試験の日に備えて
カノンがアイリスの助手と、授業の見学を交互に繰り返す日々が始まって2週間と少しが立った。
その間にリーゼの本来の実力の確認や、魔銃の扱いの洗練など、慌ただしい一日を繰り返した。
リーゼの実力に関してだが、刀を十全に使える状態に関しては、接近戦ならカノンよりも上だということも分かった。
カノンが魔装での高速移動で接近しても、それを見切って攻撃してくる。
居合による攻撃は予備動作も少なく、俺の防御も追いつかない可能性が高い。
その代わり、居合にはかなりの集中力を使うらしく遠距離への対処がザルになっているが、近接戦闘、もっと言えば一対一の戦いにおいてではカノンに勝ち目はないだろう。
因みに居合、抜刀術は冒険者向きとは言えないスキルで、だからこそ冒険者をやっているとこのスキルを活かせる状況が少なく、実戦ではカノンには勝てないとは本人の談だ。
とは言っても、刀を使わない状態でもDランクとしては十分な能力があり、刀が直った今、純粋な戦力としてならCランク相当の能力はありそうだ。
因みに、リーゼ本人はこれでようやくカノンに近づけたと安堵していたのだが、カノンはカノンでさらに強くなっていたりする。
毎日練習を繰り返していたおかげで、魔銃の扱いが段々と上手くなっていき、ついにスキルを習得したのだ。
そのスキルは【射撃術】という。
本来は弓術スキルの亜種のようなもので、それが魔銃に一番適していたのでこのスキルを習得出来たのだと推測している。
因みに、このスキルのおかげで、弓もある程度は扱えるようになった。
しかもこの射撃術、かなり範囲が広く、魔銃や弓だけじゃなく、俺のスライム爆弾にも効果を及ぼしていたりする。
効果範囲がいまいち分かりにくいが、便利なことに変わりはない。
そして、一番の変化がカノンの戦闘スタイルだ。
今までは片手で剣を振り回し、もう片方の手で補助をするか魔法を行使する際の狙いを付けていたのだが、ついに剣と魔銃を同時に使うようになった。
右手で剣を持ち、左手で魔銃を持つ。
しかも、近距離射撃で相手の武器を弾き飛ばし、そのまま剣で斬りつけるなど、今までは出来なかったような動きも出来るようになってきた。
学園の休日を利用して、実践訓練もやってみたが、魔物相手でも問題なく戦えていた。
そんな感じで二週間ほどを過ごし、今は夕食後、アイリスに呼ばれてアイリスたちが泊まっている部屋にやってきていた。
「って訳で、明日は入学試験だから授業はなし。だから明日は休みでいいんだけど、入学試験の後って学園が長期休みになるのよ。で、そのタイミングでこの依頼も終了になるわ。だから後一週間くらいでこの依頼も終わりね。カノンちゃん達はこの後はどうするのか決めてる?」
この後……そういえばあまり考えてなかったな……。
「……ねぇハク?」
しかしカノンは何か考えているようだ。
『どうした?』
「前に言った……迷宮の話覚えてる?」
『あぁ、覚えているぞ。雪の迷宮だったか?』
「うん、行ってみない?」
そういえばあの時はランクを上げないと入れないからランク上げをしようって話で終わったんだったな。でも結局そのあとは成り行きでランクが上がっていったからいつの間にか条件を満たしていたんだな。
まぁ、そのままアイリスに振り回されて今ここに居るわけだが……。
『そうだな。確かにいい機会か……』
リーゼもDランクだし条件は満たしている。
問題なく入れるだろう。
「リーゼさんも行くよね?」
「うん、カノンが行くならついて行くよ」
リーゼも承諾したし、この依頼が終わったら次の目的地は迷宮か。
「……雪の迷宮ね…ってことはカノンちゃんとは一旦お別れになっちゃうわね」
心の底から残念そうにアイリスが呟く。
『アイリスは何か用事でもあるのか?』
「私宛の指名依頼がいくつかね……断ろうかしら?」
断る理由にカノンを使わないでもらおうか?
「アイリスさん……私を理由にしないでください」
カノンからジト目を向けられたアイリスが慌てて目を逸らす。
しかし……入学試験か……。
『また一波乱ありそうだな……』
見学できるなら見学してみたいが……。




