ちまうと、それを使いこなせそうな奴に押し付けてるんだよ」


ユーリの言葉は半分以上は本心だろう。確かに自分の作品が、使い手に渡らずに倉庫の隅で埃をかぶっているのは我慢ならないだろう。だからそんな武器を使える客が来たのなら、格安で渡してでも使ってほしい。ある意味、その行動に矛盾はない。


ただ、自分の作品(子供)たちに活躍してほしいだけなのだから。


「ハク、どうしよう?」


『ん~、断るのも無理そうな雰囲気だしな……、そうだ。剣はその値段で買うとして、ついでに防具を頼んだらどうだ?せっかくだし、少しはこの店に金を落としていけばいい』


「防具?いる?」


「嬢ちゃん、防具の欲しいのかい?」


「なんか、そう言ってる」


カノンの言葉にユーリは一瞬考えたが、カノンが封印者(シーラー)であることを思い出したのか、納得したような顔になった。


「そうか、嬢ちゃんは自分の中の魔物と会話できるのか。で、そっちはなんて言ってんだ?」


「せっかくだから、防具もここで買えって…」


「なるほどな。しかし防具か……嬢ちゃんは冒険者が着ける防具についてどれくらい知ってる?」


「えっと……ギルドで見た感じだと……みんな動きやすそうな格好してた」


カノンの言葉にユーリは頷く。


「そうだ。冒険者の仕事ってのは戦うだけじゃないからな。できるだけ軽い魔物なんかの皮を使って作ることが多いんだ。そして一番大事なのは、本人の戦闘の邪魔をしないことだ」


そう言って指をさした先には甲冑があった。


「たとえばあれは、騎士や領主軍みたいな軍隊には需要があるが、冒険者には殆ど需要がない。何故かわかるかい?」


ユーリの言葉にカノンは少しだけ考えて、口を開いた。


「重くて動きにくくて……音がうるさいから?」


なるほどな、俺も重くて動きにくいまでは思いついたが、音までは考えてなかった。確かに金属がここまで多くては、動くたびに大きな音がしてうるさいだろう。軍隊では気にならないだろうが、個人で動く冒険者にとっては致命的な弱点になるだろう。魔物に自分の居場所を教えながら歩いていくようなものだ。


「そうだな、正解だ。そしてもう一つ、この鎧は人の振る剣は防げても、魔物の牙は防ぎきれない。だから魔物の相手をすることの多い冒険者は攻撃を受ける、ではなく、避けることに重点を置くんだ。だから冒険者にとっての防具は、基本的に魔物の攻撃を受けてしまったとき、死なないようにするものだ。つまり最低限の防御力があり、なおかつ体の急所だけは守り、それでいて自分の戦闘スタイルを阻害しないものが求められている」


ユーリはそこまで言うと、今度は革製の防具を指さした。そちらをよく見てみると、防具の種類がいくつかあり、それぞれで守れる場所が違う。


「例えば、魔術師なんかはそんなに動き回ることはないから面積の広い防具を使う、もしくは、最低限の防具だけってこともある。そのパーティで前衛後衛がしっかり分かれている場合、魔術師が攻撃の的になることなんかほとんどないからない。あとは弓士なんかは、弓を引くために利き手側だけ肩の部分が開いていたりな。でだ、封印者(シーラー)ってのは、数は少ないってのもあるんだが、封印している魔物や魔獣によって戦闘スタイルが全然違うんだ。基本的に特注になっちなうから、最低でも1万ゴールド、多少いい素材を使うんなら3万ゴールドってとこになる」


「ハク、どう思う?」


『まぁそんなもんだろ。特注でも安いくらいだと思うがな』


「ハクが安いくらいだって言ってます」


カノンが言うと、ユーリは少し苦笑いをした。


「まぁ…成人用の防具ならな。嬢ちゃんはまだ小さいから素材も少しは安くなるし、正直言って封印者(シーラー)の防具なんて作ってみたくて楽しみなんだよ」


なるほどな。確かに安めではありそうだが、赤字になるような値段でもないだろう。これで頼んでも問題なさそうだ。


『カノン。これで頼もう。』


「じゃあ…それで作ってください。予算は…3万でも大丈夫だよね?」


『あぁ、臨時収入もあったんだし、大丈夫そうだ元々武器だけでそれくらいは覚悟してたしな』


「3万ゴールドでお願いします」


「おう、分かった。じゃあ悪いが、嬢ちゃんの体のサイズを測らせてもらう。で、戦闘スタイルも教えてもらえると助かるな」


「戦闘スタイルは……私は剣と魔法中心ですけど…あとは、ハク、お願い」


なるほど、直接見せるのが手っ取り早そうだな。俺はカノンの手の先からスライムの触手を出した。


「な、なんだそりゃ!スライムみたいに見えるが……」


「多分今出てるのはスライムであってます。私の中いるハクはキメラドラゴンですから」


「キメラドラゴンって…よくそんなのを封印出来たな……、しかしそうか…キメラだから取り込みさえすれば……。その触手でのサポートもすごいが…ドラゴンなら嬢ちゃんは竜化か竜装みたいなスキルは持ってないか?」


「えっと……ハク、あったっけ?」


『竜装はあったな。さっき初めて知ったけど』


「竜装はあるみたいです」


「そうか、なら背中は空いてた方がいいな。竜装のスキルは背中から翼も出せるって聞いたことがあるからな」


ユーリはそういうと紙に書き込んでいく。


「後はその触手を出せる場所は開けた方がいいだろうな」


「あ、これはどこからでも出せるらしいです。流石に関節から出されると動きにくいですけど」


カノンがそういうと、ユーリはそれを書き込んでいく。


「分かった。じゃあ後はサイズ測定だな。店の奥に俺の妻がいるから測ってもらってくれ。今日はそのまま帰ってくれて構わない。料金は……すぐに出せるなら一旦3万ゴールドで受けるが、どうする?」


「あ、今全部払います」


カノンはそういうと、収納から金貨を4枚と小金貨を5枚出した。


ユーリはそれを受け取ると、カノンに剣を渡した。


「じゃあこれだけ先に渡しておくな。俺はこれから材料の発注に行くんで、後は店の奥にいる妻に聞いてくれ」


それだけ言うと、ユーリは店の奥から女の人を呼んだ。そしてカノンはその人に連れられて、店の奥に行き、サイズ測定をされたのち帰路に就いた。





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