セレンを捕まえて…
その日の昼過ぎ、入学試験が終わって受験生たちが次々帰っていく中、カノンはセレンを探して入り口の前にいた。
受験生は全員がここの入り口を使うらしく、ここで待っていれば間違いなく見つけられるとマルガレーテが教えてくれたのだ。
因みに彼女はアオがお腹を空かせたため食堂へ行った。
そんなわけで、待つこと30分ほどで、ようやくセレンとアインが出てきた。
「セレン!」
カノンがセレンに向かって手を振る。
「カノン……ちゃん?」
セレンは少し驚いた様子でカノンを見つけ、走り寄ってきた。
「セレン!何で試験受けてたの!?」
驚いた様子のカノンがセレンに詰め寄る。
「あ……その……」
『おいカノン、少し落ち着け……』
「あ……ごめんなさい……」
カノンの剣幕に驚いて固まってしまったセレンだが、何とかカノンを落ち着かせれば段々と元に戻ってきたようだ。
因みにアインはカノンには気が付いているようだが、頑なに近寄ってこようとはしていない。
距離を取ってこちらの様子を窺っている。
「で、セレン?何で試験受けてたのか教えてくれない?だって村に戻って冒険者を続けるために親を説得するって話だったよね?」
「あ……うん、そうだったんだけど……」
『お前ら……本当に落ち着け……』
今俺たちがいるのは学園の門の前で、端っこには寄っているがそれでも十分に邪魔になっている。
『こんな場所で話すことでもないだろう。場所を移した方がいいぞ』
「あ、そうだね。セレン、少し移動しよ」
「うん……でも……」
頷きながらもちらっとアインの方を見るセレン。
カノンはその視線を追い、盛大なため息を吐いた。
「二人はもう宿取ってるんだよね?」
「う、うん」
カノンが何を言いたいのかはっきりとは分かっていない様子だが、質問に対しては肯定するセレン。
それを確認したカノンはアインの方を向く。
「アイン!セレン借りてくから一人で宿まで戻りなさい!」
それだけ言うと、カノンはセレンの手を引いて学園から離れて行った。
というか……。
『いいのか?』
「アインの事?大丈夫でしょ?何かあっても自己責任だよ!」
カノンとセレンがやってきたのは学園からほど近い飲食店だ。
お昼を過ぎているため客は少なく、カノンは二人分の昼食を注文するとすぐにセレンに質問し始めた。
「で、何でセレンが試験受けてたの?」
「あの……えっと……」
いつも以上にぐいぐい来るカノンに怯えつつも、相変わらずの言葉足らずでの説明をしてくれた。
それをカノンが訳してくれた内容によれば、中々に面倒くさいことが判明した。
まず、セレンは村に帰ったのち両親に対して自分の意思を伝えたそうだ。
つまり、冒険者になりたいと。
しかし、両親は猛反対をした。
これは俺もカノンも予想の範囲内だ。
何故なら、冒険者は命の危険のある仕事だ。
いくら本人が望んでいるとしても、親として許すことはできないだろう。
そんなわけで、セレンは親の猛反対を受けながら、冒険者を続けるために何とか許可を得ようとしていたようだ。
そもそも、そんなんなら最初の段階で二人を止めろと言いたいところではあるが、村の大人たちはFランク以上は試験があることを知っていたのでGランクの登録だけならと見過ごしていたらしい。
しかし、セレンはFランクになり、さらにこの先も冒険者を続けたいという。
セレンと両親の話し合いは平行線でどうしようもなくなっていたらしい。
そんな時に話に割り込んできたのが、セシリアとフレッド、つまりカノンの両親だった。
セレンは話し合いの中で、カノンと一緒に冒険者をやりたいと言った事も言っていたらしく、それがカノンの両親の耳にも届いたようだ。
で、セシリアからセレンの両親に提案があったらしい。
曰く、元々受ける予定だった学園の試験を受けて、学園に入学して無事に卒業まで行けるようなら、最低限の実力はあるとして認めてはどうか、と。
前の騒動の時のお詫びに、その費用はこちらが出すと言った提案をしたらしい。
提案とは言ったが、二人は冒険者だ。
この学園の難易度の噂くらいは聞いたことがあったはずで、半ばあきらめるように誘導していたのかもしれない。
というか、お詫びも何も元々お前らがまいた種だろとはカノン共々突っ込まないことにした。
そんなわけでセレンも試験を受けに来たようで、そこでカノンに見つかり今に至るわけだ。
因みに、両親の話を聞いたカノンは表情を変えず、一言だけ呟いた。
「…………少しは変わったのかな?」




