出発…の前に
授業の最後にカノンとアイリスが呼ばれ、そのまま挨拶をして解散となった。
そして、カノンは寮の部屋に戻って荷造りをしていた。
因みにこの後アイリスたちの部屋に行って、リーゼの荷物を収納に預かる予定となっている。
「カノンさんはもう出ていくんですか?」
カノンの後に戻ってきたマルガレーテが、荷造りをしているカノンを見てそんなことを聞いてきた。
「はい、レセアールで調べないといけないこともありますし」
少しだけ名残惜しそうな表情をしているカノン。
「キュー!」
そんなカノンに縋り寄るアオ。
「え?…あ、少し待ってね」
そんなアオの様子を見て詠唱を始めるカノン。
……またこのパターンか…。
まぁ、もう慣れたけどな……。
俺が召喚されると同時に俺にすり寄ってくるアオ。
「キュー…」
『あー……』
事情は分かっているのか、寂しそうなアオに何と言って声を掛けていいものか……。
『一旦お別れだな……今度会った時はもっと大人になっとけよ?』
「キュ…」
『…痛いっての!尻尾噛むな!!』
少しむっとした様子のアオに尻尾噛まれた……。
「アオちゃん!やめなさい!」
慌ててマルガレーテが引きはがすが、アオは不機嫌そうな顔をしている。
「キュー」
「……せっかく会えたのに…だって」
カノンがアオの言葉を通訳してくれた。
というか、何で分かるんだよ……。
「……アオちゃんがここまでさみしがるのは初めてでしょうか?」
そんなアオの様子をどこか嬉しそうに見ているマルガレーテ。
「……いい事を思いつきました」
不意に、そんな事を呟いたのだった。
その後何とかアオをなだめ、マルガレーテの発案により難を逃れたカノン……じゃなくて俺か?
兎も角俺たちそのままマルガレーテの見送りで寮を後にした。
そしてそのままアイリスたちの部屋に向かい、そこでリーゼの荷物を収納。
リーゼを伴って学園を後にすることになった。
「そっか~、カノンちゃん達はもう戻るんだ。気を付けてね」
少し寂しそうな声で言うアイリス。
「はい、えっと……アイリスさんはこれからどうするんですか?」
「私は次の依頼があるから別の町に行くわ。しばらくしたらレセアールに戻るけどね」
つまりアイリスとはここでお別れという事だな。
「そうなんですか。頑張ってください」
「えぇ。またレセアールであいましょ?」
そこで今度はリーゼの方に視線を向けた。
「リーゼちゃんも、訓練は欠かさないよにね?油断してるとカノンちゃんはすぐに離れて行っちゃうからね?」
「はい!ありがとうございました!」
背筋を伸ばした姿勢でお礼を言うリーゼ。
「リーゼさん…どんな特訓だったんですか?」
興味本位からだろうか?
カノンがリーゼに聞く。
すると、突然リーゼの顔が青ざめた。
「……また…今度でいい?」
消え入りそうな声でそう答えるリーゼ。
……一体どれほどつらい特訓だったんだろうか?
「は、はい……そうします……」
最近砕けた物言いが多かったというのに思わずと言った感じで元の口調に戻ったカノン。
カノンも地雷を踏みぬいたと感じたようだ。
「え、えっと……とりあえず王都を出る前に挨拶しに行った方が良いよね?」
『そ、そうだな……ついでに詰所やギルドにも挨拶しておくとするか?』
「……そうだね。私も刀のお礼、改めてしたいし……」
お?少しだけ復活したか?
『じゃああいさつ回りをしてそのまま出発でいいか?』
「うん」
カノンが返事をし、リーゼも頷いている。
なら、それで行こうか。
「ではアイリスさん、私達そろそろ行きますね」
「えぇ、元気でね?」
「はい、ありがとうございました」
アイリスに見送られ、俺たちは寮を、そして学園を後にしたのだった。




