少し変わった
試験日の翌日、今日は合格発表があるらしい。
昨日の今日で早すぎないかと思ったが、遠方から来ている受験生に配慮して段々と発表を早くしていった結果、翌日にまでなったようだ。
そんなわけでセレンとアインの二人は試験結果が張り出される闘技場に行っているはずで、カノンはと言えば……。
「…………」
難しい顔をしながらその闘技場に向かっていた。
「白竜さん、カノンさんはどうされたのでしょう?」
カノンの横を歩いているマルガレーテが不思議そうに聞いてきた。
ここ二週間ほど一緒に過ごしたが、こんな顔をしたカノンを見たことはなかったのだ。
『俺にも分からん。カノン?一体どうした?』
「……少し引っかかるんだよね……態々セレンの学費を出すかなって……」
『両親の事か?』
俺の問いにカノンはゆっくりと頷いた。
「改心したって言うのならそれまでなんだけど、あれぐらいで改心してくれるのなら私は捨てられてないだろうし……なんか企んでそうで怖いんだよね……」
あぁ……。
一度会っただけだが、よくよく考えれば改心する理由にはならんだろうな。
『けどあの一件のお詫びって言うのならギリギリ納得できないか?』
一応は、自分たちのしでかしたことに対する損害を補填しただけとも言えなくもない。
「それも考えたんだけど……なんだかしっくりこなくて……」
この話に関して、カノンは自分の両親の事を知っているだけに納得できない部分が多いのだろう。
他人からすれば気にしすぎに思われるかも知れないが、カノンが自分の親の言動に違和感を覚えているというのなら放っておくわけにも行かないだろう。
特に、あの二人だ。
無駄に実力があるだけたちが悪い。
『一旦レセアールに戻った方が良いかもしれないな』
レセアールからアレーナ村まではカノンなら一時間程度で到着できる。
今度はこっそり村に入って、調べてみた方が良いかもしれん。
「……セレンが合格してるかどうかでそれも変わりそうだね。落ちてたらセレンだけでも護衛しないと」
アインはいいのか……。
気持ちは分からんでもないが……。
カノン達が闘技場に着くと、中から受験生たちが出てくるところだった。
落ち込んだ様子の受験生と、うれしそうな様子の受験生に綺麗に分かれている。
『さて、セレンたちは……』
「あそこだよ」
俺がセレンたちを探し始めるのと同時に、カノンは見つけていたようでセレンが居るはずの方向へ真っ直ぐに進んでいった。
「セレン~!」
セレンたちに近づきつつカノンが声を掛けると、セレンとアインがこちらに振り返った。
セレンは嬉しそうな顔、対してアインは何とも言えない顔をしていた。
「その様子だと受かったの?」
「……うん…私は…」
「ふ~ん、アイン、残念だったね」
カノンがアインに向かって言うが、本気で残念だとは思っていないだろう。
前ならここで反論していたアインだったが、意外にも難しい顔をして手にした紙を黙って見つめていた。
「あれ?」
カノンもこの反応は予想外だったようで、不思議そうにその手元を覗き込む。
『……補欠合格?なんともまた……』
反応に困る微妙な結果で……。
「……悪いかよ…」
ようやく口を開いたアインが気まずそうに言う。
「別に?セレンは?」
「……私は…普通」
「ってことはセレンは入学決定で……こっちは……」
カノンが隣にいるマルガレーテに視線を向ける。
「補欠合格は合格者の中に辞退者が出た場合に繰り上げで合格になる可能性のある状態ですね」
マルガレーテの説明により、納得した様子のカノン。
「ま、それがあんたの今の実力だったんでしょ?そもそもあんた魔法の練習も殆どしてないくせによく試験受けようなんて考えたね」
カノンの言葉に視線を逸らすアイン。
「…………悪かったよ…」
「ん?」
視線を逸らせたまま発せられたアインの言葉に、カノンが首を傾げた。
「お前の事馬鹿にして悪かったって言ったんだ」
それだけ言うとアインはそのままどこかへ行ってしまった。
因みにカノンもセレンもそれを追いかけようとしない。
『お前ら……いいのか?』
「大丈夫じゃない?でもあれどうしたの?頭でも打ったかな?」
「……多分…自分の事…理解した?」
「あぁ……あの結果と試験中の周りの様子で今の自分の立ち位置が理解できたって事ね……」
『なるほどな……村で一番って話なら調子に乗っても仕方ない……のか?』
井の中の蛙状態だったって事なのは確かだが……。
それならもっと早く自分を見つめなおすチャンスはあったんじゃないだろうか?
「……カノンちゃん…」
いきなりセレンがカノンに声を掛ける。
「え?……あ、そういえば紹介してなかった」
セレンの視線がマルガレーテとカノンを行ったり来たりしていることに気が付いたカノンが思い出したように呟いた。
そういえば……この二人初対面だもんな……。




