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カノンと武器

ギルドが紹介してくれた宿は、ギルドから近い場所にあった。受付には中年のおかみさんがいて、最初はカノンの事をいぶかしんだが、カノンがギルドからの紹介状を見せるとすぐに態度を一変、部屋に案内してくれた。その時おかみさんは少しだけ及び腰になっていた。


一体どんなことが書かれていたのだろう?




カノンが案内された部屋は、日本でいうビジネスホテルの一室のような部屋だった。しかし調度品は最低限ではあるのだが、一人用としては充分広い。ベッドもしっかりとある。しかし水回りに関しては、流し台のような排水スペースはあるのだが、それだけだ。たしかにこの世界で上水道完備というのは不可能だろう。女将さんの説明によれば、お風呂は共用の浴場が存在し、別料金とのこと、また、体を拭くためのお湯とタオルも桶一杯に付き50ゴールドとのことだ。


ただし魔法が使える冒険者の中には、自分で水やお湯を作る人たちもいるらしく、部屋を水浸しにしたりしない限りは自分で作っても問題ないらしい。


今回カノンは朝食、共同浴場の入浴券付きで1週間の連泊を頼んだ。それで料金は1日当たり300ゴールドらしいので、充分良心的な金額ではないだろうか?


「なんかすごい部屋だね~」


カノンは部屋に入るなり部屋の中を探検している。とはいってもそこまで見る場所があるわけではないので多分すぐに終わるだろうが。


「やっぱり町は違うよね。私が居たのは村だし」


『そうか、カノンは村の出身だから生活環境が違いすぎるのか』


俺がそういうと、カノンは首を横に振った。


「もちろんこんな感じの部屋がある家もあったよ。でも私の住んでたところって、そんなにお金必要なかったの。村で農作業して、出来た野菜や穀物を村にくる商人さんに渡して、そこでもらったお金でその場で買い物するだけだから」


そこまで言ってカノンは首を傾げた。


「そういえば私のお父さんとお母さんって……どうやって暮らしてたんだろう?」


『ん?普通に農業やってんじゃないのか?』


「それが…畑にいる所なんてほとんど見たことないんだよね…見たことあるのも他の人の手伝いみたいだったし……」


カノンの言う通りならカノンの両親は農業以外で生活していたことになる。でももし何かを作っていたりしたのなら、カノンがそれを知らないはずはないと思う。


確かに現代の日本であれば、親の仕事の詳細を知らない子供もいるだろう。しかしこの世界では子供であっても重要な労働力のはずだ。簡単な作業くらいであれば、子供でも手伝わさせるだろう。


『そういえばカノンは、剣術スキルを持っていたが…もしかして両親から習ったのか?』


「え?確かにお父さんに剣は習ってたけど…少しだけだよ?それがどうかした?」


『もしかすると、カノンの両親は…』


「やっぱりいいや」


俺が言おうとしたことを遮ってカノンが止めた。


「ごめんね、ハク。私、やっぱり少しだけ……悲しいかもしれない。なんか……ううん」


カノンは少しだけ悲しそうな顔をしたが、首を振って笑顔を作った。


「あのタイミングだったからハクに会えた。そう思えば悪いことでもないかもね」


そういうとカノンはベッドに腰を下ろした。


「ねえハク。私、どんな武器が似合うと思う?」


『武器?』


カノンのいきなりの質問に、俺は思わず質問で返してしまった。多分別の事を考えたいのだろうとは思う。この話を振ったのが自分なので少し罪悪感もある。だからすぐに反応できなかった。


「うん、私が使ったのって、ハクが変身してくれた剣と、模擬戦の時の奴だけでしょ?お金も入ったから、自分の武器を買いたいなっって」


そういえばカノンが今持っているのは、護身用程度に使えるナイフだけだった。確かに武器は買うべきだろう。しかしどんな武器がいいのだろうか?



『そういえばカノンは模擬戦の時バスタードソードを選んでたよな?なんでだ?』


「えっと、なんでだろ?少し振ってみたらしっくり来たというか…大きかったけど馴染んだというか…」


多分俺の魔力で身体強化が使えたのと、その時にはすでに竜装が半分覚醒していたのかもしれない。だから重い剣を問題なく触れて、感じた重さが村で振っていたものと近かったのかもしれない。


『なら……この町にも武器屋はあるだろうし、直接見て買うのが一番だろうな。実際持ってみないと分からないこともあるだろう』


「そうだね、うん。そうしよう」


カノンはそういうと立ち上がった。


『ちょっと待て!今から行くつもりか!?少し休んでからでも…』


俺はそういうが、カノンは首を横に振る。


「なんだか落ち着かないし、それに楽しみなの」


『楽しみ?』


「うん。ハクと一緒に強くなれるのが」


カノンはそういって部屋を出て行った。






















カノンは宿の女将さんに武器屋の場所を聞き、その武器屋に向かった。とは言っても、宿の二軒隣りだったけど……


その武器屋は、外見ではあまり武器屋とは分からない。むしろ何の店かよくわからないかもしれない。


店の正面は確かに何かのお店というか工房っぽく見えるのだが、看板も何もないので少し不安になる。


「……こんにちは」


カノンは恐る恐る扉を開けた。


そこには確かに様々な武器が並んでおり、一角には防具のコーナーもあった。革製の防具や、騎士のような金属製の甲冑まで、こちらも様々な種類が置かれていた。

そして店の奥から、店主と思われる男が出てきた。


いかにも職人といった佇まいであり、無精ひげを蓄えたおじさんだ。


「嬢ちゃん。うちの店に用事かい?ここは武器屋だぜ?」


多分カノンが間違えて入ってきたとでも思ったのだろう。確かにそう思ってしまうのは仕方ないかもしれない。


「いえ、武器が欲しいので…」


カノンの返事に店主は少し首を傾げた。


「武器?お嬢ちゃん、町の外にでも行くのかい?」


「あの、冒険者をしているので」


カノンがそう言ってギルドカードを見せる。


するとそれをみた店主の顔がだんだんと驚愕の表情に変わっていく。


「まさか、封印者(シーラー)とは……」


店主はそう言ってギルドカードをカノンに返した。


「勘違いして済まなかった。俺はユーリ、ここの店主をしている。で、武器といったが…どんな武器を探してんだ?」


「実は…まだはっきりと決まってなくて…」


カノンは申し訳なさそうに言う。


すると店主は腕を組んで少し考え始めた。


「お嬢ちゃんはいままでどうやって戦ってたんだ?」


「えっと、剣を借りたり、あと魔法で…」


「なるほどな。もし封印者(シーラー)じゃなかったとしたら魔術師か、剣術スキルと身体強化が使えれば……魔剣士ってとこになるな。うちじゃ杖は扱ってないから、選択肢は剣しかなくなるな」


ユーリはそういうと剣が並べられているところで物色し始めた。


しばらくすると、何本かの剣をもって戻ってきた。


「とりあえずこの辺りで試してみてくれ」


ユーリが持ってきたのは片手剣からバスタードソードまで、カノンが扱えそうなぎりぎりまでを幅広くといった感じだった。


カノンは迷わずに一番重そうなバスタードソードをつかんだ。そして軽く素振りする。


「もう少しだけ重いのってありますか?」


「あぁ、それより重い奴なら……え?」


ユーリが思わず固まる。カノンがバスタードソードを片手で振り回し、さらに重たい剣を要望したならしょうがないだろう。


「…………そういや嬢ちゃん封印者(シーラー)だったよな。なら……嬢ちゃん。悪いが少しだけ待っててくれ」


ユーリはそういうと店の奥に引っ込んでいった。




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